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幽霊と同居しました  作者: Lika
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手掛り

8月14日


【11時30分】


 殺された女子高生、姫川瑠衣の同級生で親友の金森香苗は、裏野ハイツへと来ていた。


ほかでも無い、親友を殺した犯人を探す為に。


香苗は裏野ハイツの敷地内へと入る。警察官らしき人間は居ない。


瑠衣が引っ越した部屋、203号室の前へと、香苗は立った。


ドアには当然のことながら鍵が掛かっていた。


(中には入れない……管理人も鍵を貸してくれないだろう……)


香苗は瑠衣の部屋を調べようとしていた。


犯人の手掛りを掴み、復讐する。瑠衣をあんな目に会わせた人間を殺す、と。


どこか不気味に見えるアパートを香苗は散策する。


まず2階部分の3部屋。201号室、202号室、そして瑠衣が引っ越した203号室。


香苗は2階部分を2往復ほどうろつく。傍から見れば怪しい事この上ないだろう、だがそんな事は関係ない、瑠衣を殺した奴を見つけ出して殺してやる。それしか考えていなかった。


「おい、君、そこで何してる」


うろついてる香苗に後ろから声と掛ける男が居た。見た所、警察官のようだ。


香苗は警察官を半分睨むようにしながら、ゆっくりとした口調で答える。


「親友が……殺されたんです……犯人は……? 見つからないんですか……?」


香苗は警察官へと歩み寄り、睨みつけながら言い放つ。


「なんで? 早く見つけて……死刑にして! なんで見つからないの?! 早く見つけてよ!」


香苗はいつの間にか涙を流しながら警察官へ訴えていた。


警察官は大体の事情を把握する。目の前の少女は、殺された女子高生の友人だと。


「今、捜査中だ……それより君は……何をしにここへ……」


警察官に何をしに来たと尋ねられた香苗は、半分ダメ元で


「瑠衣の……形見が欲しい……なんでもいい、あの子の……部屋に入りたい……」


警察官は頭を悩ませる。ダメに決まっている。今は捜査中なのだ、この少女が犯人とは警察官も思ってはいなかったが、一般の部外者を入れるわけには行かない。


「すまない……無理だ……今日はもう帰りなさい」


警察官にそう言われ、大人しく今日は帰る事にした香苗、警察官に一応会釈をし、その場をあとにした。


【12時00分】


正午、裏野ハイツから自宅へと歩いて帰宅する香苗。それほど距離は無かった。もともと瑠衣は、香苗の家に近くて立地のいいアパートを選んでいた。


これから始まるはずだったのだ、親友と一緒に待ち合わせをして高校に通い、学校帰りにどちらかの家に寄ってお泊り会をしたりと、香苗は楽しい思い出を作るはずだった。


だがそれは壊された、瑠衣を殺した犯人によって。


香苗は拳を握り許せないと、もう一度思う。


そして決心した。


もう一度、夜中に裏野ハイツへと行き、瑠衣の部屋に入ると。



【17時00分】


『おー? 久しぶりじゃん香苗、なんだよ、頼みたい事って』


香苗は携帯電話で男友達と連絡を取る。あれから商店街、ショッピングモールなどに行き、必要になるであろう道具を準備していた。


「うん、ちょっと……頼みたい事があって……」


『なんだよ、頼みたい事って』


香苗はツバを飲みこむ、断られたら仕方ない、一人で行くしかないだろうと、言い放った。


「瑠衣の……部屋に入りたいの……入って調べたい、だから……付いてきて……」


『あ? 瑠衣って……姫川の事か? お前、マジで言ってんの? 探偵でもあるまいし……』


「お礼ならする……お金なら……2万くらいなら……」


電話の向こうで沈黙する友人、香苗はダメか、と思うが


『分かった、いいぜ。こっちも人集めておいてやるよ、犯人襲って来たら返り討ちにしてやる』


どこか軽いノリで言う声に、香苗は不安を抱きつつも、集合場所と時間を告げて電話を切った。


実際裏野ハイツに行ったからといって何か分かるわけでも無い。だがこのままじっとしている訳にも行かなかった。


「瑠衣……私が仇を取ってあげるからね……」


香苗は瑠衣と共に撮った写真を見る。そこにある笑顔はもう見れない。犯人への憎しみが更に増した。



【22時00分】


香苗は男友達、斉木健二との待ち合わせ場所の裏野ハイツへ5分ほどの公園へと赴く。そこにはタバコを吸う4人組。その中に健二も居た。


「おまたせ……」


暗い声で香苗は、タバコを吸う4人組へと言いながら近づいた。


「よぉ、なんだよ、そんな怖え顔して……」


「おっ、結構可愛い子じゃん、お礼ってもしかして……」


「バカ、手出したら殺されるぞ、健二に」


4人組は笑いながら会話している。そしてそれぞれが鉄パイプ、金属バットなどを持っていた。


これから親父狩りでもするかのようだった。


そんな4人組に、香苗は言い放つ


「瑠衣の部屋に……入れたら見張っててほしいんだけど……お礼は……一応お金下ろしてきたから……」


「いやいや、別にお礼とか要らないって、なー?」


封筒に入れた金を差し出す香苗にそう言う男は、4人組の中でも軽そうな男だった。


香苗は嫌悪感を露にする、こういう男が考える事など一つしかない。


だが問題はない。香苗は知っていた。健二が自分に特別な感情を抱いている事を。だからこそ助けを求めた。


「じゃあ……付いてきて……裏野ハイツってとこ……ここから5分くらいだから……」


