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義兄妹には憂鬱が似合う ー04ー

四方木(よもぎ) 冬青(そよご)か……)


 ぼんやりと義兄を眺めながら、柘榴は思いを馳せた。

 考えることは義兄のこと。

 目の前の彼のことであり、彼のことではない。

 つまり「化物学園(ゲーム)」の中での彼のことだ。



 四方木 冬青。

 年は主人公(プレイヤー)よりひとつ上。

 攻略対象の中では唯一の年上だ。

 ご存知の通り、種族は鬼。

 鬼一族の長、四方木家の義理の息子。

 悪役令嬢である柘榴(わたし)の義理の兄。

 幼い頃、柘榴(わたし)が病弱だったため、その優秀さを買われて遠縁から引き取られてきたという。

 結局柘榴は元気に生きているが、優秀な冬青はそのまま四方木家で暮らしている。


 そんな評判に違わず、冬青はとても優秀な生徒だった。

 学年が違うため主人公(プレイヤー)と実力テストで比べることはできないが……

 彼は上の学年ではぶっちぎりの1位。

 将来、ゾーイの側近間違いなしなのである。

 同じ学年であれば、間違いなく柘榴の主人公ちゃん絶対最強至上主義の邪魔になっただろう。


 胸辺りまである、黒い髪。

 ゾーイのような美形!というよりは、少し特徴ある顔。

 短い眉に切れ長の瞳、そして尖った鼻。

 薄紫色の眼は小さい。

 いわゆる三白眼ってやつだ。

 大きな口とその目のせいで、爬虫類っぽくも見える。

 身長は確か、182センチ。

 攻略対象の中では2番目に高い。

 ちなみにゾーイは176センチ。

 攻略対象の中では1番低かったりする。

 すらりと長い手足と指がセクシーで、常に浮かべている不敵な笑みは彼が一筋縄ではいかないことを表しているように思えた。


 人造人間であるゾーイには心から話せる友はいないが……

 一番、ゾーイと仲がいいのは冬青だろう。

 彼もまた、ゾーイと同じように「自分は偽物だ」というコンプレックスを持つ。



 養子とはいえ、伝統ある四方木家の子息でありながら、冬青は遠縁の生まれ。

 しかもゲームを進めていくごとにわかるのだが、彼は愛人の子であった。

 それ故、自分の家柄に誇りを持つ柘榴との仲は酷く悪い。

 冬青自身も柘榴に対して、わざとらしいほどに丁寧に接している。

 自分の生まれやら何やらを鼻にかける柘榴がムカつくというのも勿論あるが、それだけではない。

 冬青は柘榴に対し、申し訳なさも感じていた。

 何故ならば自分の生まれのせいで、四方木家が「穢れた」と思っているから。


 伝統ある四方木家に自分は相応しくない。

 それどころか、化物学園にいることすらも。

 ゾーイや、他の特別階級の人達と仲良くすることに対しても冬青は罪悪感を持つ。

 愛人の子である自分は穢らわしい。

 四方木家には相応しくない。

 本来ならば化物学園にも入学できなかったかもしれない。

 自分はここにいていいのか?

