信奉者は憂色を隠せない ー01ー
「うーん……やっぱり私の魔力の限界から考えると、魔法だけで戦うのは無理がありますよねぇ」
季節はすっかり夏。
四方木邸では、柘榴が魔法の訓練に精を出していた。
いつもの着物姿ではなく、袴姿の柘榴は眉を寄せる。
その隙をつき、芹が日傘を差した。
柘榴の白い肌の上に影が落ちる。
ちらりと柘榴は日傘を見上げてから、芹を見遣った。
「白い肌!大事!!」
「褐色肌も魅力的だと思いますけどね」
「お嬢様の白い肌!!大事!!」
芹は最近、これしかいわない。
柘榴は少し肩をすくめた。
これしかいわない理由はひとつ。
春の終わり頃から柘榴が本格的に自身の魔法を強化するようになったからだ。
前世の記憶が戻ってから、柘榴は自分が魔女であることはできる限り秘密にしていたがーーー
バレてしまったのだ、もう隠してる場合じゃない。
それよりも柘榴は思ったのだ。
(もしかして私が最強となれば、
主人公ちゃんも最強になるのでは?)
と。
「四方木 柘榴」が処刑されるのは3年の冬。
柘榴は散々主人公を苛め、妨害し、余すところなく悪役令嬢っぷりを披露する。
主人公は柘榴に負けぬよう、努力する。
目には目を……ではなく、家柄というどうにもならない部分ではなくてそれ以外の部分。
つまり実力や、知性や立ち居振る舞い。
努力とかそういった部分で柘榴に圧勝し、恋愛対象達ばかりか学園内の全ての人達から支持される。
その人気は圧倒的となり、柘榴は戸惑う。
そしてフラストレーションを溜めていく。
そして決定的なことが起こるーーー
それは3年の冬。
化物学園に「脅威」が襲う。
巨大な古代知的生物の襲来……
学園の地下深くに封印されていたはずのドラゴンが目を覚まし、生徒を襲い出すのだ。
ドラゴンは暴れる。
渇きを潤すため、血を求める。
そして化物学園唯一の魔女である主人公を狙う。
手っ取り早く魔力を回復するため、主人公を食べようとするのだ。
愛する人を守るメインキャラクー達。
3年間の努力の成果を遺憾なく発揮し、ドラゴンに打ち勝つ主人公達……
もちろん、学園も無事ではない。
死者こそは出なかったが、それ以外は酷い。
文化的な価値もある学園の損傷。怪我人……
何よりヨーク王国の王子、ゾーイも深い怪我を負う。
そんな中、ゾーイは主人公を讃えるのだ。
主人公がゾーイを守らなければ、彼は死んでいたから。
ちなみにゾーイを守ることは必須イベントとなっているため、誰との好感度が高くても絶対に起こるイベントである。
ゾーイとの好感度が一番高い場合、ストーリーと台詞が少し変化する。
それは置いておいて……
ゾーイを守った!
その功績が認められ、学園の生徒ばかりか国中の人間が主人公に頭を垂れる。
平民であり、ただのヒトである主人公に。
皆が彼女を認め、讃える。
王すら感謝し、膝をつく。
そして主人公はその場で特別階級を与えられるのだ。
『そんなこと許さないわ!』
声を上げるのは四方木 柘榴。
彼女は最後まで主人公を認めない。
ゾーイの口車にのり、柘榴は認める。
自分がドラゴンを解き放った、とーーー
沈黙が支配する。
国中の全ての人間が、柘榴を憎悪する。
主人公が止めてくれたからよかったものの、主人公がいなければこの国は崩壊していた。
学園の一部だけで済んだのは奇跡に近い。
柘榴は喚く、空気も読まずに。
王の合図で柘榴は拘束される。
それでも柘榴は喚くのだ。
自分は偉い、素晴らしい家柄だ、私こそがこの国の頂点に立つに素晴らしい、こんな国は滅んで当然、あの女に騙されている、馬鹿馬鹿しい!
