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闇夜に踊れ、恋が始まる ー01ー

真っ白な肌。

真っ赤な唇。

美しい人は闇夜(よる)に踊るーーー



◯◯◯



冬青(そよご)って寮に入るん?」


 冬のお茶会は温室の中で行われる。

 温かい温室では季節外れの花が色とりどりに咲き乱れる。

 特別階級が招かれる特別階級のためのお茶会……

 つまりいつものように、四方木 柘榴の周りには見知った顔が並んでいた。


 その中のひとり。

 吸血鬼のアルカード・ヘイグ・三世が、薔薇のお茶のせいで真っ赤に染まったカップ片手に何気なく発した一言。

 それは柘榴の真横をキープしていた義兄、四方木 冬青(そよご)の眉を寄せさせるには十分だった。

 今の季節、『何の』寮に入るかなんて聞かなくてもわかる。


「入りませんよ」


 きっぱりと冬青(そよご)が言い切った返事に、今度は柘榴が眉を寄せた。

 あれ、と赤と金の目を右隣に座る義兄(あに)に向ける。

 飲もうと思っていたアイスティーを白いテーブルに置き、何度かまばたきをした。


「あら。入らないんですか?」

「入るわけがありません。何故って?クフフ。俺がいないと何もできないですから、お前は。世話をしなければいけません。俺は兄ですからね!」


 とか言葉だけは手厳しくいいながら、冬青はいそいそと柘榴の口をハンカチで拭う。

 柘榴の顎に指をやると、くいっと自分の方を向かせて口紅を塗り直してくれる。

 その口紅は何処から出てきたんだ。

 柘榴が口紅の行く末を見つめていると、義兄が持ち込んでいた大きなカバンからのようだった。


(ああ……何であんなに大きなカバンが必要なのかと思っていたら、私のお世話グッズでしたか……)


 どうしてこうなったのか。

 義兄は他人がいる際、柘榴に対して口だけは突き放すようなことを述べる。

 だがその実、いついかなる時も態度は「柘榴ちゃんしゅきしゅき」状態なのだ。

 最近では女中の仕事まで奪っているので、女中からクレームが発生している。


(これ私、人間としてダメになるのではないでしょうか……)


 何度かやんわりと、義兄に対してやめてくれといったもののーーー……

 兄とは妹の面倒を見るものなんですよ?

 と、澄んだ瞳のまま、当然のごとく言い切られたので柘榴はそれ以上何もいえなかった。


化物学園(モンスタースクール)では基本的に寮に入らねばならないが、特別階級の我々には特例があるからな」


 人狼のブレイク・ルー=ガルーが告げる。

 冬青は我が意を得たりというかのように、にこやかに「ええ」と頷いた。


 そう、さっきからいう「寮」とは化物学園(モンスタースクール)でのこと。

 現在14歳の柘榴達には1年後の話だが、1つ年上の冬青はすぐ先の話。

 春になれば彼は一足先に化物学園に進学する。


 化物学園では基本的に全生徒は寮に入ることが義務付けられている。

 けれど冬青を始め、アルカードやブレイクといった既に国のために動いている面々にとって、寮に入ることは絶対条件ではないらしい。

 そんな特例を活かし、冬青も寮に入らないつもりらしい。


(ゲームの『四方木 冬青』は寮に入っていたはずですけれど)


 あれは家族との関係がうまくいってなかったからだったっけ。

 そう考えれば納得がいく。

 現在の冬青と四方木家の関係はうまくいっている、寮に入る必要はない。

 アイスティーにシロップを追加しながら柘榴は、なるほどねと息を吐く。

 ゲームでの知識があったからこそ、柘榴は冬青が寮に入らないと聞いて眉を寄せたのだ。


(というか……攻略対象(みんな)はゲームの中では寮に入っていましたけれど)