 それ故に、冬青は誰に対してもバカ丁寧に敬語で接する。

 それがまた逆に、冬青の食えない雰囲気を漂わせているのだが、それは置いといて……


 冬青がそう考えるのには理由がある。

 柘榴と冬青の父。

 つまり「赤の王」やら「闘神」と呼ばれる軍団長は、優秀な冬青を大いに歓迎し、自慢の息子だといいふらしている。

 しかし母の方はそうはいかなかった。

 冬青が悪いわけではないのだが、「愛人」という立場の女から生まれた彼を軽蔑している。

 柘榴が10歳、冬青が11歳という大きくなってからの養子だということも関係しているだろう。

 それより以前に「お試し」という形で、冬青は四方木家にいたのだが……

 その時、四方木家で「お試し」として同居していたのは冬青だけではなかったらしい。

 四方木家の養子候補として、同年代の子が何人かいたようだ。

 その中で何故、家柄的にも血筋的にも劣る冬青が選ばれたのか。

 それはひとえに、冬青が優秀だったから。


 冬青は自分が優秀であることに固辞する。

 優秀でなければ四方木家の人間ではいられない、そう信じているから。

 優秀ではなかったら自分は選ばれなかった。

 優秀でなければ。

 良い義兄でなければ。

 良い息子でなければ。

 そうしたって相応しくない。

 この血が憎い。

 しかし四方木家を追い出されれば、愛人の子である冬青には行くあてもない。



 そのような複雑な状況とコンプレックスを抱える冬青。

 そんな彼の居場所となるのが主人公(プレイヤー)の存在である。


 冬青と出会った主人公(プレイヤー)は、彼の優秀さを手放しで褒める。

 素直に冬青に教えを乞い、尊敬し、慕ってくれる。

 そこには打算もない。

 ただただ純粋に自分を慕う主人公(プレイヤー)に冬青は依存し、愛する。


 気にくわないのは柘榴である。

 養子とはいえ四方木家の人間が、平民出身でただのヒトである主人公を良いとは思わない。

 今まで散々、冬青の存在を無視してきた柘榴だが、途端に主人公の恋路を邪魔する。

 冬青も罪悪感から柘榴に強く出られないことをいいことに、柘榴はやりたい放題しーーー

 最終的に処刑。

 冬青と主人公は駆け落ちし、ハッピーエンド。


(そうなると私もハッピーエンドですね!)


 それにしたって四方木家にとっては痛手すぎやしないか?

 直系の娘と優秀な跡取りを同時に失うのだから。

 けれど直系の娘に手をかけ、この家に戻ってこれるわけもない。

 何とかこう、うまくどうにかできないものか……

 柘榴は少し考えたが、すぐに考えることを放棄した。

 何も思い浮かばない!

 それに自分は処刑されたらオールオッケー!

 冬青が幸せになるのも素敵!

 どちらにしろ、積極的に死んでいきたい!

 柘榴はそう思う。


(処刑されるためには冬青兄様の優秀さを褒めなければいいんですよね)


 冬青のコンプレックスは根深い。

 多少褒めたところで、それが急に解消されることもないだろう。

 それに、と柘榴は鼻歌交じりに思う。


(大嫌いなままでいてくださいってお願いしましたし〜問題ないですよね〜)


 そんなお願いをして、本当にその言葉通り大嫌いなままでいる人がいるのか。

 しかし極端に他人と接することが少ないまま生きてきた柘榴は、自分がしたお願いの不自然さには気づかなかった。

 むしろ自分は天才なのじゃないかと自賛しつつ、冬青の寝顔を見つめたのだった。



◯◯◯



「あら。おはようございます。冬青兄様」


 夕方ですが、と柘榴は付け足して微笑む。

 いつの間にか冬青が目を覚ましていた。

 薄紫の瞳がじっと、柘榴に注がれている。

 一体いつからだろう。

 ベッドから起き上がることもせず、息を乱すことなく、眠っているのと同じように。

 冬青が動かなかったので、柘榴は気づかなかったのだ。


「いつから起きてたんですか?」

「……編み物?」


 柘榴が尋ねると、逆に冬青が聞き返す。

 確かに柘榴は暇つぶしに編み物をしていた。

 いつだったか編み物にハマっていた時期があり、その時覚えた技術がまだできるか試したかったのだ。

 意外にまだできるな……

 とか思いつつ、さくさくと編み物をしていると冬青が起きていたってわけだ。

 義兄の質問に頷きながら、それが何か?といいたげに柘榴は見返す。

 有無をいわせないつもりだ。

 多分、いや絶対。

 前世(きおく)を思い出す前の柘榴は編み物をやってなかったはずだろう。

 そんな柘榴の雰囲気に気づいたのか、何かいいたげだった冬青は結局、肩をすくめ苦笑いを浮かべるだけにとどめた。


「クフフ。天下の柘榴様が編み物とはね……何を作ってるんですか?」

「冬青兄様の腹巻です」


 ふふふ、と冬青が笑った。

 「面白いですね」と義兄は呟く。

 いたって本気で冬青のために腹巻を編んでいた柘榴は、手元にあるものの方向性に悩んだ。

 腹巻はダメだったか……


「夢を見てました」


 冬青がそっと、囁くようにいった。



説明回ですみません。

次の話を早めに更新しますね!

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