王は柘榴を両断する、彼女の罪を。
柘榴は父に助けを求める。
そして鬼一族に助けを求める。
柘榴の父は助けない、誰も。鬼すらも。
次に柘榴が救いを求めるのはゾーイ。
幼馴染としての情は尽きた、とゾーイは助けない。
冬青、ブレイク……と柘榴は助けを求め、最後には……
彼女は主人公に助けを求める。
主人公はその手をとろうとするが……
結局主人公は、柘榴の手を取らない。
柘榴は全員から見捨てられーーー
重罪人として処刑されるのだ。
王位継承者を手にかけようとした罪。
この国に対する反逆。
様々な罪で柘榴は死ぬ。
(ああ、なんて美しい死に方でしょう!)
そして柘榴は思う。
悪役は華々しく散るからこそ、悪役なのだ!
四方木 柘榴はただの悪役令嬢ではない。
嫉妬にかられ、この国を崩壊させようとまでしでかす!
こんなことなかなか出来る悪役令嬢はいない!
最高の悪役令嬢である!
だから柘榴は「四方木 柘榴」を選んだのだ。
魔女の最後に相応しい。
好きに生きて、美しく散る。
そのために。
ーーーと、いうわけで柘榴は考えた。
主人公は柘榴に勝つために努力する。
つまり柘榴が強ければ強いほど、主人公は強くなる!
(主人公ちゃん最強伝説の始まりですね……!私は踏み台として華々しく散ってやりますよ!!)
いついかなる時であろうとも、そしてどんな人生であろうとも柘榴は主人公絶対至上主義。
主人公ちゃんはマドンナであり、最強でないとイヤ。
ただちょっと強い魔女では困る。
「四方木 柘榴」を倒し、特別階級に相応しい最強の主人公になってもらいたい。
そして攻略対象をメロメロにしてもらいたい!
いや、そうなってもらわねば困る!
何故ならば!!
(ほとんど毎日、ゾーイ王子かブレイク様が家に来てめんどくさいの極みですから!)
何がどうなってそうなったのか。
柘榴にはよくわからないが……
どういうわけだが、最近の四方木家は騒がしい。
お互いに名前も出さないほど嫌い合っていたゾーイ王子は、2日も開けずに柘榴に連絡を取る。
視界に入れようとしなかった義兄、冬青に何をいわれても柘榴は反論しない。
しかも一応秘密にはしているようだが、冬青が柘榴を溺愛していることは公然の事実。
女性に対して無意識に失礼な態度をとり、柘榴を虫よりも嫌っていたブレイクは柘榴に戦いを挑む。
その上……
どういうわけだか、特別階級の人たちがこぞって柘榴と話したい、お会いしたいとやってくるのだ。
パーティーに誘われ、食事に誘われ……
柘榴はうんざりする。
引きこもりたい。
落ち着く暇もないのだ。
魔法の練習がしたいっていうのに。
「柘榴お嬢様!お客様です」
しかもまた。
この日も柘榴に客人が来た。
次はもっと実践的に魔法の練習をしよう、と考えていた柘榴は小さく息を吐き出す。
「今日はどなたですか?ゾーイですか?ブレイクですか?」
ちなみに、ゾーイとブレイクからは呼び捨てにしろといわれていた。
最近よくこの家にやってくる幼馴染の名を出すと、着物姿のメイドは困った顔で首を振った。
「あら。違うのですね。その2人ではないのでしたら、他の方と同じようにお断りを……」
「アルカード様です」
「えっ」
華麗に断ろうとしていた柘榴の金と赤の目が光る。
なんだって?
「ア、アルカード……アルカード・ヘイグ・3世様?」
「はい。そうです」
柘榴はそっと、自分の口に手をやった。
言葉を失うとはこのことだ。
芹が「どうしたのですか」と慌てて問う。
「え、そんな、アルカード・ヘイグ・3世様が……」
「何かイヤなことでも思い出しましたが、お嬢様!」
「いえ!!推しです!!!」
きっぱりと柘榴はいいきった。
芹だけではなく、メイド達全員が「えっ?」と聞き返す。
柘榴はもう一度、力強く宣言したのだった。
「推しです!!」
吸血鬼アルカード・ヘイグ・3世。
主人公であった頃からの柘榴の推しの登場である。
第4章スタートです!
どうやって始めるか悩みました……
伏線的なね!あれで!笑
ようやくメインキャラのラスト!
アルカードが登場します!
柘榴さんの推しです!
ブクマありがとうございます!
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