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好敵手は死神と強襲する ー03ー

 低く響く、雷のような声。

 青白い髪は短く、真一文字に結ばれた唇は分厚い。

 意志の強そうな金の目がぎらりと輝く。


「一体何の騒ぎだ!」


 そういいながら公園を横切って颯爽とやって来たのは、190センチはありそうな大男。

 長い足を使い、ズカズカとこちらに歩み寄ってくる。

 ぎらぎらと輝く金の目に射抜かれると、さっきまで騒いでいたギャラリー達がしんと静まる。

 皆は近づいてくる人物が誰かわかっているらしい。

 隣同士でぼそぼそと名前を囁きあっているが、柘榴はその辺が詳しくないのでわからない。

 キャスケットを深く被っているせいだろうか、ひそひそ声がよく聞き取れなかった。

 そんなに有名な人なのか?

 彼が近くまで来ると、ようやくはっきりと顔がーーー


「あっ」

「あっ?」


 彼の顔を見た途端、柘榴は小さく声を上げた。

 自分にしか聞こえないほどの声だったはずなのに、その声に敏感に気づいたらしい大男が反応する。

 真っ直ぐ、そして高い鼻。

 彫りが深い顔はまるで彫像のようだ。

 整っているが故に、作り物っぽい。

 ゾーイは美形、冬青が個性的だとすると、彼は正統派イケメン。

 顔面の造形だけ見れば、誰よりもカッコいいことは間違いないだろう。

 それくらいカッコいいのだ。

 高い身長はもちろん、攻略対象の中で誰よりも筋肉質というその体格の良さも彼の格好良さに拍車をかけている。

 イケメンというよりはむしろハンサムという単語が似合う、そんな人。

 そのハンサムに柘榴は見覚えがあった。

 とても。凄く。完全に。


(攻略対象だ…………)


 さっき柘榴が考えていた、あの人。

 公園でのアクティブなデートが好きな、彼。

 柘榴はキャスケット帽を深く被る。

 これはまずいかもしれない。

 何故ならば彼は冬青と仲がいい。

 お前の義妹がここにいるぞ、なんていわれた日には冬青が飛んでくるだろう。

 それに実は……

 柘榴は彼に気付かれたくない理由がもう1つある。


「ブレイク様だ……」

「ああそうだ。俺はブレイク・ルー=ガルー。俺を知っている者が多いようだな」


 一言一言。

 気合を込めて話しているような、独特な話し方。

 ブレイク・ルー=ガルー。

 攻略対象のひとり。

 ゾーイの幼馴染で人狼、つまり狼男だ。

 柘榴の小さな「あっ」という呟きを聞き取れたのも、狼男ゆえの聴力の高さだろう。


「騒がしかったが、何故だ!理由を述べろ!」


 ギャラリーが顔を見合わせる。

 公園ではしゃいではいけないっていうのか。

 そういう雰囲気だ。

 ブレイクの有無をいわさぬ雰囲気は偉大だ。

 だが同時に尊大で、反抗したくなる。


「明日、歩行者天国をゾーイ王子が見て回られる!そのため本日はこの公園に集まるのは厳禁だ!そう通達してあったはずだが!?」


 えっそうなの。

 いわれてみれば……

 デートの背景でも、もっと人がいた。

 あまり人がいないなと思っていたのだ。


「ブレイク様!違うんです!」

「何が違うという!!」


 ギャラリーのひとりが声をあげる。

 声をあげた人の方をブレイクはぐるりと振り向くと、大声で聞き返した。

 ビリビリ。

 圧倒される威力だ。

 威勢のよかった人々がその迫力に負け、言葉を詰まらせる。


「あの、スケボーの……!」

「そう!スケボーの申し子が!」

「スケボーの申し子が現れたので!!」


 待って待って待って待って。

 私のせい?


(た、確かに私のせいでギャラリーが集まったけど、でも、だ、だからって……!)


