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幕間 ー狼男の憂さ晴らしー

「はぁ?四方木 柘榴と婚約する?」

「耳は大丈夫か?面白いっていったんだよ」


 それは春のある日のこと。

 幼馴染はとんでもないことをいった。

 「婚約者候補(いいひと)はいたか」。

 (ちち)からそう問われーーー

 幼馴染は「あの」四方木 柘榴の名をいったのだという。

 それは一瞬で噂となり、ブレイクの耳にも入る。

 その結果。

 ブレイクは幼馴染に問うたのだった。


「けれど婚約するのも悪くないかもなー」

「本気か?あの四方木 柘榴だぞ?それとも俺が知らないだけで、同姓同名のヤツと知り合ったのか?」

「俺が知ってる限りじゃあ、柘榴はあの柘榴だね」


 ブレイクの幼馴染であり、ヨーク王国第四王子。

 ゾーイ・カーティス・K・ヨーク。

 王位継承権は低いが、この国では次の王が指名制であるためゾーイが王になれる可能性はゼロではない。

 そんなゾーイがまさか。

 悪名高いあの柘榴?

 高貴なのは家柄だけだといわれ、特にヒトからは虫よりも嫌われているような柘榴?

 一部の、いわゆる「特別階級」の中でも伝統ある家柄の人間や、そういう階級を言葉のごとく特別だと信じている少数派の者達からは柘榴の態度は当然だといわれているがーーー


「目の前で見ただろう?あの女は階段から突き落とされるほど嫌われているんだぞ。将来の王の妻があんな女で、国民から支持されるわけがない」

「ブレイクは柘榴が嫌いだもんなぁ」


 真剣にブレイクは進言したが、ゾーイは薄く笑う。

 今までであればゾーイは柘榴の名前を出しただけで眉をひそめるほどだったし、ブレイクとゾーイの友人の吸血鬼が柘榴を面白がっているのをありえないと一蹴していたくらいなのだが。

 柘榴は共通の友人である冬青の義妹である関係から、ゾーイもブレイクも表立って悪いことはいえず……

 結果として、よく行動を共にする4人の中では柘榴の話題を出さないことは暗黙の了解でもあった。

 それが今や、これ。

 血のように赤いゾーイの目が、キラキラと輝く。

 面白いものを見つけた時のゾーイのクセだ。

 長年の付き合いであるブレイクにはわかる。

 ヒトの知能を超越した存在であるが故に、ゾーイは大抵のものに興味を持たない。

 そんなゾーイがまさか、女にーーー

 喜ばしいことであるはずだった、確かに。

 さっさとゾーイは婚約者を見つけてほしいとブレイクは思っていたし、今でもそう思っている。

 けれど……


(よりにもよって四方木 柘榴か)


 ありえない。

 それに尽きる。

 あそこまで毛嫌いしていたゾーイが、柘榴を婚約者に選ぶわけがない。

 それなのに今、ブレイクの目の前でゾーイは柘榴に興味を持っている。

 柘榴が何かをしたに違いない。

 あの女が唯一誇れるとしたら、家柄しかないのだから。


「ゾーイ。何かされているのだとしたら教えてくれ。四方木家に脅迫でもされているのか?」

「どうしてそういう話になるんだ?」

「お前が四方木家に謝罪に行ってからそんなバカげたことをいうようになったからだ」


 声をあげてゾーイが笑う。

 しかしすぐに眉を寄せ、幼馴染は何かを考えた。


「うーんでもそうだな、まぁ四方木家に行って正解だった……とだけはいっておくよ」

「やはり脅迫されたのか!!!!」

「どうしてそうなるんだよ」


 そうに違いない。

 俺の力不足だからゾーイは何も相談してくれないのだ。

 ブレイクはゾーイの言葉なんて聞いていなかった。


(俺が……俺がなんとかしなければ……)




◯◯◯




「どうして会えないんだ、四方木 柘榴に」


 それから約3ヶ月。

 季節も春から夏に変わりそうな頃。

 ブレイクは街を歩きながら、イライラと呟いていた。


 四方木 柘榴に会いたい。

 四方木家にそう頼んでいるというのに、一向に柘榴との面会は叶わない。

 お茶会での事故のせいで、柘榴は人が変わった。

 ゾーイと柘榴の義兄である冬青はいう。

 もはや彼女は以前の四方木 柘榴ではない、と。

 しかしそれはどうだろう。

 いいすぎではないのか?

 ブレイクはそう思っていた。

 それならばまだ、「お茶会での事故で柘榴は人前に出られない顔になった」とか。

 「お茶会で突き落とされ自分が嫌われていることを自覚し、恥ずかしさから外に出られなくなった」とか。

 「お茶会以降、他人嫌いに拍車がかかった」とか。

 そういう噂の方がまだ信じられる。


(おおかた、俺に会うとゾーイを脅迫したことがバレて責められるので会いたくないのだろう)


 ブレイクはそう思っていた。

 ムカムカする、怒りで。

 別のことをしている時でも胸の中に根付いているのだ。

 柘榴への怒りや、自分への不満が。

 燻ったままドロドロとへばり付き、腐っている。


 柘榴のように家柄だけを振りかざしているヤツが、ブレイクが一番嫌いだった。

 本人の実力ではないくせに偉ぶる。

 柘榴(あいつ)ひとりで一体何ができる?

