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好敵手は死神と強襲する ー05ー

「確かにスケボーの申し子というのはいいすぎましたけど……」

「俺に付け込むつもりだったのか!!」

「は?付け込む?」


 冬青を間に挟みながら、柘榴は眉を寄せた。

 キャスケット帽を被ったままなので、柘榴の表情はブレイクには見えやしない。

 それにしたって悪い方に考えすぎでは?

 スケボーの申し子と騙したことは間違いない。

 それでも「付け込む」とは?

 別にスケボーの申し子として詐欺をしようとしていたつもりはない。

 鬼一族の長の娘という立場上、この公園に毎日のように来ることができるわけでもないし。

 そもそもスケボーの申し子とかいわれて何になる?

 しかし冬青に抑え付けられているとはいえ、激怒しているブレイクを見ると他に理由がありそうだった。


「付け込むつもりなどありませんが」

「嘘を吐け!ゾーイ王子に何をいったのかわからんが、俺は騙されんからな!!」

「騙すとか付け込むとか……私はそんなことしておりません!」

「では何故、ゾーイはお前の方が面白いとかいい出したんだ!?お前のような家柄を振りかざすだけしか能のないやつにゾーイが興味を持つなどあり得ない!付け込んだに違いない!!」


 ブレイクの声は大きく、よく響く。

 既に公園内では揉めているのがブレイクと柘榴だとほとんどのものが気付き、野次馬が囲む。

 冬青は飛びかかろうとでもするかのように激怒するブレイクを止めながら、唇を噛んだ。

 周囲の人間はざわざわと囁く。

 「あれがあの柘榴?」。

 「良い気味だ」。

 「ブレイク様はよくいってくれた」。

 「あの女を庇う必要はない」……

 こんな目立つところに目立つ人がいるのだ。

 ブレイクだけでも、冬青だけでも、柘榴だけでも目立つのにここには3人。

 しかも元から柘榴を嫌悪していたブレイクが、最近の噂の張本人ともめているという最悪の展開。


「はーーーー?

 面白いとか思われてるの、不愉快です!

 だって私、面白くないですもん!」


 ここはどう切り抜けるべきか……

 義兄がそう思っているなんて知るはずもない柘榴がいってのけたのは、全ての人間の予想を裏切る発言だった。


「…………は?」

「ですから、私は面白くないです。ゾーイ王子は私を面白いなんて思ってるんですか?勘違いもいいところですね!」


 ポカンとするブレイクに向け、柘榴は続ける。


「そもそも私は誇れるものが家柄だけという凡人です。面白さなんて求められても困りますね!面白くないですもん、本当に!生まれてこの方、面白かったことなんてないです!!」


 柘榴はきっぱりといいきった。

 自分が面白くないことに対し絶対的な自信があったのだ。

 前前世では魔法の研究に勤しみ、前世では乙女ゲームに励んでいた自分は究極の大真面目だと信じていたからである。

 そして同時に、柘榴は浮かれてもいた。

 全ての疑問が解消されたので。


(どうしてゾーイ王子が執拗に私に連絡を取ろうとするのかと疑問に思ってましたが、疲れている時にお笑い番組を見る的な感覚だったんですね!私のことを面白いと勘違いしていらっしゃるから!)


 謎は全て解けた!とばかりに柘榴はひとりで頷く。

 何がどうなって自分が面白いとゾーイに勘違いされたのかはわからないが……

 ともかく自分は面白くないのだ。

 自分が面白くないと理解さえしてくれれば、ゾーイも自分に興味なんてなくすだろう。

 そうすれば処刑への輝かしい道に障害はない!


(私のことが大嫌いなブレイク様のことは最高だと思いますが、激怒されているのは日常に支障があると思ってたんですよね!)