 言葉を詰まらせた結果。

 原因だといわれたのは柘榴。

 ブレイクに見つからないよう、人の後ろにひっそりと立っていた柘榴は途端に慌てる。


「スケボーの申し子!?誰のことだ!?」


 ブレイクがそう問うと、ギャラリーが一気に消えた。

 もちろん本当に消えたわけではない。

 柘榴の前にいた人達が道を開け、一歩下がったのだ。

 その結果、柘榴が気付いた時には遅かった。

 その場から動いていないにも関わらず、柘榴は前に押し出された形になる。


「お前がスケボーの申し子か!」


 そ、そんな二つ名のようにいわれても……

 そうです、とも、違うともいえない。

 そもそも声を発すると、ブレイクに自分が四方木 柘榴だとバレる恐れだってある。

 柘榴がそんなことを考えていると、ブレイクは金の目でぎらりと柘榴を見つめた。


「質問には答えろ!!」

「わ、私がスケボーの申し子です!」


 ああ……

 できるならば、柘榴は頭を抱えていただろう。

 最強だとか、最悪だとか、鬼だとか、天才だとか……

 そう恐れられてきた自分の二つ名に今、新たなものが刻まれてしまった。

 スケボーの申し子……なんだそれ。


「そうか、お前がスケボーの申し子か……」

「…………」

「返事をしろ!」

「……フハハハハ!その通りです!」


 けれど柘榴は意外にもノリがよかった。

 ヤケクソという単語が近いかもしれないが。

 バレたくないため意識的に低い声を出しつつ、普段とは違う性格(キャラ)で押し通す。

 ともかく、ここはノリとテンションで乗り切ろう。

 私ならできる!

 できると思ってないとやってられない!


「私の素晴らしい技のせいで皆さんをわかせすぎたのが問題になるとは……申し訳ないですね!」

「くだらん。どうせ大したことないんだろう」


 ブレイクがふん、と鼻を鳴らした。

 演技がかった口調で笑っていた柘榴は、それに頷こうとした。

 技うんぬんに対してのプライドなんてものは柘榴にはない、そもそもあれは魔法を使ったものなのだから……


「いや!凄い技でしたよ!!」

「あんな技見たことない!」

「彼女はスケボーの申し子なんです!!」

「……ほう。お前は素晴らしい技術を持っているようだな!ならばそれで俺を納得させるがいい!」


 待って待って待って。

 何故そうなる?

 ブレイクの発言を聞き、ギャラリーは何かを期待しているようなキラキラとした目で柘榴を見る。

 そっちの視線を無視することは心の強さでどうにかなるが、問題はブレイクだ。

 対面して見るとわかる。

 ブレイクの迫力は想像以上だった。

 逃げることも誤魔化すこともできない。

 そしてそれはーーー


「ええいいでしょう、やってやりますよ!」


 負けず嫌いの柘榴の気持ちを燃え上がらせるには十分だった。

 何故納得させないといけないのかはさっぱりわからなかったが、どうにかしてブレイクの尊大な態度を崩したくなってしまう。

 そもそも、柘榴はバカにされることが嫌いなのだ。

 魔女として大いに恐れられてきた過去も、主人公絶対至上主義としてある界隈ではやばい奴がいると噂されてきた過去も、尋常ではないほど負けず嫌いで知識欲が高いせい。


「あっといわせてやりましょう!」

「笑止。やってみるがいい!」





 そして柘榴は飛んだ。

 一般的な魔女では到底できないほど些細な魔法コントロールと、複数の魔法を駆使して。

 今の柘榴はそれほど魔力は高くないため、注意しながらだったが……

 それでも人間業とは思えないほどの技を決め、スケートボードごと見事な着地を決める。


「やっぱりアンタはスケボーの申し子だよ!」

「もうそれ持ってけよ!!」


 さっきよりも増えたギャラリーから歓声があがる。

 柘榴にスケートボードを貸した男性が崩れ落ち、それの譲渡を大きな声で叫ぶ。

 キャスケット帽を深く被ったままではあったが、柘榴はドヤ顔をブレイクに向けた。

 柘榴が見せた技が予想よりも凄かったのだろう。

 金の目を大きく見開いていたブレイクが、柘榴のドヤ顔に気づいて整った顔を歪ませる。


「それくらい俺にもできる!!調子にのるなよ、スケボーの申し子!!」

「ではやってみればいかがですか、ハンサムさん!!」


 こうして何故か。

 平和だったはずの昼下がりの公園にて、柘榴とブレイクの対決が開幕したのだった。



いつもありがとうございます!

ブクマも評価も、本当にすごくすごく嬉しいです!

10,000pv達成しました!

初めて10,000という大台に乗れたので、ニヤニヤしてしまっています。

評価してもらえるという夢も叶い、ランキングにものり、10,000……

本当に嬉しいです。ありがとうございます!

更新頑張ります!

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