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闇夜に踊れ、恋が始まる ー18ー

「ゾーイはおりますか?」


 その日の夕方。

 ちょうど父が王城に用事があるということで、共に連れて来てもらうことができた柘榴もそこにいた。

 幸運なことか、もしくは残念なことなのか、柘榴は国中からとんでもなく嫌われているため、過保護である両親と義兄は柘榴を外に出したがらない。

 それでも父と一緒だし、行く場所は王城、ということで今回は許可が下りたのだった。


 王城内であっても危険だろう、と父は柘榴に数人の鬼を警護につけた。

 いざとなれば世界だって破壊できるのに。

 柘榴はそう思ったが、何もいわずに従う。

 ここで父に逆らい、外出禁止にでもなったらやってられない。


 実際のところ、現在の柘榴は鬼族で魔女という奇怪な立場。

 死神と恐れられてはいるし、ゴミのように嫌われていることはもちろんだが、人狼族のブレイクの飼主(マスター)でもあるので迂闊に手出しはできないがーーー……父にとって、柘榴はいつまでも可愛くて弱いお姫様なのである。


 警護はいるもののある程度自由になった柘榴は、ゾーイがよくいる専用の執務室に行こうとした。

 きっとそこにな義兄もいるだろう。

 しかしその道中、ふと目に入って来た来た人物に気を取られて見つめていると目が合ってしまったのだ。

 柘榴は一瞬だけ動揺した結果、とりあえず冒頭の台詞を述べた。



「お、王子様!?え、えっと、あの、執務室におられると思います!」


 ビシッ!と姿勢を正し、目の前の少年は告げる。

 彼も彼で酷く動揺しているようだった。

 銀色にうすーーく緑がかった髪に、オレンジ色の瞳。

 頭の上には同じ色の垂れた犬耳が生えてふさふさとした尻尾が出ている。


 人狼であることは見るからにわかる。

 けれど通常の人狼とは違う。

 一般的な人狼は感情が昂った時以外、獣耳や尻尾を他人に見せることはないからだ。

 特に尻尾は感情がストレートに表現されるため、自分にとって大切な人にしか見せることはないといわれているーーー……実際に柘榴はブレイクの飼主であるが、ブレイクの尻尾は見たことがない。

 尻尾が見えているかのような時はあるが。


 けれど目の前の少年は耳も尻尾もある。

 そして柘榴は彼のことをよく知っていた。

 知っているからこそ、思わず見つめてしまっていたのから。


(か、隠しキャラのロウくん……ロウ・ロバーツくんに会えてしまうなんて!!!攻略対象で唯一の年下キャラなので主人公ちゃんが2年生になるまで正式に登場しないんですよね!!実際のところ体力と知力が一定数以上で休日に街に出ていると、ランダムでイベントが発生して顔だけ登場しますけれど!!まさか王城で出会えてしまうとは!!え、待ってください!私ったら、入学前に隠しキャラ5人のうち3人に会っちゃってるじゃないですか最高ですか!!)


 もしも柘榴が実際に胸中の言葉を口に出すことができていたとしたら超絶早口だっただろう。

 オタクにしかわからない感動を深く深く飲み込みつつ、柘榴は見た目だけは大人びた笑みを浮かべた。


「あらそうですか。ありがとうございます、ロバーツさん」

「い、いえ…………あの、僕の名前をご存知なんですか?」

(や、やってしまいましたーーーーー!!)


 ロウに尋ねられ、柘榴はぴたりと動きを止める。

 やらかした。

 ついつい顔見知りのテンションで名前を呼んでしまった、出会ったこともないのに。

 何といっていいかわからず、柘榴は暫し固まる。


「…………そりゃあご存知、ですよね。僕のことは」


 ロウの薄く緑がかった尻尾がしゅーんと項垂れている。

 柘榴は頭の中で思い切り自分の頬を叩く、もちろんそんなのご存知ですよと叫びたくなる自分を戒めるために。


 そんなの!もちろん!知っておりますとも!

 ロウくんは人狼と人間のハーフ!

 だから犬耳と尻尾が隠せないし、それを悩んでいるってことも!

 けれどロウくんのお兄ちゃんもロウくん自身も、類稀なる努力をしてお兄ちゃんなんて騎士団の団長にまでなっているってことを!


(けれどそれはいってはいけません!聞いてないから!いやでも私は四方木家の人間!もちろんそんなことは存じているのでは!?そりゃそうですよね!だって柘榴(わたし)、めちゃめちゃにハーフとか嫌いだった人ですし!)


 これは既に一度か二度か三度か四度、ロウくんと揉めてるのかもしれないぞ!?

 ありえる!だって私の好感度、ゴミと同じくらいとしかいいようがないですし!

 謎の自信を持ちながら、柘榴は己の手をぎゅっと握った。


「もちろん知っておりますとも、あなたのことは。有名ですから」

「そうですよね、僕は……」

「努力家だと聞きました。素晴らしいですね。尊敬しております。それでは」


 これ以上変なことを口走ってしまうことだけは避けたい。

 柘榴はにこ、と微笑むと軽く会釈し、その場から早急に離れる。


(ロウくんは個人的に大好きなのですがねぇ……あの希少なルートを含めて)


 どこから見ても爽やかで、どこから見ても好青年で、アイドルみたいなロウ・ロバーツ。

 けれど彼は最大の特徴を抱えている。

 それは「ヤンデレ」。

 彼はブレイクを敬愛しているが、内心は全世界に対して嫉妬心が疼いており執着心も強い。

 ブレイクの好感度と彼の好感度の関係によっては主人公を殺して共に死ぬエンドがある、化物学園きっての闇キャラとして評判なキャラクターなのだ。


(学園に入ったらもっとお話しする機会もあるでしょうかね)


 自分は悪役令嬢なので関係ない。

 柘榴が能天気にそう思っている裏腹、ロウは去りゆく柘榴の後ろ姿を見つめながら胸を押さえていた。


「四方木 柘榴様…………」



○○○



「ゾーイに会えないのですか?」

「申し訳ございません、ゾーイ王子は大変お忙しく……」

「あら、それは大変ですね。では申し訳ございませんが、これを渡していてもらえますか?お漬物です」

「つ、漬物?わ、わかりました……」


 せっかく来たというのに、執務室の前で追い返されてしまった。

 まぁそういう時もあるか!

 なんて柘榴は特に気にすることもなく、父と共に義兄を待って王城を後にする。

 まぁすぐに会えるだろう、ゾーイもよく家に来るし。

 その時の柘榴はそう思っていた。


「申し訳ございません、ゾーイ王子はお忙しく……」

「誠に残念ではございますが、王子様はご参加できないとのことです」

「ゾーイ王子は多忙でございます」


 まさかそこから1ヶ月もの間、会えないとは思ってもいなかった。

 遊びに行っても、ご飯でもいかがと手紙を送っても、一緒に梅を見ながら短歌でも詠みましょうと誘ってもゾーイからの返事は全て「NO」。

 行くといっていても直前で断ったりすることもあった。


「もしかして私って……ゾーイに避けられております?」


 そしてようやく、鈍い柘榴がそのことに気付いたのは義兄が入学する3日前のことだった。




隠しキャラ!

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