3 裁判前のひととき
「ハナ様」
「ルマント、久しぶりだな」
「あ、うん、ソフィア。あの、私は──」
「やめておけ。ハナは記憶障害だ。──ハナ、この女性知ってるか? 」
「ううん」
「ほら」
「そんなあ! 」
ルマントはロドノスの妹。ロドノスみたいな変態ではなく、ハナに忠実な良い女性。ハナと同い年だが、敬語である。(私との会話も敬語だったが、なおした)
そんなルマントはハナが心配らしい。まあ、そうだよな。
「うう……絶対思い出してくださいよ」
「……ごめんなさい」
ハナはうつむく。まるで幼児のように泣くのを堪えているようだ。
「ルマント。ロドノスは私がいなくなってからはどうしていた? 」
「発狂していたよ。私の物なのに、私の物なのに! って叫んでいたかな」
「本当にバカだな」
「うん。ソフィアが帰ってくるのがあと少し遅かったら悪魔たちをあちこちに放っていたかもしれないよ」
「それは怖いな」
「そうだね」
ルマントの会話を楽しんでいると、おほん、という咳払いが聞こえた。後ろを振り向くと、彼女の執事がいた。
「ルマントお嬢様、そろそろお戻りください」
「え~もうそんな時間なの? 」
「さあ、早く」
彼はルマントに仕える執事。ロドノスが妹を心配して、ではなくよからぬことをしないようにと見張らせているらしい。
私はハナと共にロドノスの部屋に行くことにした。
「やあ、ソフィア」
「私はどうすればよい」
「……別館にいてくれ。もうすぐリィデが来る」
別館を建てたことに私は憤りを感じた。ハナの気に入っていた庭園を一つ潰したということだ。
すると、今まで虚ろだったハナの目が赤く、鋭く光った。
「私の庭園を潰したの? 」
久しぶりに聞く、ハナの普通の声。静かに怒っている。
「もう長でもなんでもないんだからいいだろ」
「──私は、やめてなんかいない! 」
ハナはナイフを私のローブから取り出し、ロドノスに切りかかる。突然のことで呆然とし、止められなかった。ロドノスの右肩から血が吹き出す。
「っ……」
「……ハナ? 」
「あれ、わたし……」
怒りで我を忘れただけのようだった。ロドノスのことを部屋の外にいた悪魔に任せ、去る。
別館は見事に庭園を潰していた。ロドノスを落としたら元に戻そう。
「ハナ、裁判が始まるまで何をする? 」
「──ねむたい」
私も一緒に眠ることにした。




