13 受け止めたくない事実
「なぜ、ここにリサテアやあろうことか明石もいるんだ」
「私は私で大変よ。居場所がないし」
「ロドノスか。あいつはムカつく」
それよりも私は聞きたいことがあった。ナトリの居場所だ。
「ナトリについて知らないか」
「え、その──」
言葉を濁すリサテア。ユグレイハムは顔がひきつっている。
「俺はみた。黒い髪の女と戦うそのナトリを」
「! 」
ユグレイハムが崩れ落ち、泣き出す。黒い髪──鎖のことかもしれない。だとしたら。
「いや、生きているかもしれない。だが、帰っていないのなら」
「それ以上はやめてください。ただでさえ、規則を破って泣いているのですから、これ以上は認められません」
「しかし、事実は事実だ。まあ、それよりもリサテアのことだが、ソフィア」
「私もすまないと感じている。帰ってきたとしても、一般悪魔に混じるとしか考えていなくてな」
「謝るのはロドノスだけよ。ソフィアは謝らないで」
「ああ、そのロドノスだが」
明石は本棚から一冊の本を抜き出す。──絶滅していく少数派悪魔。著者は悪魔を研究していたサルテア。彼女も戦争の犠牲者だ。この本も彼女の死亡後、戦争中ながらも仲間が形にしたもの。
「彼は本当のロドノスの意志と記憶を受け継いでいる少数派悪魔だろう。ほら、これだ」
「『私の心残りは、リィー派悪魔に会えなかったこと。彼らはかつて神に近い存在とまで言われており、私は会いたくてたまらなかった。しかし、彼らは正統派に迫害されたことを怒っているらしく、私は拒否された。ロドノスと名乗った長に、私が、戦争後も、生きていたなら会いたい。』──遺書の部分か」
「へえ。そのリィー派ってどういう奴ら? 」
「神のお告げを聞く役目を担っていたらしい。モーキュネストのマリアというシスターも迫害から逃れるべく転がり込んだとか」
「ソフィア、さすがだなあ」
「それは私が年寄りだと言いたいのか? 」
「いや、別に」
話がややこしくなってきた。しかし、ロドノスがどれだけ有害なのか──。
「今すぐハナを……」
しかし、悪魔の世界に帰ろうとしても帰れない。まさかとは思うが……。
「帰れない。だから、明石、お前について訊こうか」
「魔法だ」
「……は? 」
「とある女性が死ぬのはもったいない、と魔法をかけてくれた。だからこの体は作り物に近い」
「へえ。だから明かせなかったんだね、明石」
「リサテア、すまんな。俺はまさか生き返るとは思わなくて。魔法とはこの世界にあってはならないものだから」
「うむ、そうだな」
ハナは無事だろうか。ただひたすら心配だった。