5
ーーどうしたのかな、胸がざわざわする……。
どこに行くわけでもなく、キーレンは足早に山道を駆ける。
耳に響く蝉の鳴き声、流れる汗、喉がカラカラに乾いている。家の前の小川の冷たい水を思い切り飲みたかった、けれども家にはいたくなかった。
理由はわからないけれど、何か、何かから、キーレンは逃れたかった。けれど、どこへ行っても逃れることなど、出来はしないとわかっていた。
息を切らして駆けるキーレンは、大きな広葉樹の根本にしがみつき、足を止めた。
ハアハアハアーー
細めた目を広げると、幹の陰で小さな背中が震えているのが見えた。男の子が膝を抱えるようにしゃがみ込み、泣いているようだった。
その背中を見たキーレンははっと息を飲む。
踵を反して、小道を戻った方がいいことはわかっていたけれど、足は地面に縫い留められたように動かない。
ーーどうして、こんなにも怖いの?小さな男の子が泣いているだけなのに。
キーレンは不思議でならない。
意に沿わない足は、ゆっくりと男の子に向かって歩み出してしまう。
キーレンの気配に気がついたのか、男の子は立ち上がり、振り返る。
「……だれ?」
涙に濡れた目と震える声、あどけない顔立ちにキーレンは大丈夫、怖くないと自分に言い聞かせる。
「ど、どうしたの?どうして、泣いているの?」
頬が強張り、声が上ずってしまう。足が震えるのをこらえようと、しっかりと足に力を入れ、手を握る。
不安げに見上げてくる男の子を安心させようと、微笑むけれど、上手く笑えなかった。
「……ぼく、困っているの」
「何?どうしたの?お母さんとはぐれちゃったの?」
赤茶の髪、同じ赤茶の瞳の男の子をこの辺りで見かけたことはない。
旅の途中なのだろうか、村の誰かの親類なのだろうか。
「ううん、違う。でも、とても困っているの。お姉ちゃん、ぼくを助けてくれる?」
「……え?……うん、いいよ」
キーレンは、戸惑いながらも、断ることはできなかった。
すると泣いていたはずの男の子は、パアッと明るく笑う。
その笑顔にキーレンは背筋がぞくりと冷たくなった。
「ありがとう、キーレン」
少年はにっこりと頬を緩め、キーレンの震える手を取る。
「え?私、名前……」
名乗った覚えもないのに、名を呼ばれたキーレンは恐怖だけが、募っていく。
キーレンの足も小刻みに震えて、思うように動かない。
「さぁ、行こう」
男の子はぎゅっと握った手を引いて、走り出しりだそうとする。
「待って、どこに?どこに行くの?……私、お父さんに出かけるって言ってきてないから。ユーリも心配しちゃう」
足に力をこめ、踏みとどまるけれど、強くひかれよろめいた。細い腕に似つかわしくない力だった。
「大丈夫だよ?だって、キーレンはぼくを助けてくれるんだからね」
「……待って。……イヤ、行かない。行きたくない」
キーレンは足が震え、目がくらくらと回り、今にも倒れてしまいそうだった。
「……仕方がないなぁ、じゃあ、いったん戻ろう。お客さんも来てるみたいだしね」
男の子はニイっと口を歪める。
蝉たちは、さきほどまであんなにも大きな声で鳴いていたにも関わらず、今はまったく全くキーレンの耳に聞こえてこない。ただ、強く握られた右手が痛く、強い力でグイグイと引かれているために、転けないように、足を動かすのが、やっとだった。
見慣れた小道を抜け、家の前には、父のロキセイが険しい表情で庭先にたっていた。隣には旅装の見たことのない男の人がおり、その男の人の表情も、ロキセイと同じように険しく、こちらを見ていた。
男の子は、ずいぶん前から、その二人に気付いていたに違いないけれど、すぐ目の前に立ち、今さっき気付いたかのように、眉を上げる。
