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闇夜に踊れ、恋が始まる ー20ー

「あったりまえでしょう!!」


 馬鹿馬鹿しい、とばかりに柘榴はテーブルを軽く叩いた。

 そして大真面目な顔で告げる。


「会いたいと思っていなければわざわざここに来ないですよ。そんなにヒマだと思われておりますか、私!魔女とはいえ、時間というものは有限なんですよ!」

「そ、そうじゃなくてだな……ふふふ」

「は?なんですか?聞いたのは貴方ですが!は?」


 口元を押さえて笑っているゾーイを柘榴が指さすと、ゾーイは堪えきれないとばかりに「あははは」と大声をあげた。

 作り物みたいな、といってしまうと彼のアイデンティティに触れてしまうけれど、それでも柘榴は思わずにはいられない。


 ゾーイの笑った顔は作り物みたいに美しい。

 それを壊さんばかりに笑う今も、美しい。

 夜の闇に溶けていくみたいだ、キラキラと輝くその髪が星になったといっても信じてしまうくらいに。


「…………ご存知だろうけど、俺は創りものだ」


 散々笑ってから、ゾーイはそういった。

 違う、ともそうともいえなくて、柘榴は黙ったまま次の言葉を待つ。

 夜の風が吹いた、何処かで鈴の音がした。


「この国のために役に立つ人材として、まぁ色々いじられて生まれた。俺はこの国の役に立たなきゃいけないんだ、それが産まれてきた理由で、俺が生きる理由だから」


 このゲームではそれぞれが「生まれてきた理由」、「生きる理由」を抱えてる。


 例えば冬青(そよご)四方木(よもぎ)家のため。

 いざとなれば柘榴に代わり、鬼一族最強の四方木家を継ぐために生きてきた。

 しかしそれは冬青の重りとなり、前世(きおく)を思い出す前の柘榴と険悪となり、孤独に生きていくことにさせてしまった。


 アルカードもヘイグ家のため。

 代々続く名前を引き継ぎ、次の世代に受け継がせるためだけに生きていると思ってる。

 そのために普通に生きなければならない、と。

 それで夢を諦めようとするのだ。


 ブレイクもそう。

 ゾーイを守り、この国を守ることが己の生きる理由だと信じてる。

 ブレイクはそこがブレない。

 国やゾーイのためならば、と暴走することもあるけど。


 そして、四方木 柘榴も。

 彼女は信じてる、自分という存在は鬼の地位を高めてこの国を「正常」に戻すために生きているのだ、と。

 それこそが自分の生まれてきた理由なのだ、と。


 柘榴のいう正常とは鬼一族だけを高潔で完璧で最高だとみなすことであり、それ以外の一族を下に見ること。

 そのため、主人公(ヒロイン)という迫害される側からすれば柘榴の考え方は本当に悪で、ダメで、最悪の最期を自ら選んでしまったようにしか見えない。


 けれど、どれだけ迫害されようが魔女としては生きて死んだ人間にとっては、四方木 柘榴が貫き通したその純粋さが好きだった。

 その純粋さゆえに柘榴は悪役令嬢として罰せられる。

 それでも最期まで。

 最期の最期のその瞬間まで。

 柘榴は助けを求めても自分が間違っていると認めない。


 そして今の柘榴にとって。

 処刑されることこそが生きる理由だ。


 だからゾーイが生まれてきた理由に固執することは柘榴もよく理解できた。



「だからお前と婚約を解消しようと思う」



 ただ、その発言に関しては全く理解できなかった。


「…………そもそも私達、婚約はしておりません、よ、ね?」

「ああ、してない」

「してない婚約を解消する…………?」

「そうだ」


 なーーーにをいってんだ、この王子は。

 もしかして寝ぼけているのだろうか?

 いやそもそも寝ぼけているのは私……?


 そこまで考え、柘榴はふと笑った。


「とりあえず話を聞きます」

「優しいね、お姫様」

「ありがとうございます」


 本気で全然わからない。

 とりあえず話を聞こう。


「俺はこの国のために創られた。俺の存在意義は……まぁこんなことをいってしまうのは癪だがね、この国を発展させるためにある。良き王、良き息子、良き王子でなければならない」


 しかも俺にはその素質があるみたいだしね、とゾーイは自信満々に付け足す。

 それは聞く人によっては傲慢にも聞こえるかもしれないけれど……

 ゾーイの優秀さをよく知っている柘榴は「そうですね」なんて頷いた。



「だから死神とは結婚できない」



 髪の隙間からこちらを覗いて。

 赤い目で柘榴を眺めながら、ゾーイははっきりといった。


 死神。鬼でありながら魔女の素質を持つ柘榴のこと。

 死神。それはこの国にとっていてはならない存在。

 悪を、不運を、災いを呼び寄せるといわれる存在。


 もしも柘榴が四方木家でなければ……

 それこそ殺されていたっておかしくないほどに、死神というのは忌み嫌われているのだ。


 だからそんな存在が、将来的に王になるかもしれないゾーイの婚約者候補なんて相応しくない。

 その主張には柘榴とて大いに納得できる。

 王家というものはいうなれば人気商売なのだから。


 しかしーーー……


「お話はよくわかりました」

「君の理解が早くてよかったよ」

「で、貴方の意見は?」

「え?」

「貴方はどう思っていらっしゃるんですか?」


 ゾーイは、ひどく驚いた顔で柘榴を見た。

 いや、逆になんで……?


お久しぶりです……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私が好きなのは今の柘榴ちゃんですが、『助けを求めても自分が間違っていると認めない』ゲームでの柘榴に思わず惹かれてしまいました。本心から自分の行いを正しいと思うことができ、最期まで信念を貫け…
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