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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第一章 その男鍛冶師につき
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粗鉄のショートソード

 そんなわけで俺は弟子を取った、このゲームには弟子入りというシステムはないが、職業欄に「メタルスミス(ジョンの弟子)」と言った風に説明的に言葉を入れることによって、弟子であるということの証明を行う。

もちろんそれは幾らでも偽装できるため、弟子である証として様々な形で証明を行う。

一応弟子をとった時にと「三本交差剣紋章のダガー」という普段絶対にしないネーミングの武器を用意してある、武器は情報に製作者と製作所が記入されているため偽装は不可能、類似品なら作れるだろうが。


「ん、弟子」


「師匠?何ですかこれは・・・」


「弟子なら持ってろ」


「はっはい!」


 三本交差剣紋章のダガーを受け取ったのを確認し、鍛冶に必要な道具を出す。

まずはハンマー、大中小の大きさがあり場合によって使い分けるが、よく使うのは大と中ばかりで、小はポメルへの刻印時に使ったり歪みの調整時に使う程度だ。

次に火バサミ、なくてもなんとかなるが素手で掴むとやけどダメージが入るためあったほうがいい。

基本的にこの二つがあればなんとかなる、これに研ぎ石や骨粉、布に油等々、上を見始めると限りなく道具に溢れてしまう。


「おい弟子、お前剣を打ったことは?」


「あります、でも何度やっても失敗します」


「そうか、よし打ってみろ」


「いまですか!?」


「ああ、素材は好きに使え」


「・・・っはい!」


 気合はいってんなー、と思いつつ弟子の作業を眺める。

材料は鉄を選び種類はオーソドックスなショートソード、まずホドに火を入れ十分に火を起こす、鉄のインゴットを火にいれ熱する、鉄が赤くなったのを確認したら取り出し整形をはじめる。

剣の形にだんだん近づいていく、集中しているようで力いっぱい鎚を振って、同時に大きな二子山も揺れている、眼福。

形が出来上がった剣に焼入れをはじめる、そのまま水に付け水蒸気があがる、この音は何度聞いてもいいものだ。

そして出来上がった剣を持ち上げ、磨きあげを行っていく、あとはガードをはめポメルをはめる、グリップをはめて皮を巻き、完成。


「なんて書いてある」


「鉄のショートソード(破)」


「失敗だな」


「っ・・・はい」


 成程、よくある失敗だ。

俺も最初のうちはこんな失敗を繰り返した、何度も何度も失敗を繰り返し、参考になる本を読みあさり、些細なことでも試してみた。


「まずはインゴットの扱いだ」


「はい」


 メモを取る弟子、罰ゲームとは言え真面目なのはとてもいいことだ。


「インゴットは+と++がある、まず折り返し鍛造を行い鉄のインゴットに含まれる余計な炭素や不純物を抜く、すると鉄のインゴット++にまでなる」


 驚いた顔をしている弟子、まあ確かにこんな面倒くさい事をしていたとは思ってもみなかったのだろう。


「次にこのインゴットに焼きなましを行い内部の歪をとっていく、これによって鉄の上質なインゴット++へとなるわけだ、ここまでが剣を打つ前に行う下地作りだ」


 必死にメモをとっている姿を眺めつつ、書き終わるのを待つ、こういう時にシュタイナーの口の上手さやエリーゼの優しさが羨ましくなる。

まあスキルのせいというのもあるが、やはり真実を知らない人間の前ではあまり外したくないというのも本音だ。


「まずはここまで、できるようになれ」


「あっはい!」


「鉄はここにあるのを使っていい、無くなったら言え」


「ここでやっていてもいいんですか?」


「今日はもう予定はない」



 弟子はあれから一週間毎日のようにここに訪れた、だんだん鉄の扱いがわかったようで、上質までいかないにしろ鉄のインゴット+までは安定して作れるようになった。

本人はかなり若いのかもしれない、俺のように一ヶ月もかからずにインゴット+まで安定して行けるようになった、凄まじいのスピードで飲み込んでいく、ちょっと自信がなくなった。


「弟子」


「なんですか師匠?」


「鉄のインゴット+で、剣を打ってみろ」


「・・・っはい!!」


 俺の動きを真似してるのだろう、なんとなくこの動きを知っている気がする、真似をするというのもかなりの技量が要求される、やっぱりちょっと凹んだ。


「始めます!」


 まだ完全ではないにしろ、インゴット+にまで持っていったインゴットを焼きなましにかける弟子、その姿を後ろから丸椅子に腰掛け腕を組み睨むように見る師匠、まるで物語のワンシーンのような風景がそこにはあった。


