35 彼女たちのその後
《──あの方は逃がしてしまいました》
《そう。お疲れさま。あとは任せなさい》
ダメなのは分かっていたが、まさか守護神の光で逃げられるとは思わなかった。今度は私自ら対処しないといけないのか。
ため息をついたところで何も始まらない。先ほどから笑い声を上げているシーザスがいるせいもあってか、ものすごくイライラしてきた。
「シーザス! 」
「朝からどうしたんだい? それよりも見てくれ! この、生物の字の汚さ! 」
「私はご令嬢を逃がしてとてもイラついてるの。どこかに行ってくれないかしら」
「君はまた逃がしたのかい? だから、我々に任せるべきだとあれほど……」
「捕まえたらどうするつもりなの」
「……彼女は異界の時間もいじくってしまっている。重罪になる要素はある。支部から連絡は来てるんだよ。早く裁け、とか死罪にしろ、とか。まあうちは死罪はないから一生幽閉だがな」
「彼女も被害者なのよ? そんなこと……」
「君の頭はお花畑なんだなあ。つくづくそう思う」
「シーザス、ふざけるのも……」
「私は本気だよ。君だって、死罪に等しいことはしている。彼女もそうだ。この現実から逃げて罪を重ねている」
私は彼女の内面をよく知っている。私は、彼女の先生だったから。たくさんお話だってした。彼女も私を慕ってくれた。
なのに、彼女は──。
「人はどんなに親しい仲間にも本質を隠す──」
「……」
「最近読んでいるブレーフェルという作家の本の中によく出てくる言葉だ。君も覚えておくとよい」
やけに真面目な顔をシーザスはしている。いつもはしない顔だ。
「シーザス、そういえば弟子のことだけど」
「ああ、すぐは帰ってこないだろうね。じゃあ、私はこれから本屋に行くとするよ」
ご令嬢は今、どこにいるのだろう。再び笑いあいながら会話をしたい。
────
師匠に報告を終え、イルフォは私に向き合う。今日はレモンティーを一緒に飲んでいる。
「しばらくここにいるのは構わないけど、大丈夫? 」
「うん、多分」
「そっかあ」
「しかし、あっけなかったなあ。もう少しかかると思ったのに」
「まあ、そんな奇跡もあるよ。……あ、そろそろ仕事に戻るね」
「うん」
イルフォには悪いが、私は魔法使いになれない代わりに支部で働いている。ここも一応カモフラージュのため働いているが、本職はそっちだ。
支部長・メレニーゼさんに私はとあるものを提出することになっている。
「まとまったかしら」
「はい。重罪人である彼女についてきちんと」
「本部長にいつも蔑ろにされていたけれど、今度こそ重罪人を捕まえてほしいわ」
「そうですね。平穏に暮らせませんよね」
「そうそう。あの屋敷の崩壊、本部長にバレないように片づけるの中々大変なのよ? けが人もいたし、本当どうしようか困っているところなの」
「けが人は私のように病棟で働いている者にお任せください」
「そう。ありがとうね」
どうやらあの屋敷の崩壊でイリスやその他の悪魔が巻き込まれたらしい。本来ならイルフォや土の魔法使いも同罪なのだが、重罪人のご令嬢に責任をとらせることにした。(土の魔法使いのことは本部長に知れたら怖い)
けが人のことを確認し、片づけることにした。




