敏腕女子のプロモーション
「え〜、やだよ〜」
持ち込み、と言うと長谷ちゃんは駄々っ子のように嫌がった。出版社というものをとても権威的な場所と考えているようだ。
「長谷ちゃんの小説なんだから自分で行かないと」
「やだ〜」
「何が嫌なの?」
「けなされるのがやだ〜」
「何言ってるんですか。けなされてもみてもらえないよりマシでしょ」
「そうだけど〜」
僕らが不毛なやり取りをしていると花井部長がやってきた。
「長谷ちゃん、行くよ!」
「部長〜。部長はいいですよ〜。もう一冊出版してるし〜、就職先だって出版社だし〜」
「花井部長、marusanで出してもらうことってできないんですか?」
「ユウリちゃん、我が社はあくまでもサブカル現象を第三者的視点から扱う出版社であって、サブカル本体を自ら実践することはやらないって決めてるのよ。そうしないとコアコンピタンスがぼやけて業績にも影響しかねないから」
「そうですか・・・」
「でも、業界にいるお陰で人脈はあるからそのへんは任せて。ねじ込むまでの力はないけど」
「やりすぎると読者無視ですもんね」
「そうねえ・・・ヒロオくんの言う通りなんだけどねえ・・・」
あれ? 花井部長にしては歯切れが悪い。
まあいいか。とにもかくにも『営業』開始だ。
・・・・・・・・
軽四のワゴン車に長谷ちゃん、ユウリ、僕が乗り込み、運転してくれるのは花井部長だ。
marusanの営業車だそうだ。
サブカル系の零細出版社とは言え、入社前の学生なのに営業推進部長として敏腕を発揮している花井部長。
本件でも敏腕だった。
「みんな、今日一日で10社回るから」
「10社⁈」
「『タイシとシナリ』の概要版と本文はもう各社の担当者にメールしてある。それぞれのアポの時間までに粗々読み込んですぐに本題に移れるように指示してあるから」
「すごいですね・・・」
「ヒロオくん、別に私がすごいわけじゃない。一緒に仕事してくれる各社の担当者の方たちが有能なのよ」
そうかもしれないけど、花井部長は間違いなくスーパーウーマンだ。
小説プロモーションをいい機会にして僕は花井部長の仕事ぶりを学んでみたくなった。