 ゾーイに自分が面白くないと理解さえしてもらえればーーー

 何故か自分がゾーイを騙しているだとか勘違いしているブレイクの怒りも静まるだろう、柘榴は思った。


 柘榴は処刑されたい。

 それは1番の希望ではあるが、人生を謳歌するのも転生してきた目的のひとつ。

 処刑されたいが、すぐではない。

 16歳となり、化物学園(モンスタースクール)に入学し、ゲーム内での通り18歳の冬に処刑されたい。

 嫌われすぎてはいけないのだ。

 ブレイクが激怒したままだと自分を闇討ちしかねない。

 王子であるゾーイに絶対服従を誓うブレイクであれば、主君の危機だと思えばそれくらいのことをしでかす。

 そのため、早急にゾーイの誤解を解く必要がある。

 ポカンとし続けている義兄とブレイクに気づかず、柘榴は思考を巡らせる。

 そうだ、と柘榴は手を打った。


「ゾーイ王子は日常に刺激がないのではないですか?明日、歩行者天国を見て回るんですよね?スケボーをやらせたらいいじゃないですか!」


 柘榴の思考は単純だった。

 自分は面白くないという絶対的な自信。

 そんな自分を面白いと思ってしまったゾーイは、本当に面白いものに触れ合っていないに違いない。

 柘榴はそう思ったのだ。


(ゾーイ王子は主人公(プレイヤー)と出会い、面白いと思って恋が始まるわけですが……おかしいと思ってたんですよね、別に主人公は面白いことをしていなかったわけですし。慢性的に面白いと思うもの不足だったからだったと思えば理解できます)


 ちなみに化物学園(ゲーム)内の主人公(プレイヤー)は魔女。

 入学式の朝。

 寝坊した主人公は遅刻しそうになり、ホウキに乗って学園にやって来る。

 入学式の最中にホウキで現れる主人公……

 そんな主人公を見て攻略対象のゾーイは「面白い」と思うのだ。


 何故「ゾーイ」は面白いと思うのか。

 ヨーク王国に魔女が少ないという事情もある。

 ホウキで飛んで来る少女が物珍しく、天才的な頭脳がもっと知りたいと叫んだということもある。



しかしとても残念なことに、

柘榴は魔女だった。



 ホウキで飛ぶなんて日常茶飯事。

 なんなら眠っていてもできるほどのこと。

 それを「面白い」と思うことが、何度ゲームをやっても理解できなかった。

 そして今この状況で、柘榴は一つの結論にたどり着く。

 ゾーイは面白いもの不足だったのだ、と。


(面白いものを提供してしまうと私への勘違いは解けるわけですが、代わりに主人公(プレイヤー)のことをそう簡単に面白いとは思わなくなってしまうかも。そうなるとゲームの進行に支障が出るかもしれませんね……)


 冬青が義妹の名を呼ぶ。

 しかし柘榴は自分の考えをまとめているため、義兄の呼びかけには気づかなかった。


(ま!!関係ないですね!いま大事なのは私の誤解を解くこと!ただひとつ!!)

「スケボーがいいと思いますね!!」

「わっ!」


 結論に達した柘榴は、はっきりといいきった。

 あまりに動きが止まっていた義妹を心配していた冬青が、唐突に話し出した柘榴に驚いてたじろぐ。

 しかし柘榴は妖艶に微笑むと、力強く続けた。


「スケボーです!!スケボーの面白さをゾーイ王子に伝え、私への誤解を解けばいいと思います!」

「そ、それは……あー……」


 完全に勢いを削がれたブレイクは戸惑う。

 頭の中で色々と考え、柘榴を見た。


「誰がスケボーの良さを伝える気だ!!」

「もちろんここにいる方々です。スケボーを楽しんでいらっしゃったわけですし」


 ブレイクは何とか本来の調子を取り戻す。

 迫力満点でそう問われ、柘榴はギャラリー達を振り返った。

 野次馬と同化しそうだったギャラリー達は、突如として振り返った柘榴の視線にざわりと波が立つ。

 まさかこちらに話が飛んで来るとは思ってもいなかったようで、一同はお互いに顔を見合わせた。


「なるほど。確かにその通りだな」

「いや!待ってください!!」


 ブレイクも柘榴の言葉に納得する。

 話はそれで終わったと柘榴が思っていた時、ギャラリーの中のひとりが声をあげた。


「俺らがスケボーの良さをゾーイ王子に伝えるのは無理です!!」


 ギャラリー達は口々にそれを肯定する。

 柘榴はただ、成り行きを見守っていた。

 自分の仕事は完全に終わったと思い、次は冬青にどう言い訳をするかを考えていたのだ。


「では誰が適任だというのだ!!」

「スケボーの申し子……つまり!柘榴様です!!」

「………………えっ?」


 しかし、突然。

 柘榴は話の中心に放り投げられる。


「わ、私?」


 ちょっと待って?

 柘榴の声は、ブレイクの「ではお前がやれ!!!」という声にかき消されたのだった。



ブクマが100をこえました!

すごく嬉しいです!!

20くらいいけたらいいなーと思っていたので、ニヤニヤを通り越して挙動不審となっています。

本当にありがとうございます!

それと、感想を初めていただけました!

めっちゃ嬉しいです……!

りすくさん、ありがとうございます!

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