21 転換
ハナは無口で、何を言っても反応しない。まるで眠っているようだった。
元の世界から出発する前に一応、ここのことはあらかた覚えてきた。館の北にある山に廃墟があるからそこだと思う。
「……薄暗い」
手頃な木を拾い、火を灯す。ここには光がほとんどない。まさに廃墟だ。
この廃墟はリィー派という神にもっとも近い悪魔の種族が暮らしていた場所。戦争でかなり荒らされているから床も所々ない。
「意外と早いじゃないか」
「……! 」
「魔法で適わないから今度は力業かな」
回し蹴りをしたが、全く効いていないらしい。……せっかく習ったのに。
私は糸を引っ張り、異常事態を知らせる。これ、本当に使えるの?
「残念ながら、君には興味ない。──へっぽこ魔法使いの君にはね。でも、そこの魔法使い、中々の使い手のようだ。興味深いよ」
「……」
「さあ、魔力を貰おうか」
「……──」
彼女が小さく呟いたかと思えば、彼の右手がなくなっていた。灰になって床に落ちていた。
「ち、ダメなのか……」
「ハナ! 」
リサテアとスフィアがやってきた。た、助かった。
────
この男、ムカつくわ。私の魔力を奪おう、なんて。冒涜よ。
まあ、両手を焼いたら楽しみが減りそうだし、手加減をしておくわ。
さて、これからどうなるかしら──。
────
一旦身をひいた彼。私達は廃墟の中を調べることにした。
「ここがリィー派の……」
「噂には聞いてたけど、本当に嫌な場所ね」
生き残りであるマリアという女性についても師匠から習った。
彼女はモーキュネストに逃げ込み、安定した生活を送っている。戦争後、ここに戻りお墓を作ったとか。
「それにしても広すぎるわね」
「確かに」
「この無駄のように思える広さもリィー派を頼っていた悪魔がお金をつぎこんだなれの果て」
「……じゃあ、自分で自分の作ったものを壊したことになるの? 」
私は俯く。どう言おう。
師匠から聞いた話によると、戦争はかなり凄惨だったらしい。(暇だからよく見ていたと師匠は言っていた)悪魔はほとんどが狂い、まともだったのはほんの数名。地獄絵図みたいだったらしいが、師匠はなぜか楽しいと感じたらしい。(変な人だ)
「ええと、その……色々と」
「ここを破壊したのは私の元仲間だ」
突然ソフィアが現れた。首の部分が大変なことになっている。手当しないと。
「──」
「……異界の者はこの特殊な包帯をどうにか出来るのか? 」
「私、師匠に治癒についても色々教わりましたから。師匠と私は包帯無しでも魔力をこめればこのような傷は楽勝です」
「……すごいな」
しかし、この特殊な包帯を持っていたということは、師匠の弟子かもしれない。あの人はすぐに教えたがるから。
「この特殊な包帯は誰の? 」
「モーキュネストのリンの物だ。与えてくれた人はもういないみたいだが」
「……なるほどね」
──リン、幸せかな。
そういうことなのか。そういうことなのね。
「これで大丈夫」
「そうか。ありがとう」
────
へえ。中々やるわね、このソフィア。
魔法使いの素質がありそうだわ。
面白いけれど、こいつは中々のっとれないわね。使えない。そろそろ、保管しているあの体を使うときかしら。
────
「あれ、」
「ハナ、起きたのか」
「……うん」
中にいた彼女が消えていた。私には分かったが、まさか転換!? いや、ありえない。いくらあの方でも使えるはずがない。
《使えるわよ、ご令嬢は》
《師匠、いきなり何ですか》
《やっと電話に頼らなくて済むのよ。嬉しくってたまらないわ》
《ああ、電話苦手ですからね》
《だって、私の時代にはなかったんだから……。それよりも、転換を使ったのなら確実にご令嬢よ。追いかけなさい》
《追跡なんて無理です! 》
《膨大な魔力を有している人を捜せばいいことよ。ああ、もう一人いるっけ? それじゃあ、サポートは任せて》
「どうしたの」
「ハナの中から別人格が消えたの。それを追いかけたいなあって」
「当ては? 」
「まあ、一応」
とりあえず苦笑いをしておいた。