「おや、サラスイ殿ではありませんか?どうされたのですか?こんな片田舎でお会いするなど夢にも、思いませんでした」
おどけたような口調は丁寧であり、とても幼子の発する言葉とは、キーレンは思えなかった。
「白々しい、全てご存知なのでしょう。幼子に変じて、子供を騙すなど……。ヤフィルタ、恥ずかしくはないのですか?」
サラスイはきつく少年の姿をしたヤフィルタを睨み付ける。
「キーレンっ!キーレン、こっちへおいで。早くっ!」
ロキセイがいつになく緊迫した様子でキーレンを呼ぶ。
握られた右手を振り払い、走っていってその胸にすがり付きたかった。しかし、右手は握られたままで、振り払うことができない。
「無駄ですよ、言質はとりましたからね」
先ほどと同じような子供らしからぬ口調に、その顔を見る。姿かたちは子供だけれども、きっと、見た目とは異なることをキーレンは気づいた。
「お父さん、お父さんっ!イヤ、離してっ!」
どんなに強く引っ張っても右手は捕まれたままだった。頬が涙を伝う、涙で視界は歪むけれど、辛そうな父の顔はわかった。
「キーレンっ!」
家の中から飛び出してきたのは、ユーリだった。黒い髪を揺らしている。
「ユーリ!出てきてはダメだ。大人しく中に入っていてくれっ!」
ロキセイの制止も聞かず、ユーリはキーレンに向かって走りだす。けれども、ロキセイの腕に阻まれた。
「ロキセイさん、離してっ!」
「ユーリ、行くな。ここにいてくれ」
ロキセイの懇願する声にユーリは足を止め、振り返るとそこには、苦痛に顔を歪めたロキセイの顔があった。
いつも穏やかに微笑みを浮かべているロキセイの思いに気付いたユーリは、大人しくロキセイのもとにとどまる。
じたばたともがくキーレンが涙を流していることに気付き、ユーリは胸が締め付けられるように傷んだ。
「サラスイ、遅かったようですね。彼女は私を助けてくれると約束してくれましたよ」
「イヤ、離してっ!お父さんっ!ユーリっ!」
「困りましたね、どうやら穏便にはいかないようですね」
ふぅと肩をすくめて、小さく呪文を唱えた。
あたりに強く香る強い清涼感、キーレンがヤフィルタを見た時、
ヒュンっ
風を切る音が聞こえた。
キラリと一本の筋が、ロキセイの胸元に走る。
一瞬の間を開けて、ロキセイの体がふらりと揺れ、膝から崩れ落ち、そのままばったりと地面に倒れた。
ロキセイの背中には、刀身が煌めいている。
胸に深く刺さった刀が貫通していることに思い当たったユーリは、息を飲む。
「ロキセイさんっ!ロキセイ、しっかりしてっ!」
駆け寄ったユーリがロキセイの体を揺さぶっても、ロキセイはぐったりとしていて、動かない。ロキセイの体の下から、ゆらゆらと血溜まりが広がり、地面を濡らした。ほんの少し開いた唇からは、小さなうめき声と赤い血がたらりと流れた。
「嫌……、ロキセイっ!しっかりしてっ!嫌っ!!」
サラスイは傍らに、佇むばかりで何も言わない。ヤフィルタの呪術に縛られて、動けないでいた。
友人の身さえ守れない自身の無力さに、奥歯を噛み締める。
「……」
額から流れ落ちる汗、やり場のない憤りだけが胸に広がっていく。
「サラスイ、お前もわかっているのだろう?このままでは、間違いは正せないと。私と共に行きますか?歓迎しますよ」
笑うヤフィルタの横で、キーレンは倒れたロキセイをじっと見つめていた。
「……お父さん、お父さん……嫌……」
キーレンから、ゆらりと濃く立ち上る香り。
「……おや?彼女の呪力も封じたのですが、これは予想以上ですね」
ヤフィルタはニヤリと口元を歪める。
