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闇夜に踊れ、恋が始まる ー14ー

それは実に華々しいパーティーだった。


 高級旅館のような四方木家は様々なところがオレンジ色にライトアップされ、闇夜にそっと輝く。

 漆喰の壁を照らす様は何ともいえない美しさを醸し出していた。

 鯉が遊ぶ池や、枯山水の庭にもライトが浮かぶ。

 オレンジのライトが映えるよう、わざと光を消しているところもあるので尚のこと黒に強調され光の美しさが際立っていた。


 そこに集うのは着物姿の男女。

 普段はほとんどを洋装で過ごす一族も、今夜ばかりは華やかな着物に身を包む。

 パーティーに参加する際は、主催者(ホスト)の一族の格好に従うのがこの世界でのマナー。


 しかも今夜の主催者は鬼族の中でも王の一族と呼ばれる四方木家。

 それだけでも招待された人々は他の鬼族のパーティーに参加する時に比べてぐっと華やかな和装になるというのに、今回は柘榴の名で招待状が送られていた。


 今回のパーティーは鬼姫柘榴にとって、生まれて初めての主催である。

 悪名高き柘榴の名前での招待なので、ほとんど人は来ないんじゃないかと思われていたが……

 逆に「あの」柘榴が主催だなんて物珍しいと、参加したいと返事をしてきた人が多かった。

 その結果ーーー


「柘榴。今夜はお招きありがとう……君は大丈夫か?」

「いえ…………大丈夫ではないです」


 来客対応疲れでげっそりとしていたらしい柘榴は、着物姿のゾーイに心配される有様だった。

 鶴の柄が入った華やかな白と赤の着物を着たゾーイは、心配そうに眉を寄せる。

 作り物みたいに美しいゾーイは少し中性的でもあるので、男性には珍しいそんな色合いもびっくりするくらいに似合っていた。


 目の色も赤なのでよく映える。

 髪の毛も金色のワックスか何かで飾っているらしい。

 豪華で華やかな雰囲気をまとう彼は、そこにいるだけで誰もが振り返っていた。


「あーー今夜まで順調ではなかったらしいな?」

「そうなんですよ!兄様が!」


 柘榴は思わず声をあげる。

 招待客が来るのは一段落したのはよかったが、ここまでこぎつけることがどれほど大変だったか……

 思い出したくない日々が脳裏をよぎり、柘榴は大きな溜め息を吐いた。

 何といっても原因は義兄、冬青(そよご)である。


「大反対したんです!今夜の主役は兄様(あにさま)なのに!」


 どういうわけだかゾーイは、柘榴のそれを聞いて笑いを噛み殺すかのように震えていた。

 笑い事ではない。

 本当に大変だったのだ!



◯◯◯



「お兄ちゃんは認めません!!」


 バン!と冬青がテーブルを叩く。

 テーブルを挟み、兄の前に座っていた柘榴は眉を寄せた。


「い、いいじゃないか、冬青。寮に入る兄弟のためにパーティーをするというのはよくあるぞ?」

「そうよ、冬青。特別階級ではなかなか寮に入る人はいないけど……けれどあなたはほら、柘榴ちゃんのために入ってくれるんだからパーティーくらい開催させてちょうだい?」

「ありがとうございます、父様。母様。しかし!ダメです!」


 冬青の勢いにさすがに驚いたのか、父と母もそうフォローに入る。

 しかし冬青は頑なだった。

 普段はそこまで反対しないというのに首を縦に振らない。


「冬青兄様はお名前の中に青という漢字が入っておりますし、やはり招待状は青っぽい色の紙にしましょう。こちらがいいですね」


 しかし柘榴は全く聞いていなかった。

 女中の芹にそう告げ、サンプルとして取り寄せていた紙を返す。

 招待状もこだわりたいと、色やら素材やらを見ていたのだ。


「か、かしこまりました、お嬢様」


 本当に大丈夫なのか……?