 何かをできるわけもない。

 それなのに、まるで当たり前のように柘榴は他者を見下して自分が偉いと思い込んでいる。

 家柄や立場的な関係上、ブレイクは柘榴と幼い時からの知り合いだった。

 ゾーイがそうであるように、幼馴染。

 けれどあの女を幼馴染と呼ぶことも、知り合いだということもブレイクにとっては屈辱でしかなかった。


「隊長。公園が騒がしいようですが」

「公園?」


 ブレイクはヨーク王国騎士団青年隊のリーダーであり、エリートばかりが集まる第1班の班長。

 ゾーイ王子が歩行者天国を見回る前日、青年隊の中でも飛び抜けて優秀な第1班の面々は歩行者天国をパトロールしていたのだ。

 青年隊だといっても、ほとんど準騎士団員に近い。

 ブレイク達は歩行者天国の一区間を任されていた。

 責任は重大である。

 そんな中で、ブレイク達の耳に届いたのは歓声。

 第1班のほとんどは人狼であるため、声を聞きつけるのも早かった。


「……何の騒ぎだ?」

「わかりません!催しが行われるという申請もされておりませんでした!」

「我々が確認しに行きましょうか!」

「いやいい、俺が行く」

「はい!隊長!!」


 人狼の世界では目上の者の命令は絶対。

 ブレイクの言葉に、班員達は大きく頷く。

 彼はムシャクシャしていたのだ。

 柘榴にも会えず、ゾーイは意見を変えない。

 そして何よりムカつくことは……

 ゾーイが自分に何も相談してくれないこと。

 何かをいってくれれば対策だって考えられる。

 もしも本当に、万が一、いや億が一にでも本当に柘榴のことが気になるとでもいうならば相談してくれたっていいのに……


 そしてそんなイライラをぶつけるものを探すかのように公園に入ったブレイクは出会うことになるのだった、スケートボードを操る少女と。

 それこそが、彼が探していた四方木 柘榴と。




◯◯◯



「では私が勝ったらお友達になってくださいね」



 四方木 柘榴はあっけらかんといった。

 友達(それ)はブレイクの中で、今までなかった関係性だった。

 もちろん、友人だと思うものはいる。

 例えばゾーイとか、冬青とか。

 けれどゾーイは友人であるよりも自分よりも上の立場であるつもりだったし、冬青は自分がなるつもりもない宰相などになるような奴だと思っていた。

 ただの友人とは、また違う立場なのだ。

 ブレイクの中では他人は上か下かしかなかった。

 同じ立場のやつなんていない。

 命令を聞くか、聞かせるか。


「………俺に勝てると思っているのか?」


 それなのに「友達」とは。

 しかもいったのはあのーーー

 あの四方木 柘榴。

 嫌悪しかなかった、あの女。

 つい最近「魔女」だとわかったあの女。

 柘榴の金と赤の目が光る。

 待てよ、いつからだ?

 あの女は確か、両目とも金だったはず。

 自分と同じ金の目であることを、ブレイクはずっと嫌がってきた。

 それがいつから、あの女の右目は赤に?

 真っ赤な髪よりも赤い目。

 見たことがない、誰だあれは?

 「彼女」は妖艶に微笑んだーーー



「勝っておみせしましょう」



 馬鹿馬鹿しい、とブレイクは思った。

 柘榴が自分に勝てるはずがない。

 そもそも女が自分に勝てるわけがない。

 鬼の中でも鍛えている女ならば人狼と一騎打ちすれば勝てるかもしれないが、自分は特別だ。

 人狼の中でも、ブレイクは自身が強い自負があった。

 それがこんな、家柄だけしか誇れるものがない女に?

 負ける?ありえない。

 頭に血がのぼるのがわかった。

 それと同時に、脳の一部が冷たくなる。

 絶対に勝てる。

 スケートボードで負けたのは、勝負方法が悪かった。

 正式な「戦い」で自分が負けるはずがない。

 ブレイクはそう思っていた。

 吹き飛ばされるまでは。

 柘榴の攻撃は完全に見切ったはずだったのにーーー

 あの魔女はいつのまにか罠を仕掛けていたらしい。

 油断はしていなかった。

 バカにはしていたが、勝負の前では無関係だ。

 それなのに。


「なっ」


 なんで。

 瓦礫の中でブレイクは柘榴を見る。

 身体の節々が痛い。

 信じられない。

 信じたくない。

 ブレイクは何度も柘榴に向かう。

 しかしその度に吹き飛ばされた。

 汗が滴る。

 それなのに柘榴は笑っていた。

 赤と金の目を細めて。

 今まで見たことがないくらい、妖艶に。

 アレは誰だ?

 四方木 柘榴の姿をした、アレは?

 四方木 柘榴のはずがない。

 だってあいつはーーー

 あんな風に笑わない。


「なるほど。お前は………………」


 その瞬間、ブレイクは全てを理解した。

 自分の中にあったイライラや、暗い影や悩みが全て消えていくのを感じる。

 ゾーイと冬青が言っていたことは本当だったのだ。

 自分はなんて尊大で、哀れで、傲慢だったのだろう。

 耳を貸すべきだった。

 だからゾーイは自分に相談してくれなかったのだ。

 「四方木 柘榴」は人が変わった。

 もはやアレはあいつではない。

 彼女は妖艶に微笑む。



「確かに面白い」



 ゾーイは正しかった。

 冬青だって正しかった。

 そして柘榴だって。

 女だと馬鹿にして、死神だと罵って、心のどこかで見くびっていた自分だけが間違っていた。


 ブレイクはその日、人生で初めて同年代に負けた。

 そのことが彼の人生を大きく変えることになる。


 けれどきっとそれはまだ恋ではない。

 しかし確かに、その瞬間に何かが始まった。




「四方木!!勝負だ!!」

「まーーた来たんですか!?お帰りはあちらです!!」



旅行以降の忙しさにプラス

体調を崩しておりました!

ご迷惑とご心配をおかけして申し訳ありません


今日から改めて頑張ります!!

ブクマと評価嬉しいです!


次から第4章です!

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