何の前触れもなく突然に強い風が巻き起こり、一瞬にして全てをなぎ倒おしていく。薬草畑の木々は大きくしなり、根元から抜けてしまいそうになっている。木戸が勢いよく閉まり、軒先の桶や笊が吹き飛んでいく。
強い風を受けて、サラスイは咄嗟に身構える。腕が動くことで術が解けていることに気付いた。
呪術を使い、素早く結界を張り、ロキセイとユーリを囲う。
突然、風が消えたことに驚いたのか、ユーリは弾かれたように顔を上げる。
転げた桶が割れ、窓のガラスが割れる。風はおさまる気配は見られない。
キーレンは呆然と涙を流し、瞳はぼんやりと空をさ迷っており、正気を失っているようだった。
「キーレン、呪力を抑えられていない。このままではいけない」
激しく強く放出される呪力、キーレンの体はもちろん、精神の破綻の危険もある。
呪術でキーレンを抑え込もうと、意識を集中したとき、ユーリが結界から飛び出した。
「キーレンっ!」
強い風に黒い髪をなびかせ、目を細めよろめきながら、ユーリはキーレンに近付き、手を伸ばす。
「キーレンっ!キーレンっ!」
キーレンの傍らに立つヤフィルタは、少年の姿ではなく、細い切れ長の赤茶の瞳の青年となっていた。赤みの強い茶髪はうなじのあたりできっちりと結われており、薄い唇は強い風を受けながらも、微笑みをうかべていた。
「さて、どうしましょうか」
近づくユーリを冷たく見つめる。
「キーレン……」
ユーリはキーレンの肩をしっかりと抱きしめた。キーレンはただ涙を流している。
しかし、ゆっくりと風がおさまっていく。
「キーレン、大丈夫だから、キーレン、ね?」
胸に抱いたまま、ほどけて広がっていた薄茶の髪をそっと撫でユーリはキーレンにやさしく話しかける。
「……さて、茶番はこの辺りで終わらせましょう。そしてわたしと行きましようね、キーレン?」
ヤフィルタはキーレンに手を伸ばす。
「止めて。触らないで。あなたが何処の誰か知らない。キーレンがあなたとどんな約束をしたのか知らない。……あなたにキーレンは渡さないっ!この世界の常識なんて知らない。それでも、世界が違っても親が子を思う気持ちに変わりはない。……突然やってきて、挨拶もなく、断りもなく、キーレンがいいって言ったからと言って、連れていくことがこの国の常識なの?!そんなこと、私は認めない。ましてや逆らったからといって、殺してしまうことが当たり前なの?!そんなこと、私は絶対に認めないっ!キーレンは絶対に連れて行かせない」
ユーリはキーレンをきつく抱き、ヤフィルタを睨み付ける。
「なんという黒い瞳……、何故にこのようなところに黒い瞳を持つ者がいるのだ?あの国はもうずいぶん前に滅んだとされているが……」
ヤフィルタはユーリの黒い瞳をじっと見つめ、手を伸ばしながら、小さく呪文を唱えた。その手がユーリに触れる前にパチリと衝撃が走り、サラスイがとっさに施した結界に阻まれる。
「ヤフィルタ、彼女には手を出すな」
サラスイは肩で息をし、膝に手を乗せて、ヤフィルタを睨む。
「おや、サラスイ。その様な状態で私に挑もうとする気概だけは認めましょう」
刀で胸を貫かれたロキセイを癒したサラスイ。彼の呪力はかなり削られていた。
息が整わないままにヤフィルタの前に立つ。
「……去れ」
ヤフィルタの目的はロキセイを殺めることではなく、瀕死の重症を負わせること。つまり、サラスイの呪力を削るためであることはわかっていたけれど、サラスイはロキセイを見殺しにすることはできなかった。
「冗談にもほどかありますね。ここから去るのはサラスイ、あなたですよ。それとも、この世から去りますか?」
ニヤリと口元を緩めるヤフィルタをサラスイは睨み付ける。
