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信奉者は憂色を隠せない ー04ー

「ちょ、待ってください!やめて、芹!」


 四方木家の屋敷に、柘榴の悲鳴が響く。


「お嬢様……申し訳ありません!」


 そういいながら芹が近づく。

 逃げようとする柘榴をメイドが阻んだ。


「やめて、お願い!芹!」

「私だって嫌なんですよ、お嬢様!しかし……!」


 そういいながら、芹は柘榴に手を回した。

 そして渾身の力をかけて…………


「本当にコルセットは無理なんですけどーー!!」

「ドレスを着る場合はコルセット必須です!お嬢様とて逃げられませんよ!」


 コルセットを締め上げた。

 柘榴の悲鳴があがる。

 それでも芹は力を弱めない。

 むしろ鬼の力を使い、ぎゅうぎゅうに締め上げた。

 柘榴は他のメイドに助けを求めたが……

 メイド達はにっこりと笑い、口パクで「頑張ってください!」といってくるばかり。


「着物がいいですーーー!!」

「アルカード様主催のパーティーなのでドレスですよね、といってきたのはお嬢様です!」

「そうなんですけど……コルセットーー!」


 やだーーーと柘榴は続ける。

 前世を思い出すまでの柘榴は、ほとんどパーティーには参加していなかった。

 参加したとしても着物を貫き通していたらしい。

 しかし今の柘榴は前前世は魔女。

 なんだかんだとドレスを着たこともある。

 けれど前世は日本人だったため、ドレスを着る機会はほとんどなかった。

 そのため久しぶりのドレスに浮かれていたが……


(まさかコルセットだなんて!)


 柘榴がパーティーに参加する!

 それを聞いて主催者のアルカードやエスコートを申し出たゾーイ、義兄の冬青、そして両親までもが素敵なドレスを贈ってくれた。

 こういうときにドレスを贈ってこないところも、生真面目で女性慣れしていないブレイクらしい。

 柘榴はその中からシックな一着を選んだ。

 ゾーイが選んでくれたものだ。

 共にダンスを踊るわけだし、ゾーイが選んだものの方がいいだろうという理由からだったが……

 何故か冬青が荒れたのは今でも柘榴にとっては謎である。

 ちなみに荒れた冬青は父とメイドから慰められていた。

 そんなシックなドレス。

 装飾はあまりなく、Aラインの上品な黒。

 確かにこのドレスには、コルセットでぎちぎちに締め上げた細い腰が似合う。

 それはわかってはいるが、だ。


「これではあまり、息が……」

「大丈夫です、お嬢様!慣れます!」


 芹は力強く言い切った。

 本当に慣れるの!?

 そういいたかったが、締め上げられすぎて声も出ない。

 仕方なく、柘榴は赤と金の目で芹を睨んでおいた。

 しかし良いこともある。

 息ができなくなるほど強い締め上げのおかげで、柘榴の腰はまさに砂時計のように細くなったからだ。

 動くこともままならない柘榴を椅子に座らせ、メイド達は素早く準備を始める。

 顔にはがっつりと化粧が施され、黒い口紅が塗られる。

 海外映画のお葬式シーンにて、よく女性が付けているトークハットを被り、赤い髪もまとめられた。

 膝まである黒のレースの手袋をつけ、その上から指輪。


「さぁお嬢様できました!」


 上機嫌の芹に手を引かれ、柘榴は鏡の前に立った。

 そこに映る自分はーーー


「大人っぽいですね……!」


 トークハットに付けられた黒のレースが、柘榴の白い肌に影を落としている。

 白い肌が大事!

