レッツゴートゥビッグサイト!
「セヨ、ビッグサイト一緒に行ってくれるか」
「何⁈ ビッグサイトだと⁈ ヒロオ〜、隅に置けんなー」
「はあ?」
「コミケだろう? とうとうウチも晴れ舞台に立つ時が来たか」
「・・・まあ、いいや。とにかく一緒に来てくれ」
「望むところだ!」
実はビッグサイトは僕も初めてだ。
あまりそっち方面には詳しくないのだけれども、セヨが言うコミケの意味ぐらいは分かる。
僕とセヨは人でごった返した会場に意気揚々と乗り込んだ。
「おー、ヒロオ。なんか、お洒落な人が多いな」
「うん、確かに」
「なあ、ヒロオ。エプロン姿のコスプレの人がやたら多いが、これはアレなのか。今流行りのカフェを舞台にしたラノベのコスプレなのかな?」
「さあ。僕はそういう小説とか読んだことないから分からん」
「それからやたら年齢層が高くないか? まあ、アニメやラノベファンも幅広い世代に広がったということだなのだろうが」
「どうかな。まあ、これぐらいの年齢層が適齢じゃないか」
「適齢、か。ヒロオにしては粋な表現をするもんだな」
僕とセヨはとりあえず会場をぐるぐると回った。
数分でセヨの態度が豹変する。
「・・・騙したな」
「別に」
「なんだ、これは」
「まあ、マニアックなやつも即売してるな」
「マニアックだと? 『マーケットにおけるコーヒーの原価管理に関するテクニック』 どういうことだ?」
「へー。こんな雑誌もあるんだな」
「ふざけるな! ウチのこの一張羅をどうしてくれる⁈」
セヨが一張羅と大げさに言うのは、僕がまったく認知しないアニメキャラだろう少年のアップ画像をプリントしたTシャツと、セヨにしては勇気ありありのショートパンツと白のオーバーニーソックス。
まあ、これが通常仕様のjc2ndならば萌える人もいるのかもしれないが、結局はセヨだ。
エプロン姿の渋い中年男性たちが、ギョッとした表情でチラ見だけして目を合わせないように通り過ぎて行く。
そのエプロン姿の中年男性たち、まあ女性もいるが、彼ら彼女らはカフェや喫茶店の経営者や関連した企業の担当者たちだ。
『喫茶店見本市 イン ビッグサイト』
僕はコミケだと一言も言っていない。
これはカフェや喫茶店業界の見本市なのだ。
コーヒー豆の卸業者はもちろん、豆を挽くところからドリップまでの様々な用具や機械のメーカー、それからウェイター・ウェイトレスの制服メーカーまで幅広い関係者たちがわやわやと会場を所狭しと闊歩している。
「セヨ、ユウリを探してくれ」
「ああ? なんでユウリがここにいるんだ?」
「ユウリのバイト先の、『純喫茶アラン』もブースを出してるんだよ」
「知ったことか!」
不機嫌全開のセヨを無視して僕は会場を見回す。
「ヒロオー!」
お、いたいた。
アイロンをきちんとかけた白のワイシャツに蝶ネクタイ。スリムな黒のスラックスに磨き上げられた黒のローファー。
ユウリの職場、巣鴨の『純喫茶アラン』はウェイターもウェイトレスもこの制服で統一されている。
そのストイックなユニフォームに身を包んだユウリが僕に笑顔でぶんぶんと手を振っている。
「ヒロオー、セヨー! こっちこっちー!」
うーん。
凛々しくって、かわいい。