 どうなのかな、と柘榴が思う間も無く、3人は口々に話し出す。


「俺も寮に入る気はない。青年隊の活動もある」

「え、でも寮に入るとイベントごととかたくさんあるみたいやで?交流のためのダンスイベントとか。とかいいつつ、アルカードさんも寮には入る気ないけど」

「クフフ。誰も入る気はないんですねぇ」

「何の話だ?」


 寮に入る気がない3人がそんな会話をしていると、声が降ってきた。

 今回のお茶会の主催者(ホスト)である、ヨーク王国第四王子。

 人造人間のゾーイ・カーティス・K・ヨーク。

 主催者である彼は、お客様である柘榴達と違い招待客に挨拶をして回っていたのだ。


「もう終わったのか?」

「お疲れーー!ゾーイちゃん!」


 ゾーイの護衛についていた青年隊のメンバーとブレイクが、軽く目配せをし合う。

 さっきまでゾーイの護衛についていたブレイクと、軽い挨拶をしてくるアルカードにゾーイはわざとらしく肩をすくめた。


「王子様はこれくらいで疲れたりなんてしないんだよ、王子様はそういう身体になってるから。で、何の話ししてたんだ?」

「化物学園についてですよ」

「ああ。それで寮とかいってたのか」


 ゾーイの皮肉っぽい言い回しに、アルカードが楽しげに笑った。

 冬青から新しいブラックコーヒーを受け取り、ゾーイは柘榴の隣。冬青とは真反対の、左隣に座る。

 元々ゾーイが座っていた席だったので、そこは空けておいたのだ。


 今回のお茶会はゾーイ王子主催による冬のお茶会。

 名目としては『こんなに寒い季節だというのに、見事に咲き乱れた王室のお花を見ながらお茶を楽しんでほしい』。

 勿論、それは口実。

 公園並みに広い温室を解放し、人を呼んだのはそれだけではない。

 来年の化物学園入学に向け、そしてゾーイの婚約者候補を探すための顔見せと親交会である。


(こんなところに私がいていいものかしらねぇ……)


 柘榴はアイスティーをごくりと飲み込んだ。

 氷が溶けて、少し味が薄い。

 赤と金の目だけを動かして周囲を見ると、近くに陣取る男女混合のグループがちらちらとこちらを伺っている。

 その中にはあからさまに柘榴に対する殺意のようなものも混ざっていた。


 当然だ、と柘榴は思う。

 自分はもう、虫のように嫌われているのだから。

 春のお茶会でゾーイに暴言を吐き、階段から突き落とされた記憶は新しい。


 それなのに!

 そんな鬼姫柘榴が!

 今や当然の顔でゾーイや側近達と同じテーブルを囲んでいる。

 しかも柘榴の隣はゾーイ、そして冬青。


 ゾーイを狙う人間は少なくない、それは良い意味でも悪い意味でも。

 ヨーク王国第四王子様はまだ婚約者を決めていない。

 お茶会で顔と名を売っておけば、そしてゾーイに気に入られれば、一躍ヨーク王国第四王子の婚約者なんて夢ではない。

 男性とて、ゾーイに気に入られれば側近。

 獲物を狙う獣のような、ギラギラとした瞳をゾーイに向けている者は少なくない。


 冬青は冬青で来春には化物学園に入学する。

 入学してしまうとお茶会に出る機会も少なくなる、彼もゾーイと同じで婚約者がいない。

 養子といえども、冬青は四方木家の人間。

 しかも最近では柘榴ではなく、冬青が四方木家を継ぐのではないかと噂がある。

 そのせいで一気に冬青の人気は上がったようだ。


 そうだというのに、問題は柘榴。

 家柄と顔以外に誇れるものはないといわれる、悪名高き鬼姫。

 あの女に脅されている、あの女は家柄しかない、あの女は…………

 お茶会で皆は口々に柘榴の噂をした。

 それこそあることないことを騒ぎ立て、柘榴に悪意と嫉妬をぶつけて憎しみを増幅させる。


 こんな風に睨まれ、悪意を向けられ、噂をかきたてられーーー

 普通の精神ならばこんなところ、1秒たりともいられないだろう。


(いやぁ!みんなに嫌われてるっていいですね!もっとひとりになって悪意をぶつけられたいです!処刑が近いことを確認したいものです!)


 しかし柘榴は柘榴だった。

 火あぶりにされて殺され、処刑されたくて転生した魔女にとってむしろ悪意は大好物。

 柘榴は笑いそうになるのをグッと堪えた。


「それで?柘榴はどうするつもりだ?」


 俺も寮には入らないかな。

 そういったゾーイが、黙ったままの柘榴に問う。

 笑いを堪えていた柘榴は顔を上げ、さらりといった。


「え?私は寮に入るつもりですが」


 空気が凍った。



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