 芹がそう疑っているような顔を浮かべながら、いそいそと部屋から出て行った。

 よし、次は……と。

 柘榴は自作の「やることリスト」を取り出し、上から順に眺めていく。


「柘榴……クフフ。困ったちゃんですねぇ、お兄ちゃんの話を聞いていないふりをするなんて」

「いや、聞いてないんですー」

「何で聞いてくれないんですか?クフフ、そうか。アレですね?そうやって冷たくしてお兄ちゃんの気を引きたいんだね。何と愛らしい……でも、ダメ。パーティーはさせないから」

「あ、そうなんですねーー」


 冬青の話を聞き流し、柘榴は招待客のリストアップを開始した。

 といっても、ゾーイがお茶会で呼ぶ同年代の特別階級を中心に呼ぶので普段とあまり代わり映えはしない。

 けれど今回は「冬青のさよならパーティー」という名目であるため、兄弟や姉妹や従兄弟を連れてくるのは大歓迎!たくさんの皆さんで義兄(あに)を応援してください!という名目にするつもりだ。

 だってーーー


「お兄ちゃんが主役なんですからね、お兄ちゃんがやりたくないといったらやらないんですよ」

「いや、冬青兄様がやらないといっても開催します」


 今回はブレイクの婚約者を探すのだから。

 名目上は冬青だが、関係ない。

 きっぱりと柘榴がいいきると、冬青はバン!とテーブルを叩いた。


「ぜーーーーったいにダメ!お前の可愛さが世に知れ渡ってしまったら、お兄ちゃんは……お兄ちゃんはどうしたらいいんですか!父様も母様も止めてください!」

「確かにそれはダメだな冬青!し、しかし父親として柘榴ちゃんの応援をしたいっていうか……頑張る柘榴ちゃんは可愛いというか!」

「わかります父様!!」

「お兄ちゃんにいいところを見せたくて頑張ってるのよ、柘榴ちゃんは!」

「健気ですね、さすが柘榴!母様!カメラに収めていてください!お兄ちゃんのために頑張る柘榴を!」


 何か変なところで盛り上がってる家族は置いておいて、柘榴は続けるのだったーーー

 誰がなんといおうと関係ない!


 そう決意したのはいいものの……

 そこからも義兄は反対し、父親は柘榴を応援し、母親はカメラを回すことが何度かあったりしたのだった。



◯◯◯



「本当……冬青兄様の説得に一番時間がかかりましたよ」

「それは大変だったな」


 ゾーイがクスクスと笑っている。

 一体何がおかしいっていうのか。

 柘榴は問い正したかったが、視界の端にある人物が入ったので口を閉ざした。


 紺一色の着物をシンプルに着こなす青年ーーー柘榴的に今夜の勝手な主役の1人、ブレイクである。

 ブレイクは柘榴とゾーイが並んでいることに気づき、スタスタとこちらにやって来た。


「柘榴。今夜はお招きありがとう、良い夜だ」

「ありがとうございます」


 柘榴に会えて嬉しいらしく、ブレイクはへらりと笑う。

 しかしすぐに、金の視線をゾーイに向けた。


「ここにいたのか。探したぞ」

「おいおい、楽しい夜に暗い話はやめてくれよ」

「暗い話ではないが仕事の話だ」

「つまり暗い話じゃないか」


 ブレイクとゾーイは何かを話し出す。

 柘榴はブレイクを見遣った、どうやら彼は今来たばかりのようだが楽しんでいただけるだろうか?

 自分主催では初めてのパーティーだ、柘榴は少し不安に思う。

 魔女としても日本人としても過ごしてきたが、パーティーの主催は本当に生まれて初めてだから。


(それにしても……さすがブレイクですね!)


 ブレイクの着物は紺一色でパッと見るとシンプルに見えるが、帯や留め具に目の色と同じ金色をアクセントに使っており上品で美しい。

 ブレイクは鍛えていることもあり、体格がいいので着物もよく似合っていた。


 ゾーイもそうだが、ブレイクの着物姿も珍しい。

 ブレイクを見て周囲の女の子達は色めき合っていた。

 振り向いたり、女の子同士でブレイクを指差しながらこそこそと内緒話をしたり、頰を赤くしていたり……

 柘榴は内心、大きなガッツポーズをする。


「それで……柘榴」

「はい?」

「どう、だろうか?」


 来た!これは!

 飼主(マスター)に褒めてほしいタイムだ!

 少し照れた様子でブレイクがこちらを見ている。

 実はこれをシミュレーションしていた柘榴は、落ち着きながら返した。


「素敵ですね!皆さんに自慢して来てはいかがですか?」


 パァ!とブレイクの顔が晴れた。

 よし!この反応だ!


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