 芹はことあるごとにそういって日傘をさしてくれていたが、確かに吸血鬼一族のパーティーには死人のように白い肌の方が似合っているのは確かだ。

 コルセットのおかげで折れそうな腰。

 普段は着物姿のため身体のラインがわからない分、その細さに目が奪われる。

 黒々としたメイクに黒い唇。

 身体を包むのはシックな黒いドレス。

 そしてその赤と金の目と炎のような赤い髪だけが、黒と白でまとめられている柘榴に色を与えている。


「そうでしょう!?お嬢様は明るい色を着ることが多いのですが、こういうお洋服もお似合いになると思っておりました!」


 細かい作業が苦手な芹がやったことといえば、息ができなくなるまで柘榴のコルセットを締め上げたことくらいなのだがーーー

 自慢げに笑う芹につられ、柘榴も笑った。


「素敵ね。私の……」

「ん?何ですか?」

「いえ。何でもないわ」


 んん、と柘榴は咳払いして誤魔化す。

 芹は少し眉を寄せたが、すぐに「この化粧は」と詳細の説明が始まった。


(まさか「私の処刑の時もこの服がいい」なんていえないですよね……!)


 魔女っぽくて素敵……

 なんて、本物の魔女はそう思う。

 芹の説明を聞いていると、障子の向こうから義兄の声がした。


「お兄ちゃんは準備が終わったよ。柘榴は?」

「ああ、私も終わりましたよ」


 まだ話し足りなさそうな芹に「ごめんね」と合図し、柘榴は障子を開けた。

 そこには黒い長い髪をひとつまとめた冬青が、黒のタキシードに黒いマントを羽織って立っていた。

 黒い髪のせいか、ゴシックな雰囲気で格好いい。

 義兄は柘榴を見てパッと笑みを浮かべてから、止まった。

 柘榴は首を傾げる。


「何かおかしいですか?」

「いや、あの……」

「めーーーっちゃ綺麗やん!柘榴ちゃん!」


 話を割って飛びついてきた黒い影。

 黒いタキシードに黒いマント。

 ふわふわの金色の髪を更にふわふわにし、爽やかに笑う。

 冬青とほぼ同じ格好だというのに、雰囲気は全く違う。

 そして彼こそがーーー

 今回のパーティーの主催者であるアルカード。


「え、何故アルカードさんがここに?」

「柘榴ちゃんを迎えに来てーーん!」

「……ということです」


 隣の冬青が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

 冬青がわざわざ柘榴の部屋までやってきたのは、アルカードが四方木家に来たかららしい。

 どうして今から行くパーティーの主催者がここに……

 柘榴は眉を寄せるが、アルカードは笑うばかり。

 それにしたってーーー

 こんなにもかっちりとした格好をしているのに、どうしてアルカードは普段よりもチャラく見えるのだろう。

 しみじみと主催者を上から下まで見て、柘榴はそう思う。

 なんなら冬青の方が吸血鬼っぽい。

 髪の色のせいだろうか?


「待って待って。柘榴ちゃん、めちゃくちゃ綺麗やん」

「あら。お上手ですね」

「いや本音やで!」


 柘榴は「はいはい」と適当に笑った。

 「ほんまやのに〜」とアルカードは口を尖らす。


「本当に今夜の柘榴は綺麗だよ。月よりも綺麗だ……お兄ちゃん、びっくりしちゃったな」


 まるで今にもとろけてしまいそうなほど、柔らかい笑顔で冬青がいった。

 柘榴はそれに応えるように微笑んだが、すぐにはたと気づいて義兄を見つめたままアルカードを指差した。

 義兄は眉を寄せてから、アルカードを見る。

 ぽかんとしているアルカード。

 そして生暖かい視線を送る芹達メイド集団。

 我に返った冬青は、顔の前で手をぶんぶんと振った。


「違います!間違えました!柘榴なんて、その、あの、月に申し訳ないと思わないんですか!お前のそんな、肌を晒して!!見苦しい!!」


 「えーーー」。

 冬青のあまりもの変わりように、アルカードが言葉を失っていたのだった。


(偽装ツン、物理的デレですからねぇ……)


 未だに柘榴がいった「大嫌いなままでいてください」を守っている冬青だった。



次はパーティー回です!

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