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RUN & RUN !(走れや走れ!)

ミツキさんとピトのスタンバイの間、ユウリが話しかけてきた。


「ねえヒロオ。猫まわしって、猿まわしみたいなやつかな。太鼓叩きながら」

「いや。ミツキさんがそういう安易なことやるわけがない。それにピトみたいにくらいの高そうな猫にそんなことさせられないでしょ」

「じゃあ、なんだろ」

「うーん」


ミツキさんが口上を始める。


「さあ、皆さま。ここにいるこの白猫は『ピト』というそれはそれは賢く道義にも厚い猫の中の猫でございます」


ミツキさんの可憐さとピトの凛々しさにギャラリーが一気に増えた。

拍手する人までいる。


「これからこのピトの能力の高さのその片鱗をご覧いただこうと思います。名付けてこう申します。『ネコマワシ』と」


「あれだろ。どうせ自分の尻尾を追っかけてくるくる廻るみたいなありがちなやつだろ」

「オカモ先輩はピトの恐ろしさを知らないからそんな長閑なことが言えるんですよ。ピトは本当は・・・」


僕がそう言ったところでギャラリーがどよめいた。

ピトが、とっ、とミツキさんの腕の中に飛び乗ったと思ったらミツキさんはそのままピトを中空高く放り上げたのだ。


「えっ⁈」

「ピト!」


ユウリが叫ぶ。


少なくとも5メートルの高さには達しようというピトは・・・


確かに、マワっている。


表現が非常に難しいけれども、体操選手の床の演技でジャンプして何度も体をひねるあの技を更に数段レベルアップしたような横回転。


確かに、すごい。


ただ、僕はほっとした。

単にピトの身体能力の高さを披露するこの芸ならば、お客さんも喜ぶだろうし、想像を超える技ではあるけれどもありえないというほどのレベルでもない。


「よかったよかった」

「あ。ヒロオ⁈」


ユウリの鋭い声に視線を下ろしかけていた僕はもう一度目を上げた。


「あ!」


ピトが回っている。多分10回転以上。


それだけではない。


浮いたままなのだ。


空に浮いたままロールし続けているのだ。


ぽかん、と見上げているとギャラリーが、


「えーっ⁈」

「おおっ⁈」


と声を上げている様子に我に返って叫んだ。


「ミツキさん、まずいですよ!」

「あら。少しやり過ぎてしまいましたね。ピト、もう終いにしましょう」


そう言うとピトは回転を急にピタ、っと止める。

止めた瞬間に落下してくるピト。


「ピト! 危ない!」


ユウリが叫ぶと、真下のミツキさんの方へ落ちていたピトが鋭角にユウリの方へびゅっ、と落ちながら体を横滑りに移動させる。またもや、『ええっ⁈』とどよめくギャラリー。

ピトはものすごいスピードでそのまま落ち続け、無意識の内に抱えるように伸ばしたユウリの腕の中に、吸い込まれるように、すっ、と収まった。

そして、


「にゃあ」


と一声。


「よーし、トリも終了!撤収!」


オカモ先輩の号令で一斉に残ったお菓子をひっ抱えて先輩方が駆け出す。

僕らも後に続く。

ギャラリーはなんだなんだと大騒ぎのままスマホでピトと僕らを撮り続ける。


「走れ走れ!」


隣を見るとしっかりとピトを抱きかかえたユウリがケラケラ笑いながら走っている。

セヨも駄菓子で口をモゴモゴさせながら、


「ふーはい、ふーはい!(痛快、痛快!)」


とゲラゲラして走っている。


ミツキさんも、長谷ハセちゃんも、先輩方もみんな。


僕らはそのまま池袋駅まで疾走した。




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