セヨ、働く
「セヨ、5番テーブルのカップ、さっさと下げてきてくれ」
「セヨちゃん、レジに回って」
「おーい、ニーソのお姉さーん、オーダーまだあ?」
セヨはくるくるとテーブルとカウンターの間を行ったり来たりする。
巣鴨・大塚・池袋界隈の喫茶店組合が共同で出している喫茶スペースが殊の外盛況なのだ。
「意外と純喫茶も健闘するもんだね」
「まあ、落ち着くんだろうね。みんながみんなセルフスタイルのカフェがいいっていう訳じゃないだろうから」
「ひー、ホット2丁!」
「こら、セヨ。『ひー』とか言うな。それから、『2丁』なんて言ったら雰囲気がぶち壊しだ」
「わかったわかった」
結局僕らはそのまま閉会の時間までみっちりと働いた。
もちろんセヨも。
「うーん、君なかなかかわいいし応対もはきはきしてていーよ。まあ、愛想がいいというよりは威勢がいいって感じだったけど」
アランのマスターもセヨをとりあえずは褒めてくれた。
当のセヨはげっそりしている。
「じゃ、これ、バイト代」
「え、こんなに?」
「うん。頑張ってくれたからね。色つけといたよ」
「うーむ、ありがとう」
セヨはマスターからもらったバイト代の封筒を押し頂くようにして受け取った。
帰りの電車の中、僕とユウリはまるで小さな子供を持つ親のようにして中学生のセヨを挟んで座った。よほど疲れたのかセヨはユウリの肩に頭をもたれて眠っている。
まあ、最初はいつものごとく僕の肩でふしゅるる、という大きな寝息をたててヨダレをだらりと流していたんだけれども、僕がはねのけたらユウリの肩で比較的大人しくしているという状態だ。
「秋葉原ー、秋葉原ー」
ホームに入る頃に、むくっ、とセヨは目を覚ました。
そしてこう言った。
「ヒロオ、ユウリ、もしよかったらなのだが」
「ん?」
「なあに、セヨちゃん」
「晩御飯は外で食べないか? まあ、普段タダでご飯を食べさせてもらっているお礼にウチがバイト代でおごるぞ」
「いいいい。せっかくのお金だ。なんかの足しにしろよ」
「いや、それではウチの気が済まんのだ。一応これでも2人には感謝してるんだぞ」
「ヒロオ。セヨちゃんの厚意、いただこうよ」
「うーん。そうだね。セヨ、どっか美味しい店でも知ってるのか?」
「実は寮の近くに一度行ってみたいと思っていた定食屋さんがあるのだ」
「定食屋? そんなのあったっけ?」
「結構老舗っぽい感じの店だぞ」
「ふーん。じゃ、そこ行ってみようか」