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魔女は死を懇願する ー03ー

「柘榴、あなた……打ち所が悪かったんですか?」


 白い髪の少年に変わり、黒髪の少年がそう尋ねて来た。

 艶のある黒髪は胸辺りまであり、瞳は薄紫。

 鋭い目つきに通った鼻筋、大きな口。

 正統派な美形というよりは爬虫類っぽさを感じさせる顔。

 菖蒲柄の着物に黒いズボンを合わせた彼こそが、柘榴が探していた義理の兄。

 柘榴と同じく鬼である義兄の額にも、2本のツノ。

 いつも不敵に笑っている彼の顔に笑顔はない。

 丸く短い眉を寄せている。

 不思議そうに、いっそ不気味そうに。

 2人の少年は柘榴を見る。


 何がそんなに不思議なのだろう。

 柘榴は首を傾げた。

 確かに他人とまともに話すのは百年ぶりだが、変なことでもいっただろうか。

 気づかないうちに、おかしなジェスチャーでもしつつ話していたり?


 自分の所作に注意しつつ、柘榴は口を開く。

 今度はできるだけゆっくり、不可思議に思われないように。

 礼儀正しく、優雅に見えるように。

 何故ならは今の自分は、鬼姫柘榴なのだから。


冬青(そよご)兄様(あにさま)、私は……」

「待ってくれ。何だって?柘榴。俺の勘違いだろうけど柘榴、君は今、冬青のことを『兄様』と呼んだのか?」

「? ゾーイ王子、その通りですが……」

「柘榴。やはりあなた、打ち所が悪かったんですね」


 おかしい。

 余計2人が慌て出してしまった。

 こんなはずではなかったのに。

 義兄にいたっては冷や汗を流し、お付きの者に指示して医者を呼ばせた。

 健康なのにどうして?

 打ち所が悪かった、とはなに?

 柘榴はますます首を傾げる。


「柘榴。君が礼儀正しいなんて薄気味悪い。今すぐ寝ろ!」

「はあ……ゾーイ王子がそう仰るなら……」


 白い髪の少年が後ずさりしながら、柘榴の後ろを指差した。

 振り返ってみると、いつのまにか……

 着物姿の鬼のメイドが数人、さっき柘榴が片付けたばかりの布団を敷き直している。

 目を白黒させながら、恐る恐るといった具合に「お嬢様……」と柘榴に呼びかけてくる。


(な、何かいけないことをしたのかしら。柘榴(わたし)が転生者だとバレてしまったとか?)


 白い髪の少年も、メイド達の反応も尋常ではない。

 寝相が悪すぎてベルトでも固定でもされるのかしら。

 魔女時代に出会った拷問器具の数々を思い出しながら、柘榴は素直に布団に近付く。

 「ありがとうございます」とポニーテールに髪を結んだ一際大柄なメイドに微笑むと、メイドの顔ばかりか義兄の顔色まで真っ青に変わった。


「やはり……よっぽど打ち所が悪かったようですね!何てことでしょう……義父(ちち)に何といえばいいのか……」

「お、お嬢様……!そんな……っ!」

「本当に気味が悪い。今から槍でも降るんじゃないか?」


 義兄が頭を抱え、メイドが泣き、少年は後ずさる。

 柘榴は状況に全くついていけず、頭上にクエスチョンマークをいくつも浮かべる。


「柘榴、記憶障害はないのか?」

「え?え……っと、私の年齢は幾つでしょうか?」

「自分の年齢まで忘れたのですか!?」


 その後……

 やって来たお医者さんにも嘆かれ、両親だというダンディで巨大な鬼と美人な鬼にも泣かれ、柘榴はぐったりすることになった。



◯◯◯



 ゲームの中の柘榴(じぶん)を省みるに、わかっていたことだが……

 どうやら前世の記憶が戻るまで、柘榴はワガママし放題の高慢ちきなお嬢さんだったらしい。


 悪口、陰口、弱いものイジメ。

 自分の血筋と立場を武器にやりたい放題。

 魔力の類をほとんど持たないくせに態度だけがでかく、権力を盾にする典型的な悪党。

 手は出さないが、口は出す。

 その結果、既に交流がある「恋愛(こうりゃく)対象」の男子達からは虫よりも嫌われているらしい。


(見事な悪役令嬢っぷりですね……!)


