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闇夜に踊れ、恋が始まる ー19ー

(成る程。これは避けられていますね、完全に)


 会おうとしているのに会えない。

 あちらからは会いにも来てくれない。

 あからさまに会おうともしてくれない。

 いつからだろうと考えてみれば、冬青(そよご)を見送るパーティーからだ。

 特段変なことをしただろうか…………


(いや……まぁ変なことしかしてないですけども!)


 あのパーティーでブレイクが「柘榴が俺の飼主(マスター)」と堂々と宣言した結果、鬼姫に脅されているやら騙されているといった噂が出回っているし。

 アルカードが泣いたものだから「鬼姫が泣かせた」という悪名が一人歩きしているし。


 こんなことになるはずではなかったことは確かだが、こんなことになってしまったものは仕方ない。

 理由はむしろ心当たりがありすぎて困るくらいだが、ゾーイが避ける理由に柘榴は心当たりはなかった。


(まぁ別に構いませんがね。何ていったって私は悪役令嬢。嫌われるのは当然です、むしろ最近の好かれっぷりの方がおかしいといわざるをえませんし。死刑というゴールが待っているんですから)


 むしろゾーイに嫌われていた方が好都合。

 柘榴は「やれやれ」とばかりに、読んでいた本を閉じると本棚に直した。

 ふと、そこで1冊のある本に気付く。


 分厚い本を取り出し、柘榴は表紙を眺めてみた。

 こんな本、買ったことあったっけ?


 柘榴はジャンル問わずに多種多様な本を読む方だが、専門書のようなものは少し苦手としている。

 その分厚い本はまさにその専門書。

 柘榴自ら買うとは思わない。


「何でしたっけ、これ……魔法に関する科学的な考察と検証…………」


 ああそうだ。

 そういわれればこれは、ゾーイから借りていたものだ。


 面白いから読んでみろとゾーイに渡されたそれは、論文がびっちりと詰まっている本だった。

 読んでみれば実に面白かったので、ゾーイに返す際に感想をいい合おうと思っていたのだ。


冬青(そよご)兄様(あにさま)に渡すのを頼もうかしら……あっでも駄目ですね、兄様はもうすぐ化物学園に行くわけですし」


 頻繁に帰ってくると宣言しているとはいえ!

 冬青がゾーイと会う機会も、今よりは減るだろう。

 それにこれは柘榴が借りたもの。

 冬青から返してもらうなんて、個人的に気を悪くさせそうで申し訳ない。


「まぁまぁいいですよ。お茶会か何かで会う機会もあるでしょうし。それすらも避けられたとしても化物学園に入学すれば強制的に毎日顔を合わせますし」


 何の問題もないですね!アッハッハ。

 パタン、と本を閉じた柘榴は分厚い本を戻そうとしたまま、固まる。


 何の問題もないのだ、正に。

 柘榴が嫌われているなんて当たり前のことだし、むしろ嫌われていた方がいい。

 何ていったって死刑を目指しているのだから。


 しかし死刑になるまでは柘榴は青春を存分に謳歌したいし、それにあっちがどう思っていたかはわからないが、柘榴にとってみればゾーイは友人のつもりだったし、ゾーイにこんなに会えないっていうのも意味がわからないし、理由くらい話してくれたって……モニョモニョ。


「あーーー!もう!悩んでいたって仕方ないことで悩んでる場合じゃないですね!馬鹿馬鹿しい!あっちが会いたくないというならこっちだって会いたくないですよ!」


 ふーーんだ!

 そっちがそのつもりならいいですよ!

 何度も会いに行ってるし誘っているのに、会ってくれない方が悪いんですからね!


