29 本の批評家と
あの神に私達の魔法は通用しない。あの狂った男、ランが命を削って造ったゴーレムでやっと捕まえれたのだ。ソフィア本人はどう感じたのか分からないけど、今回のは自ら脱出しようと考えているはず。
あの子は守護神に通用したと思っているのだろうか。当時は神様に通用しないとか教えていたか否か……思い出せない。
家に戻ると、さも当然のように本部副長がソファに座り本を読んでいた。──こいつめ。またか。
「シーザス」
「やあ、どうしたんだい? 」
「読書好きならばここじゃなく、別の場所にしてくれるかしら」
「君の家のは違うだろう、ほら、生物だ。それがきちんと保存してある」
「あのバカの原本がそんなにおもしろいのね」
「いや、字の汚さに笑っていただけだ。それがどんどんよくなるものでなあ」
「……ふうん」
彼は厳しくて怖いヴィザート様とは違い、温厚だ。読書好きなのだが、手書きの本(いわゆる原本や昔の本の写し本)を好んで読んでいる。そして字が汚ければ大笑いするという死者(彼の読む本は原作者や写し手が死んでいるぐらい古い)への冒涜もいいところである。
「君はこの男に好かれたのか、ご愁傷様だな」
「選ばなくて本当に良かったと私も思ってるわよ。名作もうまれたし」
「まあそれには彼自身の犠牲があったからな」
「……」
「弟子には繋がなくてよいのか? 」
「知っているの? 」
「まあ……あちらに支部があるからな」
「ああ、逃げた魔法使いを捕まえてるのよね」
「それと精神病のイェリスの監視。担当者は頻繁に変えなくてはならないのが困り物だ」
「彼女、生きていたのね」
私は弟子に話していない過去がある。話したくても、今でもあの事件は私自身鮮明に覚えており、トラウマとなってしまっているからだ。
シーザスは私に原本を投げてきた。読み終わったらしい。
「それは字が雑ながらもひしひしと愛を綴っているのが伝わって気持ち悪い」
「……」
表紙には私の似顔絵。私への愛を綴った本なのだろうけど、私は読む気なんてない。あんな男の本は最期の本以外読めやしない。
「とりあえず、君の弟子には何かあったら支部に行くよう連絡しておいてくれ。というか今すぐ行け。屋敷近くの真っ白な建物」
「分かったわ」
「君は弟子と絶縁寸前になるだろうなあ」
「え、シーザス」
「じゃあな。そろそろ戻らないと、ヴィザートがうるさい」
「……」
私と弟子が絶縁寸前? あり得ない。今からなのに。
《弟子、起きてるかしら》
《あ、はい。待ちくたびれましたよ》
《屋敷近くの支部に行きなさい》
《え》
《真っ白な建物よ。そこに行けば大丈夫》
《分かりました》
本当に大丈夫かしら。私も出来ることならば、そちらに行きたい。




