表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/60

闇夜に踊れ、恋が始まる ー10ー

「あっ柘榴様。おはようございます!」

「柘榴様!」


 あの日、あの戦闘訓練からーーー

 青年隊の柘榴に対する態度があからさまに変わった。

 もう確実に「やばい人」と思われたようで、王城で柘榴を見かけるとどれだけ遠くにいても飛んできて頭を下げてくる。

 まぁ、隊長と組んで殲滅させてしまったからなぁ。

 しかも人狼という一族は自分達が認めたトップに対しては絶対的な忠誠心を持つ一族だ、自分達の隊を殲滅させた柘榴に対して忠誠心みたいなものが芽生えたのかもしれない。


「柘榴」


 そして変わったことといえばもう1つ。

 ブレイクが柘榴のことを下の名前で呼ぶようになったことだ。

 あの日以来、柘榴は青年隊の魔女対策訓練のお手伝いをすることとなった。

 その関係で王城に呼ばれる機会も増え、ブレイクや青年隊と出会うことが増えたのだ。


(今まで四方木と呼んでいたけれど、信頼されたのかしらねぇ……)


 信頼は、いい。

 信頼されていないよりは。

 けれど……


(好感度が上がっておりますよね!?もしかしなくても、これ!?)


 何で!?私は処刑されたいだけなのに!

 しかも好感度上がるところがなくないですか!?

 あなたの部隊を殲滅させただけですけど!?

 もしかしてアレなの!?

 こいつ、強いな……!俺の友達として認めるぜ!みたいな!?


「ありえますね……」

「何がだ?」

「いえ、こちらの話です」


 思わず口に出していた柘榴は、頭痛を覚えながら顔を振る。

 今日の柘榴はブレイクと共にゾーイに呼ばれていたのだ、2人は並んでだだっ広い廊下を歩く。

 さすが王城だけあって掃除が行き届いている。

 覗き込んだら顔も映り込みそうだ、と柘榴は石畳の廊下をちらりと見下ろしつつ歩を進めた。


 どれだけ急いで歩いたって、ブレイクの歩みは早く、距離が開いていく。

 そもそも、一歩一歩の幅が違うのだから仕方ない。

 別に一緒に行こうといわれたわけでもないし、約束していたわけでもない。

 こういう時、ブレイクはさっさと先に行ってしまう男だと柘榴自体もよくわかっている。


(どうやれば今からブレイクの好感度を下げることができるでしょう……国を破壊したら何とかなるでしょうか……)


 そうなると嫌われるというよりは、退治されてしまうな……

 こちらは悪役令嬢として青春を大いに謳歌してから、華々しく処刑されたいのだ。

 魔王(ラスボス)になりたいのとはまた違う。

 いや、そもそも選択肢に魔王があること自体、悪役令嬢の人生ではおかしいのでは……?


「もしや……魔女は悪役令嬢に向いていないのでは!?」

「何の話だ?」

「!び……っくりしたじゃないですか!気配もなく後ろに立つのはやめてください!」


 随分先を歩いているはずだったブレイクが、いつの間にか後ろに立っていた。

 心底驚愕してしまった柘榴は、バクバクと高鳴る心臓を抑えつつ抗議の意味を込めて友人を見上げる。

 するとブレイクは少し頬を染め、顔を背けたーーー


 いや待って待って。

 やばいやばい。これはまずい。

 確実に好感度が上がってる、これは。

 違う意味で柘榴の心臓はバクバクと高鳴った。

 恋愛経験値ゼロの初心者(ビギナー)である柘榴でもわかってしまう。


(も、もしや私に惚れているのでは!?)


 大いに困るぞ、これは!

 もしもブレイクとうまくいってしまったら処刑されない!困る!

 こっちは幸せな結婚生活とかリアルが充実することが目的ではなく、処刑されることが目的だというのに……!


「柘榴。実は……話があるんだ」

「えっ!?」


 ま、まままままさか告白では!?

 ゲーム内ならば3年の卒業時に告白されるが、ブレイクは確か結構早くに告白し、「考えていてくれ」みたいなことをいってくるキャラクターだ。

 もしやそれは柘榴に対しても同じで、自分はお前に好意を寄せているから考えてくれとかいいだすのでは?

 柘榴は思わず身構えてしまう。


 もしも告白されたならば、どうしよう。

 いやでも、こんな、廊下で!?

 ブレイクはムードとかに気を遣わなさそうだし、場所なんて関係ないのかも!?


