27 師匠と土の魔法使い
私は一旦弟子との会話を切り、土の魔法使いから得られた情報を整理する。
彼とは知り合いだった。けれど、名前なんて忘れてしまった。だから探ったのに、名前の部分だけぼかされていた。
彼は名前を忘れているのだ。自分が何者か。それを忘れている。ああ、もう! つまり、あのあと彼はずっと偽って生きていた訳なの? ありえない……。
「にしても、漂流者の記憶ってほんとどうなってるのやら」
私はため息をつく。手元に用意した資料は弟子のあの子に渡しそびれた漂流者についてのもの。今更渡したって意味はない。
漂流者とは異界からこの魔法のある世界にやってくる奴のこと。たまに魔法適正者がいるが、ほとんどは使えない。いや、使いこなす前に体力を消費しすぎて倒れてしまう。
そんな漂流者の中でも一番優れていたのが土の魔法使い。どこから来たのか分からないけど、その並外れた能力はすごい。
再び弟子との会話をつなげる。
《土の魔法使いをこちらに寄越してくれるかしら》
《あ、はい》
しばらくしてやってきた土の魔法使い。生気はない。
「私のことも忘れてるわよね」
「……」
「ダメね」
反応がない。本当にあの記憶が嫌なのね。
私は彼をどうするか悩んだが、あの人に任せることにした。
《今からヴィザート様のとこにこいつ連れて行くから》
《ええ!? 》
「よいしょっと」
重いのかと思ったら、かなり軽かった。かなり着込んでいるだけらしく、大量の服をめくるとほとんど骨の体が現れた。
「よく生きてるわね。服とあわせて30kgちょいかしら」
そんな彼を抱えて向かったのは魔法使い本部。ここにいるヴィザート様は私が刃向かえないお偉いお方。古代魔法の廃止を提案した時はかなり喧嘩したものだ。懐かしい。
本部に行き、顔パスで彼のいるところに向かう。会わせる前にこいつが自身にかけたいろんな魔法をとく。痩せこけた頬にボサボサの髪という本来の彼が現れた。
「ヴィザート様、こんにちは~」
「……また何か用なのか」
「これを見て」
「……どこの男だ。すごい汚い感じだが」
「むかーし、私と一緒に学院にいた漂流者の天才くん」
「いくら私も生き残りとは言え、こちらに資料のない男は知らんぞ」
「ふうん。あんたが転身する前会ってるはずだけど? 」
「……」
そこでヴィザート様はやっと考え込み始めた。しかし、思い当たらなかったらしい。近くにあった紙を投げてきた。
「とりあえず膨大な魔力を持っているから登録しろ。古代魔法を使うとは厄介だが、介護してやる」
「ありがとう。名前、どうしようかしら」
「──どうせ子供いないんだろ、子供に名付ける感じだ」
「じゃあ、ランくん。そうしましょう」
「何の使い手だ」
「土。それもゴーレム使いこなして神様捕まえちゃうのよ」
「なっ……」
「転身してやっと使いこなせるようになったヴィザート様、ねえ今どんな気持ち? どんな気持ち? 」
「……秘匿せねばならないな」
「ふふっ。もしお手上げならば私を頼りなさいよ」
私はランくんを託し、帰ることにした。これで少しは安心かしら。




