好敵手は死神と強襲する ー06ー
「はははははははは!」
柘榴は飛んだ。
昨日と同じように、スケートボードと共に。
複数の魔法を見事にコントロールし、飛んで回転する。
昨日以上……
いやもはや人間業ではない見事な技を決め、柘榴は綺麗に着地する。
今朝の柘榴は絶好調だった。
帰宅してから「どうすれば良い感じにスケボーを操作できるか」といったことを考え、最適な魔法をいくつも使っているのだから。
もちろん、楽ではない。
しかし柘榴は冬青の呪いを解いた際に魔力が一度空っぽになったことで、全体的な魔力の量は増えていた。
魔力というものは空っぽになるまで使い切ると、全体的な量が増えるのだ。
これを利用し、前前世の柘榴は徹底的に魔力の量をあげたものだーーー
その結果。
柘榴は生きながら「最強」とか「最高」とか「厄災」と呼ばれるほどの魔女になったのだ。
そんな厄災の魔女「血色の淑女」は飛ぶ。
前前世の魔法を駆使し、スケボーで。
そう、スケートボードである。
天才と呼ばれ、持て囃されてきた魔女としての知識を総動員して今できる最高の技術を尽くしていた。
スケートボードのために。
全ては面白さへの耐性があまりないゾーイのため。
そして自分への面白いという勘違いを解くため。
柘榴は真剣だった。
しかしーーー
兵士とブレイク、冬青に護衛されたゾーイが腹を抱えて大笑いする。
「なんで、っ柘榴が、スケボー……っ!」
「あれはスケボーの申し子だ!!」
「ブレイクっまじ、なんだそれっ!冬青!説明!」
「……義妹はスケボーの申し子です」
「勘弁してくれっ」
ゾーイはまさか思わない。
柘榴がゾーイに面白いと思われているからスケートボードで見事な技を決めたなんて。
想像できるはずもなかった。
鬼一族の姫だとも呼ばれるほどに高貴な幼馴染がこんな公園で、唐突にスケートボードをし出したのか、なんて。
しかもなぜ自分が仕事として歩行者天国を見回るという日に、わざわざ公園に寄ってこんなものを見せられたのか、なんて。
全てはゾーイのためなのだが……
ゾーイは笑い、ブレイクと柘榴は成功を確信し、冬青は全てを諦める。
ゾーイはもはや笑い過ぎて立っていることも難しくなり、冬青の肩を借りながら大笑いし続けた。
(やった!スケボーへの面白さに目覚めたようですね!)
そんな第四王子を見て、柘榴はこっそりとガッツポーズをした。
なんて好感触なのだろう!
これで自分が面白いという謎の勘違いは解けたはず!
柘榴はそう信じていた。
だからこそ、ここまで魔法を駆使したわけだ。
「君は天才か、それとも狂人なのか?」
「……?よく天才だとはいわれてきましたが」
「ははは!そうか。確かに君は天才のようだな」
「皮肉ですか?」
「残念ながら本心だよ」
「?」
どういう流れでその発言をするに至ったのだろう。
ゾーイの思考が読めず、柘榴は眉を寄せる。
スケボーの天才、的な?
面白さの対象から、まさか尊敬の対象に?
スケボーの申し子すごい、的な?
それはそれで面倒くさい……
柘榴にも今まで妄信的な信者はいた、何人も。
狂愛、妄信、信奉……
理想をぶつけられるのは面倒だった。
そうならないため、魔法を使っているということを伝えていた方がいいのだろうか?
