好敵手は死神と強襲する ー07ー
「死神ってなんか凄くカッコいいですね……!」
「柘榴……そういうことを言ってる場合じゃない」
満更でもない。
そんな柘榴の呟きに頭を抱えた冬青が返したのは、その後の自宅でだった。
自宅に帰る道すがら「死神」と呼ばれることについての利益と不利益について、冬青は柘榴に語っていた。
それなのに、その発言。
冬青ははぁと溜め息を吐いた。
「それでもスケボーの申し子と呼ばれるよりはいいかとは思いますが……」
「それはそうかもしれない。けど……」
「しかも別に吉兆の兆しといわれているだけのことでしょう?本当に私が悪いことを呼ぶわけではないですし」
そもそも前前世から魔女だったのだ。
柘榴にとっては、そんなこと今更だった。
生まれる前から魔女であった自分が悪いことを呼ぶ存在だとしたら、この国はとっくに悪いことしか起こっていない。
「ですので冬青兄様もお気になさらず」
「……お兄ちゃんが気にしないだけならいいんだけどね」
「?」
含みのある言い方に、柘榴は首を傾げたのだった。
◯◯◯
「…………」
「……えーっと、何かご用でしょうか?」
翌々日。
四方木家には訪問客があった。
正確には柘榴に対しての訪問者。
客間に通された彼は、来訪してからひとことも発することなく柘榴の前に鎮座していた。
困惑しながら柘榴が声をかけると、彼はーーーブレイクは、その金の目をぎらりと輝かせて柘榴を見る。
「死神がゾーイに近づくな、といいにきた」
「…………またそのことですか」
柘榴ははぁ、と溜め息を吐く。
柘榴が魔女だとわかってから、死神についても魔法についても散々質問されて来た。
正直もその質問に柘榴はうんざりしていたのだ。
好きこのんで近づいているわけではない。
だからといって離れているわけにもいかない。
何故ならば柘榴は処刑されたいから。
ゾーイ王子に近づき過ぎず、かといって離れ過ぎない。
それこそ化物学園内での「柘榴」の立ち位置でいたい。
婚約者になりたいわけでもなければ、死神でいたいわけでもない。
(適度に嫌われていたいんですけど……)
「それで俺は……」
しかしそれをなんとブレイクにいえばいいのか。
処刑されたいので嫌われたままでいいのですが、だからといって嫌われすぎて早めに処刑されることは嫌なんです!
ともいえない。
処刑されるとは?
何故それを知っている?
絶対にそのことを尋ねられることになるし、それに対する良い返信を思いつかない。
柘榴は眉を寄せていた。
そのせいで、ブレイクが真剣な表情で何事かを呟いているのを聞いていなかった。
「と、いうわけだ!了承しろ!」
「え?ええ……」
「よし!!では準備しろ!!」
「?????」
準備?
何の??