 柘榴はムシャクシャとした気持ちをそのまま、ツンツンとした態度に表して心の中で唱えた。

 ばっかばかしい!と。

 聞かなきゃわかんないことを悩んでいたって仕方ない!と。


 そしてーーー……



「嫌がらせしに来てやりました!!」



 その日の真夜中。

 城の最上階に程近いゾーイの部屋のバルコニーの外の空中にて。

 柘榴は仁王立ちで、そう力強くいいきった。


「お前…………!」


 ゾーイが目を丸くしている。

 そりゃそうだ、周囲を見渡したってここには同じレベルの建物なんてものはない。

 それなのに柘榴がここにいるのだから、王城のバルコニーに。


「ええ。私です。四方木 柘榴ですよ。アナタが会いたくないというので会いに来てやりました!嫌がらせです!嫌でしょう!知りません!」


 ツン!と顔を背け、柘榴は更に少しだけ上に浮き上がる。

 バルコニーの縁を仁王立ちのまま超えると、颯爽とそこに降り立った。

 足場となっていたホウキは従順たる犬のように、柘榴の手におさまる。


「待て、お前……っハハハ!ほ、本気か!?本気で柘榴、お前……!ホウキで飛んでここまで……!しかも仁王立ち……!ホウキで立ち乗り……!」


 呆然としていたゾーイは、状況を理解すると腹を抱えて笑い出した。

 柘榴はそんなゾーイを尻目に、さっさとバルコニーに設置されたテーブルセットに腰掛けた。


「煩いですよ、夜なんですからお静かに」

「ちょっと、待てフハハハハ!ホウキ、ホウキ見せてくれ!頼む!ハハハ!」

「もう消します。指パッチンで消えます。はい消しました。紅茶がいいです」

「待て、お前ハハハハ!嫌がらせ……最高の嫌がらせだなぁ!?」


 じろり、と柘榴が睨むとゾーイは口を閉ざす。

 笑いすぎてバルコニーに崩れ落ちていたゾーイは、何度か咳払いしてから涙を拭って部屋の中に戻った。

 すぐにカチャカチャと音がする。

 ゾーイはポットとカップを両手いっぱいに持ってくると、柘榴が待つテーブルに乗せた。


「ソーサーと菓子はお待ちください、お姫様。俺も魔法を使えれば持って来れたのですが」

「あら王子様。わかっておられませんね。魔法使いはソーサーとお菓子を持ってなんか来ません」


 やけに恭しく告げるゾーイを真似、恭しく返した柘榴は既に脳内で作り上げていた魔法陣を発動させる。

 ぽん!と気持ちの良い音がしたと思うと、飾り気のないテーブルは白いクロスが敷かれた。

 ソーサーだけではなく、ティースタンドに載ったお菓子や軽食がテーブルの中央に出現する。


「これはこれは……便利だな、一家に一台魔女が欲しいね」

「確かに便利ですけれど、魔女に会いたくない人もいるでしょうしやめておきましょうよ」


 にっこり、と柘榴は笑った。

 わざとらしいほどにっこりと。

 魔女(わたし)を徹底的に避けていたのはお前だぞ、説明してもらうからな、という強い気持ちを込めて。


 しかしゾーイは柘榴のその「わざとらしい」笑顔に怯むことなく、むしろにっこりと笑い返した。

 実に楽しげににっこりと。


「会いたくないわけじゃなかったんだがね」

「はぁ?あれだけ避けていたのに?何馬鹿げたこといってんですか」


 こっちはね!

 ゾーイに会おうと思って何度城を訪れたと思ってるんですか!

 手紙だって何枚も送ったんですよ!全部無視されましたけどね!


 柘榴はぷんぷんと怒りながら、自分がいかにゾーイに会おうとしていたかを語った。

 それなのにアナタって人は全く返してくれませんでしたけどね!

 と、最後にそう締めると、スコーンを食べていたゾーイは見るからに上機嫌そうに微笑む。


「そんなに俺に会いたかった?」


 何をいってんだ、こいつは。

 柘榴は眉を寄せた。



引越しとか仕事再開でドタバタしてました!

地道にアップしていきたい!

コメント、評価、ブクマ……

本当に励みになってます!(*´-`)

ありがとうございます!

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