都内強制散歩〜並んで歩いた
後楽園から原宿まで延々と歩いた。
僕はケージを隠すようにして歩いた。
当然だろう。
手のひらサイズとなったケンコとクロが中で不平不満の限りを喚いているのだから。
「やかましい!」
僕は遠心力の実験のようにケージをぐるんぐるんと回転させた。
「ちょ、ヒロオ、ケガしちゃうよ!」
「こんなんでケガするんならあんな凶悪なことしないでしょ」
一応心を鎮めて回転を止めてやった。
原宿近くなると僕のその奇行を見て距離をとる通行人多数。
ただ、ユウリが胸にピトを抱いて歩く姿に見とれる男子と、「かわいー」とピトを愛でる女子は結構いる。
「宮司さま、これ、どうしましょうか?」
神社に到着してケージの中のケンコとクロを見せても宮司さまは顔色一つ変えなかった。どうやら耐性があるらしい。ピトもそうだけれども宮司さまにしたって単なる紳士というわけじゃなさそうだ。
「ヒロオさん、とりあえず出してやりましょう」
「え? いいんですか?」
「構いません」
僕は最大限の警戒態勢でケージの扉を開けた。ユウリもきゅっとピトを抱きしめて身構える。
ぶわっ、と白い煙を立ててケンコとクロが飛び出した。
「ハハハっ! 宮司も耄碌したな! 私を解放してタダで済むと思ったか! クロ、やれ!」
ピトがユウリの腕から、とっ、と地面に降り立つ。そのままクロの真正面に立った。
「何? ピトめ、いつの間に巨大化したんだ⁈」
いやいやいや、とその場の全員がケンコに突っ込んだ。
「・・・周りの風景見てみなよ」
「何・・・おわっ、神社も巨大化している。よく見たら貴様も!」
「いや、そうじゃなくて・・・アンタが小さいままなんだよ」
「あ、そういうことか!」
ケンコが間の抜けた反応をしているとユウリが宮司さまに質問する。
「どうして小さいままなんですか?」
「ピトの力でしょう。ずっと小さいままというわけではありませんがしばらくはこうしておけば攻撃もできませんですからね」
なるほど。
僕は先を急ぐ。
「宮司さま、よく分かりました。で、こいつら、どうしましょうか?」
「ヒロオさん、実はこの者たちの力を押さえ続けられるのはピトだけなんですよ」
「はあ」
「しばらく寮でピトに監視させてやっていただけませんか」
「いや、それは!」
「はい、喜んで!」
前者が僕の反応、後者がユウリ。
「ユウリ。ピトだけじゃなくってこいつらまでなんて無理だよ!」
「どうして? ピトに監視して貰わないとダメなんだから寮に連れてくしかないじゃない。宮司さま、でしたらピトと一緒に暫くお預かりしますので」
「よろしくお願いします」
「ちょ、それならピトが神社に戻ればいいじゃない。ユウリはピトを長いこと寮に置いときたいだけでしょ?」
「ち、違うよ。純粋に神社の神様のお役に立ちたいだけだよ」
「にゃあ」
ああ、もう。
結局、僕は折れた。
まあ、手のひらサイズならクロもかわいいかもしれない。
ただ、また電車に乗れない。
今度は原宿から秋葉原までの道のりだ。
歩きに歩いた。
「あーあ」
「ヒロオ、もうちょっと。がんばろ」
「もうだめだー」
「陸上部のくせにだらしないよ。ピト、ちょっとごめんね」
促すとピトはユウリの腕の中から、ととっ、と歩道に降りた。
なんだ? 何する気だ?
「ほら、手が空いたから。はい」
そう言って僕の左手をきゅっと握ってきた。
「これなら歩ける?」
「えーと・・・まあ、なんとか」
自分でもよく分からない応答をした。
ケンコとクロがまた騒ぎ出したのでケージを持つ右手で、ぐるんぐるんと遠心力の実験をした。