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義兄妹には憂鬱が似合う ー03ー

 頭が痛い。

 ズキズキと響く。

 その湧き上がるような痛みに促され、柘榴は目を開いた。

 飛び込んできたのは見慣れた天井。

 風邪でも引いたのだろうか。

 身体が重い。

 柘榴はこめかみに手をやりながら、上半身を起こす。


「お嬢様!目を覚まされましたか!!」


 側に控えていたらしい芹が、柘榴に飛びつく。

 女性といっても大柄で筋肉質な芹に勢いよく飛びつかれ、柘榴は「ゴフッ」とマンガみたいな声をあげてしまった。

 勢いを止めることもできず、そのまま横に倒される。

 そして柘榴はそっと死を覚悟した。


「お、お嬢様ああああああああ!!!!」


 いや、あなたのせいですからね、これ!

 芹の叫びっぷりに、柘榴は思わずそう胸の中でつっこんだ。




「それで、冬青兄様の容体は?」


 起床してから小一時間。

 それはもう至れり尽くせりだった。

 柘榴は基本、布団の上にいるだけ。

 それだけで甲斐甲斐しく、メイド達が柘榴の顔を拭いてくれたら髪を整えてくれたり、お粥を口に運んでくれる。

 ちなみにこういうお世話は芹が最も苦手とするところらしく、彼女はお湯を運んだり、食器を片付けたりと雑用を一手に引き受けていた。

 見るからにパワー系だものなぁ、と柘榴はぼんやり思う。

 普段ならばそういうお世話を全て断り、自分のことは自分でやっているのだがーーー

 頭が痛く身体が重い。

 そのため今日はお任せすることにした。

 その結果、柘榴は思う。


(これは確かにダメになりますね)


 前世(きおく)を思い出す前、柘榴がワガママで高慢ちきなお嬢様だったことも頷ける。

 毎日こんなにも至れり尽くせりだったならば、まだまだ子どもなんだし勘違いするってものだ。

 実質は数百歳の柘榴は他人事のようにそう思い、明日からはやっぱり自分でやろうと誓った。


 よかったこともある。

 そうやって楽をさせてもらったおかげで、随分と身体が軽くなったからだ。

 さっきまで割れそうに痛かった頭もすっかりよくなり、柘榴はようやく余裕が出てきた。

 むしろ前よりも軽く、爽快になった気がする。

 身体の奥から力が湧き上がってくるような。

 こういうことは今までにも何度か経験があった。

 なので今後のことを思うと、違う意味で柘榴は頭が痛かったが……

 ひとまず今は自分について考えないことにした。


 何より気になるのは義兄のこと。

 自分のことなんて、いざとなればどうにかなる。

 何ともならなかったら死ぬだけ!最高!

 望むところ!

 そんな柘榴に向け、メイドを下げさせた芹が、柘榴が意識を失ってから起きるまでのことを順を追って説明してくれた。



 柘榴は昨晩意識を失ってから約半日ほど、眠り続けていたらしい。

 今は昼を過ぎたほど。

 冬青の容体は安定しているらしい。

 医者によると、何の心配もなくなったようだ。


 柘榴が意識を失ってからすぐ、冬青は使用人を呼んで室内の立ち入りを許可したとのこと。

 その後すぐに駆けつけた医者に「柘榴が治した」と端的に告げ、医者と使用人に柘榴を任せてから冬青も意識を失ったらしい。

 あれだけ強い呪いを受けて正気を保っていたことも驚いたが、呪いを解いてなお、意識を失わずにいたなんて。

 冬青の精神力の強さに、柘榴はただただ驚くばかりだった。


 呪いとは、かける方もかけられた方も解く方もそれぞれ消耗する。

 複雑で強い呪いはかける方はもとより、解く方もかなり消耗するのだ。

 そしてそれ以上なのがかけられた方。

 呪いがその身にあるときは生命力を奪われ、呪いがその身から離れた時はそれ以上に消耗する。

 それでも冬青は意識を失わなかった。


(一度研究してみたいものですね)


