1 対面
「おかあさん……おかあさん……」
牢屋の中のイリスに泣きながらそうつぶやくハナ。当のイリスは困惑している。
「本当にハナなのかしら」
「うん、そうだよ、ハナだよ」
「……」
まるで幼児のように話しているハナ。長だったとはにわかに信じがたいレベルだ。
出発する前聞いたが、車椅子なのは動きたがらないハナをお散歩に連れ出したり、とにかく動かすためらしい。お散歩を続けて、ようやくここまで回復したとか。
「おやおや。長も変わりましたねえ」
「ロドノスか、どうした」
「とっさに彼女をかばうとは……流石、騎士
ナイト
」
「からかうのなら今すぐ去れ、この変態」
「ひどい言い草ですねえ」
そう言いながらロドノスは私の胸をローブの上から触る。だが、私もバカではない。ローブの下には銃のパーツやナイフを仕込んでいる。
チッ、と舌打ちをして手をひっこめるロドノス。そして、私の頬を平手打ちした。
「今回のことは独断で動きすぎだと思いますよ、ソフィア」
「名前で呼ぶな」
「裁判をしましょう」
「……独断で動いたのは被害を最小限に抑えるためだ。裁判を開くのならリィデを呼べ」
「分かりました、そうしましょう」
ロドノスは去っていった。困った奴だ。
ロドノスはハナの婚約者候補だったが、あろうことか私に惚れた。そして、隙あらば変態行為をしてくる。一体何度触れたのだろうか。
ハナはロドノスを嫌っている。だからこそ、反応が怖かったのだが。
「──だあれ、いまのひと」
「ハナ、覚えていないの? あの人は」
「イリス! ──ハナの代理をしているロドノスだ。これからしばらくお世話になる」
「そうなんだ」
記憶障害もひどいようだ。ロドノスのことを思い出したら怖いな……。
「裁判ね……『鎖』と古代神が悪い、で終わるわよ」
「そうだろうな」
ロドノスはどうせ、私しか眼中にない。裁判もお遊び程度だろう。
「さあ、ハナ。食事でもとろう。ロドノスのお世話になるのは嫌だが仕方ない」
「うん! 」
館の悪魔は騒いでいた。ハナがこんなことになったのだから当然だ。──威勢良く引っ張っていったあのハナが、こんなことになるなんて誰も思わないだろう。
お昼ご飯はロドノスの計らいでそれなりに豪華だった。ロドノスは相変わらずだ。
「おいしいね」
「……ああ」
ハナはまるで子供のように食べていた。口のまわりにソースがついている。
これからどうしよう。ハナはこのままで大丈夫なのか……?