幽霊と同居しました
8月16日
【7時00分】
連続高校生殺人事件は急展開を見せる。
匿名の通報が有り、101号室から住人と思われる男の死体が見つかる。
そして事件に使われたであろう凶器も。
警察は101号室の男性が犯人だという線で捜査を進める。
【8時00分】
「辻」のドッペルゲンガーは、警察が来る少し前に偶然部屋から出ていた。
なんとか難を逃れたドッペルゲンガーだったが
「コンニチハ。貴方が人間でなくて良かったデス」
突然そんな事を言ってくる女性が一人。そして、その直後……ドッペルゲンガーは意識を失った。
【11時00分】
目を覚ましたドッペルゲンガー。裏野ハイツの一室で拘束されていた。
「お目覚めデスカ?」
辻の姿をしたドッペルゲンガー、目の前には先程の探偵ともう一人。
「…………」
沈黙した男。202号室の男が居た。
「拓真サン、デハこれで約束は果たしまシタ。瑠衣サンと貴方は私とキテモライマス」
コクンと頷く拓真と呼ばれた人間
ドッペルゲンガーはわけも分からず目で訴える。口はガムテープで塞がれ喋れない。
「貴方ハ……可哀想デスネ。ようやく本体を殺して交代できるというときに……シカシ同情の余地はアリマセン。無関係の未成年を手に掛けたのですカラ」
探偵と拓真は部屋を出て行く。
その部屋、102号室から。
「あの部屋の怪物はナンナノデスカ?」
探偵は拓真へと質問する。ドッペルゲンガーを閉じ込めた部屋。102号室にはある者が住み着いていた。
「よくわからない……だが危険すぎるるから俺が結界を張って閉じ込めていた」
探偵も人外の事については多少の知識はあったが、102号室の怪物は理解できない物だった。
「貴方ハ法術師デスカ?」
「ただのボウズだ」
【11時10分】
『 』
102号室、ドッペルゲンガーは何かの声を聞く。だがなんと言っているか分からない
『 』
声はだんだん近づいてくる。ドッペルンゲンガーは芋虫の様に這いつくばり、拘束を解こうとする。
『 』
だが解けない、声はすぐそこまで来ている。
『 』
足を掴まれる。
そのまま引きずられる。
その先には暗い押し入れ
「んー!! んぅぅぅ!!!」
ドッペルゲンガーは声にならない悲鳴をあげる。
だが容赦なく押し入れの中に引きずりこまれ、扉が閉まる。
「んぅぅ! んぅぅぅぅぅ!!!!」
中で何が行われているのか。
再び押し入れの扉が開けられた時
ドッペルゲンガーが来ていた服、拘束されていた縄、ガムテープを残して
その姿は綺麗に「102号室」に食われていた。
【13時00分】
「以上が調査の結果デス」
姫川瑠衣の叔父は、探偵から今回の依頼についての調査をホテルの一室で報告された。犯人と思われる人物は自殺、そして警察もその線で捜査を進めていると。
叔父は悔しさを表情に露にする。なぜ自殺してしまったのかと。姪を殺しておいて結局自分で自殺を選んだ犯人に、新たな憎しみが湧いてくる。
「お気持ちは分かりますガ……変な気は起こさないでクダサイ。瑠衣さんが悲しみマス」
叔父は顔を手で隠しながら、探偵にお礼をいいつつ報酬である金を差し出した。
「ありがとうゴザイマス。ぁ、あと……コレ、瑠衣さんの部屋で見つけまシタ。後で「再生」してみてくだサイ」
探偵はマイクロSDを叔父の前に置き、席を立つ。
「ソレデハ……」
そのまま探偵は姿を消した。残された叔父は、渡されたマイクロSDを見つめる。
「再生……しろ……」
(あの探偵は中身を確認したのか……そのうえで俺に再生しろとは……何が入ってるんだ……?)
叔父はマイクロSDを、自前のノートPCに入れて再生する。
そこに写っていたのは、瑠衣が引っ越したあの部屋。裏野ハイツの一室の映像が映し出される。
そしてそこに横から、瑠衣がカメラの正面に座った。
『これ……もう写ってます? ぁ、写ってますか? えっと……叔父さん、お久しぶり……でも無いですね、お父さんとお母さんのお葬式以来……ですかね、すみません、私も……その……死んでしまいました……』
(な、なんだ、この映像は……死んでしまった? 自分が死ぬと分かってたのか?)
『えっとですね、実は私は……幽霊になっちゃったんですけど、ある人に……力を貸してもらって……天国に行くのはまだ先になりそうです……この映像を残そうと思ったのは……叔父さんが復讐を望んでいると、探偵さんに聞いたからです』
叔父は瑠衣の言葉の全てを信じているわけでは無い、だが何故か涙が零れる
『えっと……復讐は……我慢してください……叔父さんの気持ちは凄い分かります、でもやっぱり……叔父さんまで警察に捕まってしまうのは……ダメだと……思いますし……えっと……上手く言えませんけど……とにかく、私は犯人を恨んでない……って言ったらウソかもしれないですけど……』
涙が止まらない、叔父は目頭を押さえながら映像の瑠衣を見つめていた。
(この口調……この態度……間違いなく瑠衣だ……)
『えっと……その……幽霊になってですね、力を貸してくれた人が居るんですけど……じ、じつは……その人の事が好きになったというか……だから、言い方悪いですけど……憑りつく事にしました……ちなみに本人の許可も取ってあります……』
いきなり話題が変わって、思わず叔父はガクっと肩を落とす。
『だから……私は私で元気にやっていくので……叔父さんも……頑張ってください、それじゃあ……おじさん……さようなら……今まで……ありがとう』
それで映像は終わった。死んだ姪に復讐はダメだと説教され、好きな人が出来たから付き合う事にしたと報告された。叔父の心境は複雑だったが、可愛い姪に言われては仕方無い、と荷物を纏める。自分の帰りを待つ人の元へと帰るために。
【15時00分】
裏野ハイツ。
101号室の男は首を掻き切られ死んだ。自らのドッペルゲンガーの手によって。
102号室には正体不明の化け物が住み着いている。
103号室、3歳ほどの子供と両親が仲睦まじい生活を送っている。
201号室の老婆は、202号室の男と別れを告げ寂しそうだ。
そして203号室。姫川瑠衣の荷物がそのまま残されている。
そして押し入れの中、南京錠で締められた怪しげな扉が一つ。
金森香苗が拾った鍵
彼女がそこを開ける日は近いかもしれない。
えー……すみません、なんだこの終わり方……
裏野ハイツ怖いですね! こんなアパートには引っ越したくない……