漢達の追憶
思えばあいつは変な奴だった、あいつとは小学校の頃から付き合いで、身長も知識も髪型も服の趣味も変わったけど、今も昔も変な奴であるということには変わりがない。
好きなことは兎に角突き詰めて、ほかのことなんてどうでもいいという感じだったし、本を読みあさるのが好きで、小学生の頃からこのデジタル化の進んだ世界では閉鎖が相次いでいる図書館に足繁く通っていた。
変なことをよく知っていて、よく疑問を持ってはすぐに調べるのを繰り返していた、そんな姿を見ながら俺ともうひとりの友人はゲームをしたりしていた。
それは今も変わっていないし、これから先も死ぬまで変わるような気がしない、ただあの機械音痴だけは何とかして欲しくはあるが。
このゲームはもともと友人と俺が始めたものだった、VRMMORPGにはまったのは俺が先で、友人に何気なく勧めたのがきっかけでVRゲームにはまっていった。
あいつには俺たちが無理やりやらせたようなもので、家に押しかけて勝手に設定をして、勝手にゲームをインストールした、あいつは何時も通り文句も言わず笑っていた。
ゲームで会ったあいつはまた何時も通り変な奴だった、自分の顔をわざと老けさせてオヤジキャラを作っていたのには、いつにもまして驚かされた。
「燻し銀最強」
と言って喉を鳴らしていたのには、俺も友人も呆れ返ったものだ。
あいつはとにかく、興味があることに関して凄まじいほどの才能を発揮する。
今回あいつが興味を持ったのは鍛冶だった、始まりは些細な会話からで、商売をするのにはまっていた友人と俺が「武器や防具を売りに来る鍛冶師に寡黙な鍛冶師がいないんだよな」という話をしている時の事だった。
話の流れで「お前が一番合っている」とあいつに試しに言ってみたら、次の週に俺のもとに粗鉄のショートソードを持ってきて「鍛冶って難しいな、何本も打ったけど一本しか成功しなかった」とのたまった。
普通、鍛冶師が一本剣を成功させるまでに一ヶ月以上の時間がかかると言われていて、それも粗鉄性で-がついたものが出来れば上出来という状況だった。
wikiにも現状NPC達から聞く事のできる情報しかなくそれもあいつには伝えたが、本当にそれだけしか伝えることが出来なかった、その状態でここまで一週間で漕ぎ着ける、どれだけ試行錯誤したのやら、相変わらずこいつには勝てる気がしない。
そんな感じで数ヶ月経つ頃には、自分なりに鍛冶のコツを見出したようでコンスタンスに剣を持ってくるようになった、どうもその頃発見があったようで+がつくようになってきた。
この頃に「鍛冶屋ジョンハンマー」も生まれることになる、この時友人がクランのメンバーと共に「エリーゼ武具店」を始め、俺は俺で仲の良い商人と一緒に「シュタイン商会」を始めた。
「ジョンは鍛冶屋作ればいんじゃね?」
という事で皆であいつに店を持つための方法を教えて、一緒に始めるために必要な道具を集めたりと、西へ東へ走り回った。
店が軌道に乗りだした頃に「鍛冶屋ジョンハンマーの店主はNPCではないか」という噂が立ち始めたときは、友人と共に大笑いをしたものだ。
このことはあいつには伝えてはいけない極秘事項として、知り合いの間では箝口令がしかれ、さらにはそれを伝えたらボスのミラージュドラゴンに裸一貫で戦わなければならない、というイマイチよくわからないルールも決められている。
今日は新しいレシピで武器を打ってもらった、試しに何度か打ったが、あれは成功させられる気がしない。
取りに行ったらもう出来ているだろうか、そんなことを考えているとメールの着信を知らせる音が鳴る、どうやら出来たようだ。
「っさて、取りに行って来るわ!」
「できたんですね!あとで見せてくださいよ!」
