5
アリスが夜の回廊を歩いていると、英語が塀の向こうから聞こえて咄嗟に柱に身を隠した。
この時間はもう誰もが眠っている。
「確かに見えたんだ。ふっと現れて消えていったアリスの姿が」
それは時間を怒らせた帽子屋だった。彼は時間を取り戻すと操れるようになっていた。
「帽子屋が原因だったんだわ! この国に迷い込んだのも、何もかも」
アリスは陰に隠れながら歩いていく。
「!」
すると、広い庭にひょうっと、光りの線を引いて流れていく物体。ピンク色やブルー、黄緑や黄色のそれら。そしてとん、とんっと、派手な出で立ちの不思議の国の者がにったり笑いながら跳んだり跳ねたりをして光りに包まれている。アリスはヒッと叫んで、とたんに走り出した。
「見つけたぞ!! 女王を国へお連れしろ!!」
「きゃあ!!」
どどたどたと走る音が響きわたり、アリスは障子を開けて突っ込んでいったら畳に滑っていき、突っかかられた主人はうずくまっていたが、やかましい音に即刻床の間の刀を手にして鋭い目で立ち上がり、アリスがふらふら起きあがると、すぐにご主人様の背にしがみついた。
「見つけたー!!」
「何者だ!!」
ばたばたといきなり駆け込んできた者達をぐるぐると見回しながら彼はアリスにしがみつかれ、その障子の向こうに同じく寝間から起きあがって肩に着物を掛けた七紫が花札のような薄っぺらいガラス質や奇妙キテレツな様態の光りの間にいて二人を見た。それらはトランプの兵隊や不思議の国音住人達だったが、彼にはその姿がはっきりとは見えなかった。
すぐにアリスの腰を持ち上げてご主人様は騒々しい者達を飛ばしながら走っていき追いかけてくるのを七紫も短く叫んで二人に続いた。
「百鬼夜行か!!」
「わかりませんわ!!」
「help meeeeeee!!!」
外に出ると、声だけが大騒ぎをして追ってきて暗がりにとけ込むのか先ほどまで見えていた光りが見えなくなった。だがアリスには見えていて、凄い勢いで彼らが追ってきているのだ。眠りネズミなど眠りもどこへやら銀製のティーカップも跳ばして走ってくる。
厠に起きていたきい坊が首を傾げて母屋を歩き、それで廊下をあるいて庭に出ると、門を開けた。
「え!!」
妖怪が派手な出で立ちと狐のお面の有栖と藤本夫妻を追って走っていく。きい坊は驚きながらも、その団体の後ろをとんとんと走っていく縞猫を見つけて走っていくと抱き上げた。
「猫! あれは有栖の何?」
猫がにやあと笑って、叫んだきい坊は有栖を助けようと走っていった。
走りに走って夜も駆けてゆく駕篭がカードの兵隊を踏み散らし、どんどんと空は白み始めていた。
つづく