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幽霊と同居しました  作者: Lika
2/7

悲しみの再会

 8月11日


【11時00分】


一人の中年の女性が、病院の霊安室の前で泣いていた。


先程、女性は隣に住んでいた高校生の亡骸を確認した。


「瑠衣ちゃん……瑠衣ちゃん……」


女性は隣に住む高校生、姫川瑠衣と親しかった。不幸にも両親を事故で失い、多額の借金を背負った瑠衣を我が子のように思っていた。


だが、昨夜の瑠衣からの電話の後、夫と共に「裏野ハイツ」へと赴き瑠衣の部屋のドアが開け放たれ、瑠衣本人の姿が見えない事から警察へと通報した。



そして翌日早朝、最悪のケースへと事件は発展した。近くの公園、砂場に寝転がるように瑠衣の死体が発見された。


瑠衣と家族のように接していた女性は現実が受け止めれなかった。


瑠衣の悲鳴が聞こえた、あの電話。


そして、警察からいきなり遺体の確認を求められたのだ。


「なんで……なんで……」


霊安室の前で泣く女性の元へ、夫らしき男性が警察官と共に歩いてくる。


夫にはかける言葉が見つからない。あれほど仲良くしていた高校生が、突然変わり果てた姿で見つかったのだ。無理もないと口を紡ぐ。


しかし、警察官はそうもいかない。事件を解決する為、事情聴取をその場で行う。


「ご心中、お察しします……一刻も早く事件解決の為……お話をお伺いできますか?」


30台半ばの男の警察官は、床へとしゃがむ。ベンチで泣く女性と目線を合わせながら続ける。


「昨夜、23時頃……瑠衣さんから電話があった時、何か気づかれた事があれば……」


女性は泣きながら首を振る。気づくも何も、あったのは怯える瑠衣の声と、悲鳴だけだったと。


「瑠衣さんが引っ越した……裏野ハイツについて、何かご存知ですか?」


その質問にも女性は首を振る。


見かねた女性の夫が、代弁するように警察官へと


「瑠衣ちゃんと私で契約しに行きました……私が保証人に……多少古いアパートというだけで……他は何も……」


まさか入居して一日でこんな惨劇になるとは思わなかった、と夫も目に涙を溜める。瑠衣は近所でも評判のいい高校生だった。なぜこんな悲劇に巻き込まれなければならないのかと、二人は思っていた。


「わかりました、捜査に進展があればお知らせします、何か思いだした事があればすぐに連絡を……」


それだけ言い、警察官は去っていく。


夫は、女性の隣に座り慰めるように肩を抱きながら、自分も涙を流した。本当にいい子だったと。


そして許せないと。


なぜ、あの子がこんな目に会わなければならない、と心の中で犯人を憎んだ。


「もう一度……もう一回だけ……瑠衣ちゃんに会わせて……」


女性は立ち上がり、夫に支えられながら霊安室へと赴く。


仏壇の前に白いシーツをかぶせてある遺体。その顔の部分をゆっくり女性は捲る。



静かに眠る母親似の高校生。


自分達に子供が居ない分、我が子の様に接した。


女性は泣きながら謝った。こんなことになるくらいなら、自分の家に強引に住まわせるべきだったと。


一人暮らしをした方が、両親を亡くした悲しみを和らげれると思った自分が憎いと



夫は静かに眠る瑠衣の顔に再び布をかぶせる。


そのまま二人は霊安室を、支えながら出て行った。






【17時00分】


『こちら、被害者となった姫川瑠衣さんが入居したアパートです。築30年ということで……少し古く見えますが、近くにはコンビニや郵便局など……立地も良く、高校生の姫川瑠衣さんが一人暮らしをするには、好条件だったんでしょうか。』


 

