30 白い病棟
白い建物。そこに入ると、すごい叫び声が聞こえてきた。
「復讐してやる! してやるんだから! 」
「落ち着いてください、イェリスさん」
噂で聞いたことがある。異界にある手に負えない精神病患者専用病棟──。特に手に負えないのがこのイェリスという女性ということも。
「イルフォニア!? 」
「メグ……」
振り返ると、メグがいた。白衣を着ている。
「シーザス様から聞いたの。神様を助けたいという少女のことを。まさかイルフォニアとは……」
「シーザス様が!? 師匠何を考えているの……」
あんな変わり者がなぜ関わるの? うーん、分からない。
とりあえず今はソフィアを……。え、神様?
「シーザス様からの許可があるから、とりあえずついてきて」
「えっ、ちょ……」
「……イルフォニア、師匠のことはどれくらい詳しいの? 」
「……あまり知らない」
やっと暴れなくなり、床に倒れ込んだイェリス。彼女を指さすメグ。
「彼女が精神病に陥った原因の一つ。それがあなたの師匠」
「……」
「あなたの師匠の教師時代にイェリスは事件を起こしたの。告発したのはあなたの師匠。おかげで加害者も被害者も不幸せになった」
「……」
メグが病棟の奥に進む。そして、重たそうな鉄の扉を魔法で開ける。私とメグが入ると自動で扉が閉まった。
「この人は師匠のお母さん。火傷がヒドいけれど、一応生きている」
「……この人って、あの大火を起こした加害者」
「いえ、被害者よ。この人も精神病なの。可哀想に、火傷があまりにもヒドいせいでずっと喋っていないの」
「……」
ベッドに横たわる包帯だらけの女性。生きているのが不思議だ。しかもこの人、自分に炎をつけたのに死ねなかったんだ……。
「彼女の最後の優しさが人をほとんど死なせずにすんだの」
「じ、じゃあ師匠のお姉さんとお兄さんは? 」
「別の病室よ。お父さんだけこんがり焼けたみたいだけど、彼女たちは顔以外火傷。顔は無傷」
「あの、何で急にこんなこと」
「神様救いたいのなら、まずは過去を知るべきかなって」
「……あの、さっきから神様って言ってるけど」
「ソフィア。ああ見えて守護神。だから守るのは得意なの」
師匠はなぜそこを伏せたのだろう。私は確かに神は嫌い。でも、師匠の頼みならば親しく接することぐらい出来る。新米じゃないのだからなめないでほしい。
「そろそろ行こうか」
「あ、うん」
ソフィアが神様なら私は何をするべきなのだろう。──リサテアの救出?
休憩室に入り、メグは紅茶をくれた。私がコーヒー飲めないこと覚えていたんだ。
ソファに座り、メグが話出す。
「守護神はあくまでも、見守るの。ただただ一人を守る為以外は力の使用は禁止。破れば人間となる。だからソフィアは自力で動けないと思うよ」
「え、そうなの? 」
「今までは黙っていたソフィアのお母さんもルールを定めたらしくて」
「そっか……」
「だからね、私達で行こうよ」
「は!? 」
その言葉に愕然とした。メグは魔法使いとしては劣っているはず。なのに、そんなことを言って大丈夫なの?
「私も頑張ったんだから。少しは出来るわよ」
「あ、うん」
「さあ、行こう! 」
私は慌てて紅茶を飲み干した。