 焼きなましを終えたインゴットをホドから取り出す、鉄のインゴット++に名前が変わっている、焼きなましは成功だ。

ここからが正念場だ、嬉しさが背中に見えたが直ぐにそんな気持ちを振り払うかのように頭を軽く振る、右手に持った鎚を鉄に叩きつける、余計な力が入っているようだ。


「肩の力を抜け、叩きつけても意味はない」


「っはい!」


 肩からいい塩梅で力が抜けている、力が入っている状態だとバットステータス「緊張」が出てしまい、スタミナ減少値が大きくなってしまう、そうなれば鉄をきちんと打つことができず失敗する。


「鉄をもっと感じろ、自分の直感を信じるんだ」


「っはい!!」


 鉄を上手いこと打て始めた、これは成功する、そんな予感めいたものを感じながら、自分と同じくロマンの道に魅せられた一人の職人の卵が生まれたことを喜んでいた。

そんな事よりあの二子山は素晴らしい、眼福。


 鉄が徐々に剣の様相を見せ始める、一番神経を使うポイントを整形していく、ここは美しい曲線をうまく出すのが非常に難しく、ここで集中力を欠けば今までのことが台無しになってしまう。

剣身の整形が終わった、焼入れを行いそのまま水に浸けようとする。


「待て、まだ水に浸けるな」


「・・・?」


「焼入れを行ったら、焼戻しを行うんだ」


 剣を貸してみろと、弟子から剣を受け取る、この工程は正直かなり難しい、自分なりに感覚を掴んでいかなければ無理な部分だろう。もう一度ホドに入れ再度熱を加える


「いいか、今から焼入れだその後に焼戻しという処理を行う」


「はい」


「この処理は400または600度まで鉄を再加熱し一定時間保持、その後に冷却するというものだ、この工程は鉄の微妙な変化を見極めなければいけない、できるか?」


「・・・やってみせます」


「それでこそ俺の弟子だ」


 言ってみたかったセリフベスト3に入るセリフを言えたのは素晴らしい、弟子はわしが育てたの方もいつか言ってみたい。


「っよし剣を水に浸けろ」


ゆっくりと弟子が剣を抜き、水に近づける。


「入れるときは一気にだ」


 熱せられた鉄が一気に水の中で冷やされる、独特な音が上がり鉄が黒ずんでいく。


「ホドの火を落とすんだ、この温度だという温度を探せ」


「はい」


 弟子が釜の中の温度を調節していく、もうちょっと、もうちょっと、まだだ、まだ。


「「ここです(だ)」」


 弟子が剣を水から抜きホドに差込む、鉄の一瞬の変化も逃さないように、瞬きすらも忘れて鉄を見つめ続ける、俺がやると睨みつけているだけなのに、理不尽だ。

鉄と炭と泥にまみれた工房の中に静寂が広がる、煌々と燃える釜の音だけが響く空間。

この一瞬が無限にも感じられる、張り詰めた空気に漂うのは緊張感という一本の糸、その張り詰めた糸の先が無限に感じられる時間、そんな空気が工房を満たしていた。


 打ち上がった剣を磨きガードをはめる、そういえば弟子に紋章印をやっていなかったことを思い出す。


「弟子、ポメルにこれを打て」


「これは?」


「剣の紋章印だ、お前はまだ二流だからなこれで十分だ」


「はい!三本交差剣の紋章印をもらえるよう頑張ります!」


「おう、頑張れよ」


 ポメルに紋章印で刻印を入れ、ポメルをはめる、グリップに黒檀をはめ染めていない皮を貼り付け糸を巻く。


「ほれ、鞘だ」


「あ、ありがとうございます」


 鞘はまだ教えてないし、いきなり作れっつうのも酷だ、あと俺自身暇だったので空いた時間を使って鞘を作った。


 出来上がったのは「粗鉄のショートソード+」粗鉄製ではあるが+が着いた確かに使うことのできる剣、破壊状態ではない、そう失敗ではない剣。それをうっとりしながら眺める弟子を横目に大量にできたインゴット+を鍛え直す算段をする。

幸い今日は休日で今はまだ午後5時だ、時間はたっぷりある。


 カウンターの横に弟子の机を置き、店の中にいる人間が増えて少し賑やかになった店内。

明日はこいつに何をさせようか、明日はあれを打たなきゃな等、弟子を取るのも悪くないと思ったそんな一日だった。

前回「活動報告にコメントを・・・」と書きましたが。

コメント許可をしておりませんでした。

誠に申し訳ありませんでした。


現在はコメント可になっておりますので、どうぞお好きなだけ「ハクナマタタ」とお書きください。

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