 無表情でテレビを見る高校生。金森 香苗 


瑠衣の親友だった彼女は、制服姿で通夜へ出る為準備をしていたが、瑠衣のニュースがテレビに映るなりソファーに座りこんでしまう。


「瑠衣……」


いつのまにか頬に涙が伝う。心の中でなんで、なんでと叫ぶ自分が居る。


もう会えない。瑠衣には会えない、と香苗は蹲る。なぜあの子がこんな目に会わなければならないと。


そんな香苗を見て、母親が近づく。そっとソファーに座り、自分の娘を慰める。


「なんで……なんで瑠衣が……」


香苗は喪服姿の母親に抱き付いて泣きじゃくる。母親は香苗の頭を撫でる事しか出来なかった。


まさか思わなかった。ニュースで自分の知っている子が殺されたと報道される時がくるなど。


そこに香苗の父親もやってきた。二人に静かに頷き、


「そろそろ……いくぞ」


父親は車のキーを持つと、ドアを開錠し運転席へと乗りこむ。香苗と母親は後部座席へと乗りこみ、そのまま斎場へと向かった


【18時00分】


通夜が開式され、瑠衣の同級生達は泣きながら抱き合っていた。


「瑠衣……瑠衣……」


フラフラと斎場に着くなり、香苗は歩きだす。自分の親友の元へ


「瑠衣……どこ……瑠衣……」


その姿を見て母親は、香苗を後ろから抱きしめながら引き留める。


「香苗……無理しなくても……もう……帰っても……」


「やだ……瑠衣に……瑠衣に会いたい……」


泣きながら、母親に支えられながら歩く。


そんな二人へ、一人の男が近づきながら会釈した。どうやら喪主のようだった。


「この度は……御足をお運び頂き……」


喪主の男も最後まで言葉が出ない。この男は、瑠衣の父親の兄に当たる人物だった。今は遠く離れた地方へ籍を置くが、昨夜、警察から電話があり駆けつけていた。最悪のケースになるとも思わずに。


男へお辞儀する香苗の母親、香苗自身は足元がおぼつかない様子でただ歩いて行く。瑠衣の元へ。


そんな香苗を、案内する喪主の男。瑠衣が入った棺の所へ。


「瑠衣……」


棺には、経帷子を着せられた瑠衣の周りに花や、好きだったヌイグルミ、ファンだったアーティストのCDなどが一緒に入れられていた。香苗も瑠衣と一緒に買った髪飾りを置く。


「あぁ、うぁぁ……あぁぁぁ」


思わず声を上げて泣く香苗。そんな香苗を喪主と母親は支える。その泣き声を聞いた同級生達も悲しみが堪えられなかった。






【20時00分】


警察官が裏野ハイツの住人達へ事情聴取していた。


瑠衣の隣の部屋、202号室の住人はいくら呼び掛けても出てこない。しかし警察官も現時点で強引に踏み込む訳にも行かず、201号室の老婆へ事情聴取をしていた。


「昨日、丁寧にあいさつにきてくれて……良い子そうだったのに……」


老婆は俯きながら答えていた。今にも倒れそうな雰囲気だった。


「昨日の23時頃……何かお気づきになられましたか?」


老婆は首を傾げる。23時など、自分は既に寝ていたと


「わかりません……すみません……私も今だに何が何だか……」


警察官は老婆の様子を見て、事情聴取を終えようとしたが


「あの……実は……101号室の辻さんの所に……誰か分かりませんが……同居人が居るみたいで……」


警察官は首を傾げる。なんの話だと。


「その人の姿を見た事はないんですが……その……なんだか怖いもので……」


「わかりました、情報ありがとうございます」


警察官はそのまま、101号室へと向かいインターホンを押す。


すると中から男性が応対する。


「ぁの……何か……」


男は警察手帳を見せる警察官に不思議そうな顔をするが


「ご存知ないんですか? 昨日、こちらのアパートに引っ越してきた高校生の姫川さんが殺害された事についてお話をお伺いしたいのですが」


「殺害……?! え?! な、なんですか、それ……一体どういう……」


警察官は明らかに怪訝な顔をする。これだけ騒がれているのに知らないはずがないと。


「ニュース見てないんですか? いや、見てなくても……貴方の所にも挨拶に見えたはずですが?」


「いや、私の部屋にテレビは無いですし……携帯も解約されてて……え、えぇ……昨日挨拶に着て頂いて……」


警察官は男の脇から部屋を覗く。良く見えないが、部屋の中は静まり返っていた。テレビがあるかどうかまでは分からなかったが。


「昨日の23時頃、何かお気づきになった事はありますか?」


「昨日の23時……いや、すいません……特にこれといって……」


警察官は、老婆から聞かされた同居人の話も込みで不審に思っていた。自分のアパートの住人が殺されたのに、知らないなどあり得るのか、と。


「もう一つ……貴方に同居人は居られますか?」


ストレートに警察官は聞く、その瞬間男は震える。


「しら、しらない……帰ってくれ……」


男はドアを閉める。警察官も強引な事は出来ないと、渋い顔をした。





【22時00分】


「違う……違う……俺じゃない……違う……俺じゃない……俺じゃない……」


101号室の男は布団を被って震えていた。


同じアパートに引っ越してきたばかりの女子高生が殺されたと聞き、まさかと思った。


「俺じゃない……俺じゃない……」


男は立ち上がる。おぼつかない足取りで洗面台に向かう。


「違う……違う……」


そのまま水を出しながら、顔を洗う。違う、違う、と頷きながら


「はぁ……はぁ……」


男は鏡に映る自分の顔を見る。警察官から話を聞いてからというもの落ち着かなかった。


「違う……違う……」


鏡に映る自分を見ながらつぶやく




そして気が付く。





男の背後、鏡に映る……昨日挨拶に来た少女の姿に


「ア……違う……違うんだ、違う!」


男は目を手で隠し、恐る恐る再び鏡を見る




その男の背後




間近に迫った少女の姿を見た時、男は気を失った。



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