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闇夜に踊れ、恋が始まる ー12ー

「………………」


 さっきから柘榴は無言だった。

 というよりは、何を口にすればいいかわからなかった。

 目の前ではアルカードが熱弁している。

 正直にいってアルカードが何をいっているかあまりわからない、聞いてないからだ。


「聞いてる?柘榴ちゃん!」

「正直『誘拐された』という事実が面白おかしくてあんまり聞いてないですね」


 ふふふ、と柘榴は笑った。

 そう、現在進行形で柘榴は誘拐されているのだ。

 誰って、この目の前のアルカードに。



 あれは今朝のことだった。

 池の鯉にエサをやっていると、朝だというのにコウモリが飛んできて柘榴の肩にとまったのだ。

 あら可愛いコウモリね、なんて思っていると、その可愛いコウモリは見かけとは裏腹の渋い声でいった。


『柘榴様、大変不躾なお願いで申し訳ありませんが、少々誘拐されてくださいますか?』


 驚いた柘榴の動きが止まったのはいうまでもない。

 まさかそんな散歩にでも行こうかってくらい気軽に、誘拐されてくれと頼まれるとは思ってもいなかった。


 けれど楽しくなさそうだといったら嘘になる。

 そう思った柘榴は、そのコウモリの指示に従って自ら誘拐のお手伝いをしたのだった。

 「娘は預かった!」とか記してあるらしい、封をしてある手紙を自分の机の上に置いて。

 心配してはいけないので、近くに「ちょっとアルカードさんの家に遊びに行ってきます」とメモを書いて。


 どうしてそれがアルカードの仕業だとわかったといえば、その手紙の封。

 蝋で閉じられているのはいいのだが、ヘイグ家の紋章が入っている。

 あまりに堂々と家紋が入っているので、逆に罠かと疑ってしまったくらいだ。


 けれどその疑いも、裏口から四方木家の外に出たところで待っていた馬車を見て吹き飛んだ。

 その特徴的な全てが真っ黒な馬車は、誰がどう見たってヘイグ家の馬車なのだから。

 柘榴は渋い声のコウモリに勧められるがまま馬車に乗り、見覚えのありすぎるヘイグ家の城にやってきて、そしてそのまま応接間に通されたのだった。


『お寛ぎくださいませ、お嬢様』


 渋い声のコウモリがそう告げる。

 長い髪から瞳や服装まで、全身真っ黒のおじさまとなったコウモリはゆったりとした動作で柘榴をもてなしてくれた。


(おじさまって最高ですよね……)


 実は彼もアルカードと仲良くなると登場するサブキャラクター兼隠れキャラなので、柘榴は特に驚くこともなく有り難くそのもてなしを受ける。

 血のように真っ赤な薔薇の紅茶を飲みつつ、薔薇のケーキに舌鼓を打っているとやってきたのはアルカードだった。

 当然のことだが。


「柘榴ちゃん!考え直してくれた!?」

「私、ヘイグ家の子になります」

「大歓迎やけどそうじゃなくって!あんな、アルカードさんが言いたいのは……」


 と、いって始まったのはアルカードの熱弁。

 柘榴はおじさま執事に薔薇の紅茶のお代わりを貰いつつ、アルカードの話を聞き流した。

 そして話は冒頭に戻る。



◯◯◯



「わかった!?柘榴ちゃん!」

「私がブレイクのマスターになったことを、アルがよく思っていないことはわかりました」

「そうやねん!めっちゃまとめたね!?」


 それは話を聞いてなくともわかる。

 ブレイクのマスターを快諾したあの日、アルカードは部屋の窓を突き破って飛び出して行ったくらいなのだから。

 「後でヘイグ家に弁償させる」とゾーイがいっていたなぁ、なんて柘榴は能天気に思った。


「せやからなぁ!マスターになるってことの重要さを柘榴ちゃんは全然わかってないねん!」

「そういえばゾーイから窓ガラス代の請求、きましたか?」

「そういう話してるんちゃうやん!?ゾッとするほどの金額がきましたけども!若さゆえの過ちって怖いね!勢いであんなんやったらあかんよ!」


 どう考えてもしませんけども。

 ドアから出て行きますけども。

 柘榴は冷静にそう思いつつ、おじさま執事にケーキのお代わりを頼む。

 黒髪長髪のおじさまは軽く会釈をし、待機しているメイド達に合図を送った。

 メイドの服も上から下まで真っ黒だ、髪の色は様々だったが。


「柘榴ちゃん!聞いてる!?」

「いやぁ美味しいですね、このケーキ」

「あ、せやろせやろ〜うちのシェフが腕によりをかけて作ったケーキやねん!俺も大好きでさ〜」

「売り出すのはどうですか?大繁盛しそうですが。話によっては私も手伝いますよ」

「あははほんま?店出してまう?柘榴ちゃんがそこまでいうんならーーーってちゃうねん!新規事業の話やなくて!」


 せっかく話が逸れたと思ったのに。

 柘榴は小さく溜め息を吐き出した。

 ブレイクの話と言われても……


「私はマスターになったことに不満はありませんよ?」

「柘榴ちゃんがええならええねん。でも俺が気にしてんのはブレイクよ!」

「ブレイク?彼がどうして?」


 ようやく柘榴はアルカードの話に興味を持つ。

 アルカードには一度、前科がある。

 柘榴が面白くなくなったから階段から再び突き落とし、記憶を元に戻そうとしたという過激な過去が。

 またこの人は気に入らないからといって誘拐なんてしちゃって、なんて。

 柘榴はそんな風に軽く考えていたのだ。


 しかし自分ではなくブレイクと関わっているというならば話は別。

 柘榴は椅子に座り直し、身体を乗り出した。


「わかるやろ?自分と同じ年代の異性をマスターに選んだんや、ブレイクの評判がどうなるか……」


 真剣なアルカードの様子に、柘榴はゴクリと息を飲む。

 評判?そんな、もしかしてーーー


「熟女好き、とかですか?」

「同年代の女の子やーーーいうてんねん!何で熟女好きっていう評判になんねん!」

「あ、そうでしたね」


 そうだ、今は年齢だけは若いんだった。

 しかも熟女というよりはもはや死体である。

 2回ほど死んでいるし、ゾンビ好きとかの方が近いかもしれない。


「それで……ブレイクがゾンビ好きといわれることが何か?」

「それやねんけど……いや何でゾンビ?ゾンビやないやん??柘榴ちゃん生きてるやん??え?もしかして死んでんの?え??嘘やん??」


 混乱するアルカードはさておき、柘榴は続きを促す。

 未だに柘榴を疑惑の目で見ていたが、促されるがままアルカードは口を開いた。


「柘榴ちゃんって悪名根深いやん?」

「というよりは悪名しかありませんが?」

「圧倒的自信……!まぁええや。せやからさ、そんな子をマスターにしただけでもアレやのに同年代の女の子やからさ……その……」


 柘榴は首を傾げた。

 悪名高い自分がブレイクと関わることで、彼の名誉を傷つけているというのはわかる。

 けれどそこにどうして「同年代の女の子」が関係するのか、柘榴にはわからない。

 柘榴がピンと来ていないことに気づいたらしいアルカードは、濁すのをやめてはっきりといった。


「モテへんくなるねん、ブレイク」


 なる、ほど?

 やっぱり柘榴はピンと来ず、眉を寄せた。


(いやだって、ブレイクには主人公ちゃんがいるじゃないですか?)


 モテる必要あります?


年度始めで少し忙しく、すみません!

早く過ぎ去れ年度始め!


ブクマと評価嬉しいです!

ありがとうございます!

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