「あの、実は……」
「それにしたって」
柘榴が告げようとした途端。
大笑いしていたゾーイの雰囲気が変わる。
ニヤリと笑って、王子は柘榴を見た。
「物理法則に反する動きをしていたけれど
あれはもしかしてーーー」
赤い目がこちらを向く。
どうしてだろう、柘榴には分かる気がした。
その後に続く言葉が。
「魔法じゃないか?」
ざわり。
ゾーイを中心に、確かに何かが伝播する。
視線が。感情が。動揺が。囁きが。
交わって、揺れて、震えて、伝わる。
誰かが柘榴を見る。
もしかしたら全員が。
冬青が「ゾーイ王子」と呼んだ。
「つまりそれは柘榴が魔女だといいたいのですか?」
「ああ。別に隠すことはないだろ?」
「しかし……」
「あの」
なぜ冬青が戸惑うのか。
人前で話させまいとするのか。
柘榴にはよくわからなかった。
「確かに私は魔女ですが」
ざわり。
ゾーイ王子を一目見たいと集まった観衆が。
柘榴のスケートボードに魅了されていた観衆が。
確かに揺れた。
視線が向けられる。
柘榴にはその視線に覚えがあった。
今まで何度も向けられてきたものだったから。
それは興味であり、畏怖。
四方木家の屋敷でも使用人達が柘榴に向けたもの。
(どうして?この世界には魔女がいるのに)
例えば平民出身の主人公とか。
化物学園でも「珍しい」といわれていたが、別にいないわけでもない。
そんな視線を向けられる理由がわからず、柘榴は眉を寄せる。
けれどそれは事実なのだ。
柘榴は前前世から正真正銘の魔女なのだから。
「死神だーーー」
それは多分小さな声だった。
しかし水を打ったように静まり返る公園の中では、その小さな声は酷く響いた。
(死神?)
予想もしていなかった単語だ。
そんな種族はこの化物学園の中にいたっけ。
柘榴は結構な回数を重ねたプレイヤーであったが、その単語に対して聞き覚えはなかった。
日本人であった前世と同じような意味なのだろうか?
それとも別の意味が?
人造人間や鬼、人狼や吸血鬼がいる世界では死神だって普通に暮らしていてもおかしくない。
「……お前は鬼でありながら魔女なのか?」
平然としているゾーイ。
眉を寄せている冬青。
そして静まり返る観衆。
その中で、ブレイクが柘榴にそう問うた。
「ええ。そういうことになりますね」
魔力については隠しておきたかったのだが。
スケボーの申し子とか讃えられ、無駄に尊敬されっぱなしでも困る。
しかもスケートボードは柘榴の本来の実力ではないのだから、魔法を使ってうまくやっただけに過ぎない。
そのため、柘榴はブレイクの問いをさらりと認めた。
「けれど、そういう人は普通にいるでしょう?」
「いない」
「えっ?」
きっぱりとブレイクがいう。
金の目が柘榴をとらえる。
何故かその目は、轟々と燃えているように見えた。
「鬼は鬼、人狼は人狼、魔女は魔女。
2つの種族を兼ね揃えるものはほとんどいない」
柘榴は首を傾げた。
化物学園のことを思い出すと、確かにそういう人はいなかったように思う。
人狼は人狼だったし、吸血鬼は吸血鬼だった。
もちろん鬼だって、鬼のまま。
「けれどヒトは魔女になれるじゃないですか」
「そう。魔女になれるのはヒトだけだ。鬼が魔女になった試しはない。2つの種族を兼ね揃える者はほとんどいない。ただの馬に羽が生えるか?生えない。馬は馬、有翼馬は有翼馬だ。首が3つの蛇がいるか?」
いるんじゃないですか、と柘榴は思ったが、周囲の反応を見る限りそういうものはいないのだろう。
赤と金の目を細め、柘榴は尋ねた。
「…………では、そういうものが生まれた場合は?」
「吉兆のきざしであるといわれているんだよ、柘榴」
ブレイクの代わりに冬青が答えた。
柘榴のもとに近づいた冬青は、そっと義妹の肩を抱く。
は、とブレイクが笑った。
「吉兆?大抵の場合は不幸を呼ぶ。この国に悪い運が舞い込む」
どうやら……
ブレイクは信じているらしい。
悪い方を。
「だからそういう者は
『死神』だと呼ばれている」
完全に選択肢を間違えた。
柘榴は脳内で、あるはずのないリセットボタンを探したのだった。
昨日は更新できずすみません!
更新したつもりになってました……!
旅行から帰ったので、明日あたりからちゃんと更新できると思います!
20,000pvありがとうございます!
うれしいーーー!!
ブクマと評価、感想も本当にすごく嬉しいです!
やる気と感謝の気持ちは更新で示しますね!!
本当にありがとうございます!