 ついつい頭に浮かんだ研究欲を、柘榴は振り払う。

 もう己は魔女ではないっていうのに。

 探求したいのは生まれつきの性。

 変えようがないらしい。


「それで……冬青兄様は?」

「まだ眠っておられます」

「よかった」


 ある程度回復するまで、冬青はきっと眠り続けるだろう。

 柘榴が半日ほど、目を覚まさなかったように。

 けれど呪いをかけられても正気を保っていたくらいだ、回復もきっと早いはず。

 ひとまず、柘榴は大きく息を吐き出した。

 目を覚まさなかったら問題だが……

 そう考えると少し怖くなり、柘榴は立ち上がろうとする。


「お嬢様、どうかされましたか!?」


 芹が慌てて、柘榴に手を貸した。

 手を借りなくても今は身は軽い。

 柘榴がさっと立ち上がると、芹は柘榴のために羽織を持ってくる。


「お医者様を呼んで参りますか?」

「大丈夫。冬青兄様の元に行きたくて」

「眠ってらっしゃいますよ」

「ええ。それでもこの目で確認したいんです」


 「お身体にさわります」と芹は続けたが、柘榴は大丈夫だといいきった。

 本当にもう身体が軽いのだ。

 頭だって痛くない。

 芹は散々心配していたようだが、柘榴の意思が固いことがわかると説得するのは諦め、着物の用意を始める。

 寝間着から着物に着替え、柘榴は義兄のもとに向かった。


 道すがら、柘榴はふとした変化に気づく。

 柘榴が歩を進めると、使用人達が頭を下げるのだ。

 今までも使用人達は柘榴に丁寧だった。

 それもそのはず、柘榴は国随一のお嬢様である。

 けれど確実に何かが違う。

 昨日までの使用人は「義務」として柘榴に頭を下げていた。

 しかし今の使用人達はーーー

 自らの意思で柘榴に頭を下げているようだった。

 向けられる目には尊敬と、そして畏怖。


(怖がるのはわかるけど、どうして尊敬?)


 好奇心を持たれるのはわかる。

 恐怖を感じるのだって理解できる。

 けれど尊敬なんて……

 今まで向けられてきたことはなかった。

 一時的なものであればあったかもしれないけれど。

 柘榴はいつだって、恐怖と好奇心の対象だった。

 そしてある時では信仰の。


(まぁ気にしてても仕方ないか)


 こちらが悩んだところで正解があるわけでもない。

 柘榴は頭を下げる使用人達に微笑みながら軽く会釈を返すと、さっさと義兄の部屋に行った。


 義兄の部屋の近くには、執事が待機していた。

 今朝まで眠り続けていた柘榴が起きて早々、冬青の元に来たことに執事は驚いたようだが……

 柘榴が状況を尋ねると、素早く教えてくれる。

 いわく、冬青はまだ眠っているらしい。

 昨晩から一度も目を覚ましてないようだ。

 14時間は眠り続けている。

 執事は心配しているが、呪いをかけられて解いたとなればその程度の睡眠は必要。

 長い時は2日ほど眠り続けるときもあるんだから。


「よくわかりました。お医者様は?」

「眠っているだけなので問題はないとおっしゃり、一度帰られました」

「私もそう思います。ところで父様と母様は?」

「お館様と奥様はまだご帰宅されておりません」


 よし。

 ならば今、部屋の中には冬青以外いないってことだ。

 チャンスだ!と柘榴は思った。

 何もできないはずの鬼姫・柘榴が魔法を使うところを知られたくない。

 ただでさえ腕力一辺倒の鬼が魔法を使うなんて、あまりないことなのだから。

 しかも柘榴が使う魔法は、前世どころか前前世の魔法。

 この世界の魔法とどう違うのか。

 この世界ではどの程度の魔法なのか。

 柘榴にはまだわからない。

 前前世では鬼とか、悪魔とか、神様とか呼ばれた魔女だったため、そんなに低い魔法を使っているわけではないだろう。

 昨晩の呪いも解くことができたわけだし。

 そうなると余計に厄介だ。

 多くの人には知られたくない。


 ついてきた芹と執事に人払いを頼み、柘榴はひとりで義兄の部屋に入る。

 ベッドで眠る冬青は、昨晩と違って落ち着いていた。

 顔色も良ければ、呼吸も一定。

 昨晩は黒に変色していた頰や喉をちらりと見たが、白い肌に戻っている。

 多分胸も同じように回復してるだろう。


「よかった。何ともないようですね」


 本当にただ眠っているだけだ。

 柘榴は安心し、ベッドの側に椅子を持ってきて腰をかける。

 そして冬青の寝顔を眺めることにした。



ブクマありがとうございます!

嬉しくて明日の分も更新してみました!

(明日の更新もちゃんとします!)

やる気に繋がってます!

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