天雷鋼鉄のダガー
幻想のホドを使うようになってから、更に良い物が打てるようになった。それに比例して、どんどんと難しくなっていく。それでも、のめり込んでいく。いや、だからこそのめり込んでいく。楽しい、楽しくてたまらない。自分の打った武器で、いろんな人が冒険活劇を聞かせてくれる。
あの魔物を狩った。あのイベントを消化できた。ダンジョンの何階層まで行った。それもこれも、自分の武器を持って、英雄譚のような経験を聞かせてくれる。
自分がそんな物語の一部になったような気がする。戦うことには其処まで興味が持てない、でも自分もその物語の一部でありたいと思った。だからこそ、こうして鍛冶をしている。物語の中に出てくる、武器屋の主人。決して主人公ではなくても、確かに物語のために必要な重要な人物。
そんな人物でありたい。
今回作るのは、天雷鋼鉄でできたダガーだ。
ダガーはヨーロッパで10世紀以降に広く使われた武器で、短剣という意味の名を持った武器だ。戦闘に使われるナイフと言う意味でも、現代に名を馳せる武器である。
形状は、短剣というとおり、通常の刀剣を小さくしたものである。通常のナイフとは違い、刃に厚みがある。剣と比べて重量がないため、叩きつけによるダメージは少ない。取り回しは良いが、全身鎧の相手には斬りつけることが出来ず、刺すことが中心となる。しかし、一度ショートレンジに持ち込めば、その性能をいかんなく発揮する。
長ものや、通常の武器などは、どうしても間合いを取ることを念頭に置いている。自分に攻撃が届かない場所から、一方的に攻撃するというのは、大きなアドバンテージになるからである。だが、同時にそういった武器には、ショートレンジに持ち込まれた時、十分に武器を振るうことが出来なかったり。そもそもなんの抵抗も出来なくなってしまったりするのだ。
シーフからの依頼で作ることになった物で、威力不足を補うために、属性武器に手を出そうと思っているらしい。
最近属性武器を打つ時の、跳ねっ返りといえばいいのか。噴き出る炎や、冷気が多くなってきている気がする。理由は分からないが、難易度が上がるに連れて、打つのが厳しくなってくる。
「師匠、天雷鋼鉄ってどんな感じですか?」
「そうだな、じゃじゃ馬だな」
「じゃじゃ馬ですか……」
弟子がメモを取りながら、質問を投げかけてくる。正直習うより慣れろな自分としては、弟子のように様々なことをメモする姿勢には頭が下がる思いだ。
天雷鋼鉄から雷が迸る。
それは雷鋼鉄の比ではなく、弟子も今は少し離れた場所に立っている。ここまで雷が激しいと、大物を二人がかりで打つということが出来ない。小さな剣身であるにも関わらず、其処から迸る雷は、ジョンの体力をみるみるうちに奪っていく。
素延べが終わり、火造り、空締めを行っていく。凹凸を削り落としていくが、そんな中でも閃光が走り、体力を消耗する。細かな調整を行わなければならないのに、どうしても細かなところまで気が回らない。この雷をどう制御するのか、どうすれば言うことを聞いてくれるのか。
叩く場所は間違えていないはずだ。自分の勘がそう訴えかけている。使っている素材も悪いものではない。素材が悪ければ、剣の機嫌が悪くなることもあるが。今の素材は、どちらかと言えば一級品だ。
「師匠大丈夫ですか?」
「ああ、だがどうも上手く行かん」
うまくいかない理由がわからない。
生研ぎの段階になり、やっと一段落ついたような気がする。しかし、研ぎながら思うことは、この後の焼入れだ。
上級鉱石より上に位置する最上級鉱石、その属性鉱石は焼き入れが非常にシビアになってくる。特殊な焼入れ用の水を用意し、その時時によるランダムなタイミングで焼入れを行わなければならない。経験ではなく、完全に勘で焼入れを行わなければならない。
幻想のホドで熱せられていくダガーを見ながら、頭のなかでは、鍛冶を始めた頃と同じようにぐるぐると回っている。
思わず顔がニヤけるのを感じる。
難問が出れば出るほど、嬉しくなる。登る山が険しければ険しいほど、ワクワクする。
「師匠?」
「ああ、すまんな」
手元を見つめていた弟子が、不思議そうな顔でこちらを見ている。いきなり自分の動きが止まったからだろう。しかしながら、この距離で見ると凄まじいまつげの長さだ。そして素晴らしいプロポーションだ。このかがみこんでいる時に見える体のラインが素晴らしい。
さて、話がそれた。
まだだ、まだ早い。もっともっと、芯まで火が通り、全体が均一になるよう。何度もくあて方を変えながら調整していく。
今だ。
焼入れ、焼戻し。普段通りに事をすすめる。
天雷鋼鉄のダガー
+がつかない。ここまでしっかり準備をして、鍛えもまんべんなくやって。それで+がつかないのは、初めての経験だ。
新しいおもちゃを見つけた。
そんな気分だ。
ジョン「見つけちゃった(ハート)」
アリス「流石師匠!可愛いです!」
こんな感じ。
ついでに宣伝。
新連載「猟犬とお嬢様」始まりました。
ファンタジーなお話です。
傭兵がお嬢様を守ります。
読んでくれると、嬉しい。