香苗が先導し、裏野ハイツへと歩く。その途中、男達からヒソヒソと会話している声が聞こえてくる。


「なあ、健二……少しだけでいいから……な?」


「殺すぞ」


「おい、健二キレるとマジやべーんだから……止めとけって……」


香苗はそんな会話を聞き流しながら、裏野ハイツへと再びやってきた。


昼間に見るのとは全然雰囲気が違って見える。


「見つからないように……警察が居るかも……」


香苗は4人組に告げながら、裏野ハイツの瑠衣の部屋へと続く階段へ足を掛ける。


できるだけ静かに、音を立てないように。


「なんかキモ試しみてぇ」


軽い男が言う


「バカ、静かにしろよ」


それを注意する、4人組の中でもマトモそうな男。


健二は黙ってついてきている。


そして瑠衣の部屋まで来た。


「で? どうやって入るんだよ」


健二が香苗へと聞くと、香苗は持ってきたリュックサックからピッキングツールを取り出す。


「おま……そんなもん何処で……」


「ちょっとマニアックな店に行けばあるわよ……一々騒がないで……」


香苗は鍵穴へと、ネットで勉強した通りにツールを通して格闘する。


こんな事が警察にバレたらマズい所の騒ぎじゃないだろう。


だが諦めるわけには行かない。瑠衣を殺した犯人を見つけるために。



ガチャン



鍵が開錠される、4人組の男達は口々にヒソヒソと香苗を称賛するが、香苗は黙れとジェスチャーし、部屋の中へと踏み込んだ。



部屋の中はまだ瑠衣が引っ越してきたばかり、という様子だった。


最低限の家具にダンボールに詰められた整理前の荷物。


香苗は犯人につながる何かを探す。警察など当てにならないと。


「じゃあ俺ら見張ってるから。あんまり長くなんなよ」


分かってる、と香苗は頷きながら部屋を散策する。ヒソヒソと男達は会話している。


隣にも住人は居るのだ、バレないだろかと思いつつも、部屋の中から手掛りを探す。


「ん……? 鍵……」


香苗はベットの下を覗いたときに鍵を見つける。部屋の鍵ではない、もっと小さい。南京錠の鍵のようだ。香苗は警察はこんなものも見つけれないのか、と思うが


(違う……そんなわけない、この鍵は……誰かが……)


「で、男3人で空しく見張りってどうよー……マジ寂しいね」


「うるせえよ、バレたらマジでやべえんだから……」


その会話に振り向く香苗、今男3人と言ったか、と。


「ね、ねえ、あんた達……4人居たじゃない……」


「あ? 何言ってんだ、俺が呼んだのはこの二人だけだぞ」


健二は香苗の質問に答える。


(そんな、そんなはず……確かに4人居たはず……公園で……確かに……)


香苗は寒気がする。そして思った。


4人目の声は聴いていない、と。


健二、軽い男、まともそうな男、そしてあと一人……誰だ、あれは誰だったんだ、と香苗は震える。


その時、気づいた。


「ねえ、あの人は? あんたらの中で一番マトモそうな……」


「あ? ん? あれ? あいつ何処行った?」


軽そうな男が、部屋の前で辺りを見渡す。いつの間にか居なくなっている男を探す。


「便所だろ……」


「あ、やべ……俺もしたくなってきた……ねえ、この部屋のトイレ借りていいかな」


「ばっか、ダメに決まってんだろ、その辺でしてこいよ……」


軽い男は健二に言われ、渋々その場から立ち去る。


だが香苗は途轍もない不安に襲われる。


最初4人居た。確かにこの目で見た。だがその4人目の声は聴いていない。


そしていつの間にか居なくなっている男。


(何よコレ……どこのホラーよ……やめてよ……)




【23時00分】


健二は時計を見る。


部屋の中に入り、玄関は開けっ放しで二人の男を待っていた。


「おせえ……どこまで行ってんだ、あいつら……」


「ね、ねえ……健二……もう帰ろう……」


健二は香苗を見る。涙目で震えている。


健二は不審に思いながら、座りこんでいる香苗に近づき、目線を合わせるように自分も座る。


「お前……どうしたんだよ、寒いんか?」


香苗は唇も真っ青になって震えている。


ゆっくり健二の顔を見る香苗。


「帰ろ? ねえ、帰ろ……?」


健二の腕を掴みながら、香苗は訴える。健二は頭を掻きながら


「わ、わかったって……」


健二は震える香苗の肩を抱いて支えながら、アパートのドアを閉める。


香苗は開錠は出来ても締める事は出来ない、と鍵は放置することにした。


香苗は震えながら健二に抱き付くように歩き、健二はそんな香苗を不思議に思いつつも、家まで送った。


「まあ、あいつら飽きて帰ったんだろ……」


健二は呟きながら、香苗が家に入るのを確認すると自分も帰路についた。










8月15日


【8時00分】


高校へと登校した香苗。


昨日の事を思い出すが、自分の中で気のせいだと思う事にする。


(健二にも……悪い事しちゃったかな……昼休みに謝っとこうかな……)


健二とはクラスが違った。


そして朝のHRが始まる。


担任が入ってくると、どこか重々しい雰囲気にクラスの生徒は首を傾げた。


「あー……皆、突然だが……落ち着いて聞いてくれ…… 我が校の……男子生徒が、3名……」


担任は目頭を押さえている。言葉が出ないようだったが、香苗は3名と聞いて背筋が凍る。




「今朝……遺体で見つかった……」



担任の生徒は悔しそうに、教壇に手を着いて俯きながら言い放った。

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