12 異界の存在
12日 夕方~夜
夕食。稲美が泥だらけで帰ってきた。また片づけていたらしい。
「早く綺麗に洗って」
「押しつけたくせに……」
文句を言っていたが、洗ってきた後、好物のシチューを出すと大喜びで食べ出した。おかわりもしている。
「そういえば何しに行ったの? 」
「色々と確認をしたのよ。あ、そうそう。私ね、『鎖』について調べるわ」
「ふーん、頑張って」
シチューをまだかきこんでいる稲美を置いて私は地下へ。兄である明石がかつて集めたという本がある書庫。色んな本が揃っている。
膨大すぎるけれど、一生懸命探す。──魔法についての本を。
「あれは魔術じゃないわ……」
スミレやソフィアもやられる強さを持つ『鎖』。異界に存在するらしい魔法。きっと、彼女はそれを──。
「あった」
魔法の本はたくさんあったが、明石が読んだ跡はなかった。何のために集めたのかわからない。
ひたすら読むことにした。
『魔法とは魔術と呼ばれるものと同じだが、専門性がある。必ず学院で学び、それなりの成績を修めたもののみに使用が許される。ところが魔術は誰でも使えるため、能力は劣っている。』
『学院のある世界に来れる者は稀である。そのため、学院のある世界に生まれた生徒が大半である。』
『その世界をディヴァーナと呼ぶ。』
魔法が学問と同等の扱い。そんな変わった世界もあるのね……。不思議だわ。
「何しに来た」
「うわわっ、誰!? 」
「兄の顔も忘れたか」
「……はい? 」
「死人を見てるような顔をするな」
「いや、死んだはず」
「勝手に殺すとはいい度胸だ」
「……」
頭が真っ白になる。明石は死んだと私は聞いた。いくら兄と妹の仲がよろしくなくても、それぐらいは──。
「噂に聞く幽霊って存在!? 」
「バカか」
「──あの、ところでこの本は」
「これから読むところだった」
「ええっ」
「稲美に言われていた。魔法を手に入れれば最強だとな」
「でも、糸使いの能力があるわよね」
「あれは特殊能力の中でも下位だ。だから魔法を手に入れたかったが、専門性があるのならやめておこう」
「ええ、やめるべきよ」
こくこくうなずき、兄を止める。糸使いになるときは止めなかったから、今度こそ。
すると、稲美がやってきた。
「お客様よ~」
「赤穂、どういうことなの? 私、帰ったら居場所が──」
「あ」
お客様は、帰ったはずのリサテアだった。明石を見て固まる。えっと、確かリサテアって──。
「な、何でいるの!? 」
「あれぐらいで死ぬような俺ではない」
「……まあ、とりあえず話をして」
リサテアは咳払いをし、話始める。
「わけわからない。ロドノスは確かに死んだのに、まだいるのよ? 私が代理できなくなっちゃったの」
「ロドノス……」
「ハナの代わりの悪魔でしょ? 強欲なバカ? 」
「ロドノスと言えば、一時期指名手配されていた男がいたな」
「え? 」
「そうよ。私はハナに相応しくないから、と殺したわけだけど……その……」
「生きていたわけだな」
「それなら、ヤバいのでは……」
「そうだけど、一人で乗り込んでもバカバカしいから」
「……とりあえず、明日まで待て。こいつも何か探しているみたいだ」
「ん? 」
私は『鎖』について調べているのだと説明する。リサテアの顔が険しくなる。
「さすがにヤバいと思うけど、見当はついてるの? 」
「魔法を使ってると思う。あの強さはきっと──」
「確かにそうかもしれない」
「魔法、ねえ……。まあ、明日にしましょう? もう夜だし」
「そうするか」
私達は眠ることにした。
13日
「入るぞ」
現れたのは、ソフィアだった。