「こんなことをいうのは気恥ずかしいのだが……」


 顔を赤くしたブレイクが、言葉を途切れさせる。

 友達としてはブレイクのことはもちろん好きだが、異性として好きかというと柘榴は首を傾げる。

 告白されたとして、きっぱりと断るべきか?

 処刑されたいのはもちろんだが、だからといって積極的に嫌われるのはまた違うような……


(青春は謳歌したいだけなのですが、私は)


 そもそも、悪役令嬢の恋ってうまくいくのだろうか?

 悪役令嬢は恋をしてもいいのか?

 正解がわからない。


(ともかく……告白されたとしたら、私は)


 私はーーー

 何と答えるのだろう?


「俺の本当の気持ちをわかってほしい」

「え?え、え、え……」


 どうしよう!?

 大きな手を伸ばし、ブレイクは力強く柘榴の手を握る。

 逃げられない、困る。

 正解なんてわからない、それでもきっと多分ーーー


 誠実に答えなければいけない。

 友人として、きっと。

 自分がどんな答えを出すとしても。


 柘榴は大きく深呼吸をして、ブレイクを見返した。

 さぁかかって来い!

 告白をされて、どんな答えを出すのかは自分でもまだわからない。それでも!

 ちゃんと聞かなければ!



「俺の飼主(マスター)になってほしいんだ」



 ……………………?

 ん?マスター?あれ?

 柘榴の頭上にはたくさんの「???」が浮かぶ。

 ブレイクは更に顔を赤くしているが、「マスター」がどういう意味なのか柘榴にはいまいち理解できない。

 唯一わかることといえば、どうやらこれは告白ではないということだ。


「マスター……?」

「なってくれるのか!?」

「いや、あの……構いませんけど」


 構いませんけど、何ですか、それ。

 柘榴が最後まで尋ねる前に、ブレイクが大きく拳を突き上げる。

 顔を上空に向け、まるで本当の狼のように遠吠えを響かせた。


「いや、な、なん、なんですか!?」

「柘榴!ありがとう!これからよろしく頼む!」

「えっ待って、えっ?」


 いつの間にかブレイクには白い尻尾が生えている。

 その尻尾を千切れんばかりに振り回し、ブレイクは目を輝かせながら柘榴に向かって両手を広げた。

 何?本当?どういう意味?これ?

 柘榴が戸惑っていると、業を煮やしたらしいブレイクが柘榴の腰に手を回して抱き上げる。


「えっ!?ええええ!?」


 戸惑う柘榴をぎゅーーーーっと抱きしめ、ブレイクは自分の頬を柘榴の頬にくっつける。

 普段は大真面目で律儀で、冗談の1つも通じないようなブレイクが。


「柘榴〜〜〜〜!」


 戸惑うを通り越し、恐怖すら覚える柘榴。

 しかしブレイクはそんなことに気づくわけもなく、顔をくしゃくしゃにして笑いながら甘えたような声で名を呼ぶ。


 なに?これ?

 私もしかして殺される?

 これは殺されるやつですか?


「柘榴。ブレイク。遅いから迎えに……」

「ブレイクおま、めっちゃ羨ましいことしてるやん!何なんー!?」


 ただただ柘榴がされるがままになっていると、聞き覚えのある声がふたつ。

 茫然自失の柘榴を抱きかかえたまま、ブレイクは爽やかな笑顔で幼馴染2人に顔を向けた。

 抱きかかえている柘榴が死にそうになっていることも知らずに。


「聞いてくれ!柘榴は俺の飼主(マスター)になった!」


 2人の顔が思いっきり歪む。

 それはもう、びっくりするほどに思いっきり。

 どちらともその顔に浮かんだ表情は真逆だった。

 ゾーイはもう心底楽しそうな笑みを我慢するように、アルカードは思いっきり不愉快そうな顔に。


「柘榴ちゃん!ほんまにそれでええん!?」


 アルカードが戸惑いながら尋ねる。


「柘榴!意味、わかって、わかってるのか!?」


 ゾーイが笑いを堪えながら尋ねる。


「柘榴!俺は首輪の色はお前の瞳と同じ赤色がいい、頼むぞ!」


 そしてブレイクは、これ以上ないってくらいキラキラと輝いた笑顔で告げる。


「…………ください」


 柘榴は震えながら、言葉を発した。

 いや、発したつもりになった。

 あまりの動揺に声は声になっていなかったのだ。

 大きく深呼吸をしてから柘榴は妖艶に微笑んだ。


「どういう意味なのか誰か説明してください!」


 鬼姫の悲痛な声と、ゾーイの笑い声が響いたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