そんな声を聞きながら、俺は店を飛び出した。
ちなみに、後日新しい剣は市場に現れ、珍しさのかけらもなくなってしまった。
まあ、そんなところもあいつらしいな。
■
昔見た映画でハルバードを振り回す騎士を見たとき、僕は戦慄した。
勇猛果敢な男たちが戦列を並べ、ハルバードを巧みに使いながら敵を圧倒していく姿に、僕は幼い憧れを抱いたのを今でもはっきり覚えている。
「なぁあんたはハルバードは作れるか?」
「・・・作れるぜ」
この言葉を聞いたとき、俺は歓喜に震える心を抑えながら、この鍛冶屋があってよかったと、運営だろうがNPCだろうがプレイヤーだろうがどうでもいい、この鍛冶屋が存在するという事を感謝した。
「そうか・・・作って欲しい」
「いいのかい?」
「ああ・・・ロマンだから!」
声が震えそうになるのを必至に我慢しながら、店主に意思を伝える。
時にこの店主は依頼を断ることがあるらしい、自分の何を判断材料にしているかはわからない、しかし今はなんとかこの依頼が通ってくれることを祈りながら、店主の目を見つめ続ける。
「気に入った、作ろう」
さっぱりと店主は僕に告げた。
今僕はとてつもなく間抜けな顔をしているだろう、作ってもらえる上に気に入ったとまで言われてしまった。
未だかつてそんなプレイヤーが存在しただろうか、僕の記憶が正しければそういった書き込みを見た覚えはないし、そんな報告がwikiに上がってきた覚えもない。
「ありがとうございます!!」
「んむ」
「本当にありがとう!誰に頼んでもレシピを持ってないの一点張りで・・・本当にありがとう!!」
「そうか」
短い解答に普通は怒ったり、なにかしら気分を害すると思うが、この人はなんだか特別な空気のある人だ。
「スピアーヘッドは黒鉄、ポールは紫檀だ」
「そんなにいい装備お金が払えません!」
「気にすんな、俺が作りてえんだ金はいらん」
上級者になればなるほど、この鍛冶屋を贔屓にしNPCだとかプレイヤーだとかにはこだわらなくなる、そんな話をこの間クラン長に聞いた。
聞いたときはよく分からなかったが、今ならわかる、この人の前でそんなことは些細な問題にしかならない。
現実でも遭遇できないような、そんな人に出会った感動というか、自分がついていくべき兄貴を見つけたというか。
「・・・っありがとうございます!」
「そいつは俺の武器で迷宮潜ってからいいな」
「はい!」
今度から武器はここで作ろう、正直なんだか胡散臭いし、そんなに変わるわけがないと思っていたが、こんなにいい気分になれるならここにはきっとまた来ることになるだろう。
「番号札替わりだ、もってけ」
「これは!・・・でもこれって!」
「いいんだ、お前は俺のダチだからな」
俺のダチとまで言ってくれて入店証までくれた人だ、この人にこんなこと言われたら、絶対に期待を裏切れない。
この人の武器をこの手に、必ずこのリアローフオンラインのトッププレイヤーに名を連ねてみせる。
追い出されるように店をでて、すぐさまフィールドへと走っていく、少しでも今は戦いに身を置きたい、そんな気分だった。
後日出来上がったハルバードを取りに行く、まるでおもちゃを買ってもらう子供かのようにそわそわして相方に怒られてしまった。
手に持った黒鉄のハルバードは重厚な光を放っている。
持つ手が震え、それが黒鉄のハルバード++を手にした感動なのかなんなのかわからない。
ただ言えることがあるとすれば、現実であれば泣いていたということだ。
それから数ヵ月後、リアローフオンラインにてハルバードの第一人者と呼ばれる男が現れトッププレイヤーに名を連ねたのだが、それはまた別のおはなし。
男の話は書きたくない。
女の子の話書きたい。
次回巨乳金髪エルフの弟子side、ご期待くだい。