ブリーチング・ザ・シュライン
「最初はこの神様ですわ」
23区を大きく外に出たとある市の住宅地からもほど近い神社。
境内はことのほか広い。
けれども僕は思わず顔をしかめた。
「荒れてますね」
まず鳥居の上の石が欠けていて崩れ落ちるのではないかという状態だ。
手水舎にも水は溜まっているけれども、流水とはなっておらず藻がこびりついている。
「ヒロオさん、皆様、これを着てください」
ミツキさんはバンの後部ハッチを開け、作業服をみんなに配った。エイジーたちは、
「こんな年寄りくさいのは着たくない」
と言ったけれどもミツキさんは、
「お年寄りぽいのではなく、お年寄りではありませんこと」
と、事実をズバッと告げた。全員あまりにも当たり前のことを言われ、しゅんとなって着替えた。
そして、箒、軍手、ゴミ袋の他に工具箱のようなものも取り出して号令をかけた。
「皆さま、一斉に掃除をいたします。まずはお参りをしてからです」
みんなぞろぞろと社殿に向かう。
無人の社殿は、見ただけできちんとした修繕が随分となされていないことが分かった。言葉を選ばずに言えば、みすぼらしい、と思った。
全員で二礼二拍手一礼した。
「ボランティア活動かい」
掃除が始まるとツッチートがぶすっとした顔で乱暴につぶやいた。ミツキさんが笑顔を向ける。
「いいえ、ボランティアではございませんですよ。ちゃんとお金をお渡しします」
ほお、と老人4人が顔をほころばせた。
「それならスタジオ代にできるわね」
リッツンもニコニコ顔だ。
「働かざる者弾くべからず、ですけれども、きちんと労働なさるのであればどなたにも遠慮は要りませんわ」
ミツキさんがテキパキと作業しながら老人たちを励ます。
「あ、ピト」
ユウリのすらっとしたふくらはぎに頭をピトっとくっつけていたピトが、急にすいっと社殿の裏側の方へ行った。
「遊びたいんだろ。すぐに戻ってくるよ」
僕は特に気に留めず、ミツキさんから指示された電球の取り替え作業を続けた。
社殿の外側にある裸電球の照明を、脚立を使って取り替える。
「ふう」
三箇所電球を取り替えて脚立を畳もうとしていると、フギャー、という感じの猫の声がした。
「ピト?」
ユウリは社殿の裏側に駆け出した。