「それでは、キーレンに決めていただきましょうか」
ヤフィルタは小さく呪文を口にして、軽くキーレンの頭に触れる。ユーリは腕の中のキーレンをかばうように背を向けたけれど、ヤフィルタに抗うことはできなかった。
辺りにふんわりと漂う香りは、強い清涼感と苦味。辛味にも似た刺激がありながらも爽やかであった。
「キーレン、わかりますか?」
ユーリの腕の中のから、もぞもぞと動き、顔を上げて腕から離れて立ち、ヤフィルタに向き合う。しっかりとその瞳を見つめて、小さく頷いた。
「キーレン、大丈夫?」
ユーリの声にキーレンは柔らかく頷き、大丈夫と呟く。
「キーレン、私と共に行きますか?」
ヤフィルタは断られることなど、微塵も思ってはいないように自信にあふれて、あなたは正しい答えをしっていると呟く。
「……」
キーレンは倒れたままのロキセイを見る、そして、肩で息をするサラスイ、今にも泣きそうなユーリを見て、瞳を閉じて、ぎゅっと手を握りしめた。
ニヤニヤと笑うヤフィルタを見ることなく、小さく言った。
「……行く」
「キーレンっ!」
ユーリが叫ぶように名を呼んでその小さな肩をつかもうと腕を伸ばした。
しかし、その手は何も掴むことは出来なかった。
辺りには、ヤフィルタの呪術の香りが濃く漂っていた。
眠り作り続けていたロキセイが小さく呻き、ゆっくりと瞳を開いた。
赤茶の髪の呪術師から受けた衝撃は、まだ腹の奥に残っているようだったが、痛みはまるで感じなかった。
「ロキセイさんっ!」
のぞき込んできた黒い瞳が涙に濡れていて、ユーリが泣いていることに気づいた。それは、キーレンがここにはいないということだ。
「…ユーリ、すまない。俺は何も出来ない」
「ロキセイさん…」
「俺が情けないから…俺は何も守れない。俺は何も出来ない。そればかりか、キーレンの足かせになってしまう。サラスイ、いるのか?いるのだろう?お前がここに来たのは、そのためだろう?…やってくれ」
サラスイが自らここに来た理由をロキセイは知っていた。サラスイの呪術は危険にさらされたキーレンを保護し、王都に向かうためであるなら、不十分であった。
サラスイよりも身を守るための呪術に優れ、また武術にも秀でた者が青龍の宮には数多くいる。
サラスイの特殊な呪術、それは人の記憶に関与できることだ。
きっかけは小さなことだった。父が大切にしていた壺を割ってしまった幼き日のサラスイは、それを見ていた妹が見なかったことにするよう話した。すると、妹はすっかり壺のことなど忘れてしまったのだ。その事実を受け入れるにはサラスイは幼すぎたけれども、包み隠すことなく、母に話しをすることが出来る誠実さを持っていた。
未だかつて、その様な呪術を使う者が見出されたことはなく、サラスイは異端とされ、清定館を修了しても郷里に戻ることは許されず、王都に留め置かれることとなったのだ。
サラスイは、王との契約の際に、青龍の宮の長であるナラティスから呪力を封じる術をかけられていた。それでも、他の呪術師達と比べても劣ることはなかった。初歩的ないくつかの呪術を使いこなすことができ、風を制御する術を使うことが出来た。
ナラティスから解放された呪力は、サラスイでさえも持て余すほどに強い。
今までとは、異なる呪力の流れに戸惑いを隠せなかった。
「サラスイ、お前は俺の記憶からキーレンを消し去るために来たのだろう?俺を盾にして悪しき者たちが、キーレンを奪わないために」
ロキセイは苦痛に顔をゆがめて絞り出すように言葉を紡いだ。
「ロキセイ…」
サラスイもまた、苦しみをにじませている。