大きく頷いたブレイクが立ち上がる。
反射的に頷いてしまった柘榴は、状況が理解できずに後ろに控えていた芹を振り返った。
柘榴が見た芹の顔はーーー
真っ青だった。
「ブレイク様!!主人の代わりに芹がお相手します!ですのでどうか、どうかお嬢様には……!!」
「笑止。四方木とやらねばわからんだろう、実力は!!」
ますます理解できない。
真っ青な顔を歪め、辛そうな表情を浮かべる芹とブレイクを交互に見遣って柘榴は眉を寄せた。
「どうした、四方木!さっさと準備しろ!!その格好で戦えるのか!」
「たた、かう……?」
「そうだ!!お前が死神ではないというのであれば、悪い運さえ吹き飛ばせるような実力を見せてみろ!俺に!!」
「あ。なるほど!つまり戦うんですね!」
「さっきからそういってるだろう!!」
「俺に勝ってみろ!」。
ブレイクはそう叫ぶ。
そりゃ確かに芹だって青ざめるわけだ。
人狼の実力は誰もが知っているところ。
そんな人狼にここで負ければ、少なくともブレイクは柘榴を「この国に害をなす死神」と認定してしまう。
ルー=ガルー家はヨーク王国宰相を多く輩出している有名な家柄。
ブレイクはどちらかといえば戦うことに特化しているが、本来ならば代々宰相を務めているような家だ。
そんな家に柘榴が死神であると認められたら……
もはやこの国では生きていけないかもしれない。
その可能性を考え、芹は青ざめていたのだ。
「では私が勝ったらお友達になってくださいね」
それなのに。
柘榴はあっけらかんとそういった。
芹だけではなく、ブレイクまでがポカンとする。
「…………友達?俺が?」
「はい。私が勝てば私は死神ではないわけですし、問題ないですよね」
「問題はないが……俺に勝てると思っているのか?」
「はい」
さらりと柘榴は頷く。
金と赤の目を細め、彼女は妖艶に微笑んだ。
「勝っておみせしましょう」
馬鹿馬鹿しいとブレイクが笑った。
ブレイクの実力はこの国でも5本の指に入るほど。
我を失った鬼のように一鬼当千とまではいかないが、一個小隊どころか小隊3個に匹敵するほどなのだから。
鬼としては出来損ないの柘榴が、ブレイクに勝てるなど万に一つもなかった。
「笑止」
ーーーそのはずだった。
柘榴はブレイクに勝てない。
死神といわれ、この国にはいられなくなる。
けれど全てが終わると、立っていたのは……
「その程度ですか?ブレイク様」
四方木 柘榴であった。
額の汗をぬぐい、ブレイクは金の目で柘榴を睨む。
「この魔女め!!」
ブレイクが叫ぶ。
既に彼は己の敗北を認めていた。
実力がてんで違うのだ。
「ですから最初からそういっているでしょう」
柘榴は微笑む。
余裕ぶっているが、実際のところは魔力切れを起こしていつ倒れてもおかしくない状況だった。
それでも妖艶に微笑んでいるのは、自分が強いのだとブレイクに勘違いさせなければならないから。
「な、何が起こったんですか?」
審判として2人の対決を見守った冬青が呟く。
自分がその目で見たものを信じられなくて。
義妹の実力が、信じられなくて。
勝負は一瞬だった。
場所を客間から練習場に移した柘榴とブレイクは、勝負が開始して数十秒はお互いに動かなかった。
先に動いたのはブレイク。
柘榴の魔法を警戒し、正面突破を試みた。
もちろんそれを柘榴は予想し、ブレイクが動いた途端に左右に炎を浮かび上がらせる。
その炎をレーザー光線のようにブレイクに打ち込んだのだ。
しかしそこは人狼。
そんなものは効かぬとばかりに完全に避け切り、柘榴に襲いかかってーーー
次の瞬間には、遥か彼方の練習場の壁まで吹き飛ばされていた。
柘榴は一歩も動かず、魔法しか使っていない。
ブレイクは素手、柘榴は魔法の使用も可。
勝負の前にそう決めていたのだから。
「なるほど、お前は……」
ブレイクの金の目がギラギラと輝く。
柘榴は必死になって、妖艶に微笑む。
「確かに面白い」
後日。
ヨーク王国が認めることになる「魔女」は、その台詞を聞き終わるか聞き終わらないかの瞬間に笑みを浮かべたまま崩れ落ちたのだった。
「四方木!!今日も勝負するぞ!!」
「えーーまた来たんですか、ブレイク様……」
「そうだな、ブレイク。勝負じゃなくお茶会だ」
「クフフ。変な虫ではなく狼と王子がついてお兄ちゃんは嫌なんですけど」
そしてその後……
頻繁に四方木家には好敵手が強襲するのだった。
第3章完結です!
幕間を挟みまして、次からは第4章!
最後のメインキャラです!
ブクマと評価、本当にありがとうございます!!
すっごく嬉しくて、励みになってます!
旅行終わりに体調を崩し、少しゆっくりしてます笑
好敵手はブレイク、死神は柘榴です!