 もうこれは絶対に殺される。

 殺されるという未来しか見えない。

 柘榴(じぶん)の嫌われっぷりに、柘榴は布団に寝転びつつ惚れ惚れするしかなかった。


 ちなみに何故このように布団に寝かされ、両親やメイドが泣き、医者が来て診察し、打ち所云々について義兄に尋ねられたかというと……

 どうやら柘榴は頭をぶつけていたらしい。

 そういわれてみると、頭がなんだか痛い気がした。

 頭をぶつけた衝撃もきっかけとなり、前世の記憶をスムーズに思い出せたようだ。

 そして本当に記憶障害にもなったらしい。

 前世の記憶を思い出すまで、生きて来た日々の記憶が思い出せないのだから。



 そんな柘榴は何故、何処で頭をぶつけたのか?

 嘆く両親やメイドにしつこく聞いたところ、ヨーク王国第四王子主催のお茶会で、らしい。

 頭の怪我に差し支えます、と散々いわれたが粘りに粘って聞いた話を柘榴はまとめる。


 第四王子主催の盛大なお茶会は今朝行われた。

 柘榴のような鬼族の長の娘をはじめ、様々な種族の次期トップや貴族。いわゆる特別階級。

 その中でも第四王子と年齢の近い者達を中心に集められたらしい。


 柘榴はそんな中、まぁ好き勝手にやらかしたようだ。

 「この私が何故このようなチャチなお茶会に参加せねばならないの?」。

 だかなんだかいいまくり、出席者達の服装や料理や王子の手際にケチをつけ、嫌味をいいまくった。

 その結果、柘榴の嫌味に耐えかねた一部の女子達の怒りが爆発し、柘榴を突き飛ばした、と。

 そして柘榴は階段から転がり落ちーーー

 頭を強く打ったくらいで、ほとんど無傷だったらしい。

 憎まれっ子世に憚るとはこのことだろう。


 年いってから生まれた子である柘榴を、そりゃもう可愛がっているダンディな父は烈火の如く抗議して、柘榴を突き落とした少女達を訴え、重罪にしようとしたようだが……

 柘榴がほとんど無傷だったこと。

 そして何といっても柘榴の日頃の行い。

 そのせいで少女達の罪は軽かったらしい。


 ちなみにそのお茶会には、勿論ながら恋愛(こうりゃく)対象の男子達も参加していた。

 主人公はヒト族である魔女。

 しかも平民とあって、化物学園に入学するまで恋愛対象の男子と知り合う機会はないが……

 恋愛対象の男子達はことごとく身分の高い人達なため、全員が柘榴とも幼馴染も同然。

 参加も当然である。


(さらに嫌われたのは間違いありませんね!)


 柘榴はぐっとガッツポーズをする。

 さっき言葉を交わした白い髪の少年「ゾーイ」と、義兄の「冬青(そよご)」も恋愛対象だ。

 義兄である冬青は柘榴と同居しているので当然だが、何故白い髪の少年ゾーイがこの家にいたのか。


 それはゾーイこそが、柘榴が怪我をしたお茶会の主催。

 ヨーク王国の第四王子だからである。

 本名をゾーイ・カーティス・K・ヨーク。

 人造人間であり、天才的な頭脳を持つゲームの中での主役級(メイン)


 柘榴がゾーイのお茶会で怪我をしたので、見舞いに来たらしい。

 己の嫌われ方をみるに、ゾーイ王子もしぶしぶやって来たのだろう。

 しかし彼にもメンツというものもある。

 柘榴はなんせ、ヨーク王国でも王にも匹敵するといわれる地位と王国一と呼ばれる莫大な財産、そして圧倒的な人数誇る鬼族の姫なのだから。


 もちろんこの「姫」というのは「長の娘」というだけで、本当の意味の姫ではない。

 しかしながら鬼とは、姫とか王とか呼ばれるくらいの勢力と権力を持つ一大勢力なのである。


(ですからあんなに悪意のこもった口調だったんですねぇ……)


 そんな柘榴は記憶を思い出す前、ゾーイのことを人造人間だと見下していたらしい。

 だからこそ柘榴が「ゾーイ王子」と呼んだだけでゾーイは薄気味悪いと後ずさり、感謝を述べるとメイドは泣き、義兄は頭を抱えた。


 完璧すぎる。

 殺されるためのフラグしかない。

 柘榴は感動で泣きそうになり、目頭を押さえた。


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