今のサラスイはこの村に住む者たち全てからキーレンの記憶を消し去ることも出来るだろう。
しかし、ロキセイからキーレンの記憶を簡単には奪うことはできなかった。ロキセイがキーレンを大切にしていることを十分にわかっているからこそ、必要であってもできなかった。
「いいんだ、サラスイ。俺がいるからキーレンは、あの男についていったのだろう?もう、俺は役に立たないだけではなく、キーレンの足を引っ張ってしまう。俺は無力だな。母親も兄弟も助けられず、ニイラーンも救えない。大切なものは全て手をすり抜けていく」
ロキセイは苦々しく笑った、頬を涙が伝っていた。
ロキセイの涙をユーリはそっと拭い、自身の眼にも涙をにじせたまま、ニコリと微笑んでみせた。
「ロキセイさん…、私は、私は、あなたに救われました。…もう死んでもいいと、もう死にたい、やっと死ねると私は思いました。あなたとキーレンに助けられた時、私はまだ苦しみが続くのかと、残念に思ったのですから。切れ切れの記憶はいつも温かく私を気遣うものでした。時折、胸からお腹にかけてふんわりと広がる熱と青草の匂い、私は…あなたの優しさに救われたのです。…この世界に来てから私にとっていいことなどひとつもなかった。この世界で初めてあった者たちに私は捕らえられ、慰みものにされ、逆らえば殴られ、言葉は通じなかったけれど、誰も私と語ろうとはしなかった。やっとの思いで逃げ出したけれど、私はどうすればいいのかわからなかった。ただ逃れたい、その思いだけで歩き続け、足が動かなくなって、意識がだんだん遠ざかって、やっと死ねると…」
はらはらとこぼれ落ちる涙を拭うことなく、記憶を辿るユーリの言葉は嗚咽に変わっていく。
「わかった、わかったから、泣くなユーリ」
ロキセイはゆっくりと体を起こし、ユーリの震えた肩を抱き寄せた。
「ロキセイさん、役に立たないなんて言わないで、私はあなたに救われたのだから。実際に癒したのはキーレンかもしれない。それでも、私はあなたの優しさに助けられたのです」
「ありがとう、ユーリ」
ロキセイにすがりつき、胸の中で泣くユーリの黒く艶やかな髪をそっと指に絡ませて梳いていく。結い上げずに肩に流した髪は美しく、涙に濡れた瞳は星の光る闇夜のようだった。
「…ロキセイ、確かではないことを語りたくはない。だから、しばらく時間をくれないか?」
何かを思案するように、じっと瞳を閉じサラスイは静かに座っていた。
キーレンが去っても、薬草たちは芽を伸ばしていく。村の人々はロキセイの力を求め、泣き暮らすことなく日々は過ぎていく。
傍には、闇夜のように黒い瞳を細めて微笑みを浮かべるユーリがいて、
「きっと帰ってくるわ」とロキセイの手を握る。
ユーリの肩を抱き、黒い髪に頬を寄せると、なんの根拠もない言葉であっても、希望として抱くことを許されるように思えた。
サラスイは細々とした作業を共にこなしながら、時折、小さく呪文を口にしている。爽快でありながらも甘く温かみのある優しい香りを濃くまとわせていた。
何も語ろうとはしないサラスイにロキセイもあえて何も聞かなかった。
高く澄み渡る空には、小さな塊になった雲が連なっており、季節の移り変わりを感じた。
まだ、空が白み始めたばかりの頃。ロキセイの小屋の中はまだ暗いにも関わらず、サラスイが起き上がり、そっと表に出たことをロキセイは気がついた。
藍から紺へと明るくなっていく空、白く光り始めた山際をサラスイは眺めていた。その表情は安堵にもにた喜びを浮かべ、朝の光を受けて複雑な色の紫の瞳を細めていた。
「サラスイ?どうかしたのか?……キーレンに何かあったのか?」
「ロキセイ……、キーレンが戻ってくる」