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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第一章 その男師匠につき
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天鋼鉄のザグナル

 年明けを迎えてしばらく、ぼちぼち客足も落ち着き始め、ようやく通常営業と言っても差し支えない程度に落ち着きを取り戻した。

 そんな店内を見ながらなんとなく、感傷にふけるのがこの店の店主、ジョンだ。年明けに行われたイベントで、プレイヤーたちは競って武器を買い求めた。その内容は、ハント大会。特定のモンスターを倒すことでポイントが入り、そのポイントに応じて報酬を得られるというものだ。

 そのイベントに向けてか、多くのプレイヤーが店に押しかけてきたのだった。特にその報酬中でも目を引いたのが、第一位の商品である天鉄のロングソード。未だに他のプレイヤーが持たない武器を求めて、プレイヤーたちは日々粉骨砕身の努力を続けていた。

 ちなみに天鉄のロングソードを作ったのは、最早伝説的とも言われる鍛冶師である。名前は伏せられているが、誰もが「あの鍛冶師」であると確信していた。


 なんとなく矛盾を感じてしまうのは俺だけだろうか。そんなことを考えながら、客足が遠のいた店内を眺めている。武器を得るために武器を買い求める客を見つつ、お祭り騒ぎだからだと言って、こうも皆目を血眼にしてあのロングソードが欲しいものなのかと。

 ジョンは理解していないが、ゲームの中でもトップクラスである鍛冶師が天鉄という、聞いたこともない新しい素材を使って打った、初めての武器。これがどれだけの意味があるのかというのを、いまいちジョンは理解できていなかった。

 もちろん、誰が打ったかはわからない。


 わからない。


 「さて」


 そう一言つぶやくと、カウンターから立ち上がり、店の裏へと入っていく。中では、弟子が一心不乱に鎚を振るっている。鎚を振るうその姿が、火で浮かび上がり、同時に立派な二子山が揺れる。

 その横に間隔を置いて設置されている幻想のホドに向かい武器を打ち始める。


 チラリと弟子がこちらに目を向ける、そしてすぐに気合を入れ直し鎚を振るう。今回作るのは天鉄のザグナルだ。ザグナルはインド発祥の武器で、いわばウォーピックの一種。鋭く尖ったピックの部分を持ち、その反対側には鎚の場合であったり斧の場合であったりがある。今回は斧のバージョンを作ろうと思う。

 まずはホドに火を入れる。鍛えるのは鋼だ。

 しっかりと熱した上鋼鉄を、更に鍛え上げていく。天鉄と言うのはいわば天鋼鉄の下位互換であり、本当の意味で鍛え上げれば作ることができる。詳しい話は省くが、要は鍛え過ぎないことが天鋼鉄を作る際に重要な事なのだ。


 繊細な細工を施す為、その大本となる部分にもこだわり、ピックの部分を打って行く。ピックは少し細身で鋭さを持たせる。ノームと呼ばれる背の低い種族のキャラクターに似合いそうな、そんなイメージを込めていく。なども何度も叩きながら、イメージに寄せていく。もっと鋭く、可憐に、優雅に。

 付け根の部分に宝石をはめ込むための窪みをつけ、反対側の斧の部分を作っていく。今度は一転して、少し重厚に仕上げていく。装飾だけにこって、使いものにならないような武器は打っても仕方がない。


 着飾るために武器は必要ない。


 どこと無く胸の中に引っかかっていたことは、この事なのかもしれない。ゲームの中の武器がかっこいいほうがいいのはわかる。しかし、自分の打った武器を持つことが、一つのステータスであるように言うのは違う気がした。

 要はその武器で「何をしたのか」が重要なんであってその武器を「持っている」ことはさして重要ではない。もちろん、今まで打ってきた武器は、決してナマクラなどではない。常に最高の仕事をしてきたつもりだ。その時その時の全力をかけて打ってきた。武器を得るために武器を買う、その姿がどうにも歪に見えて仕方なかった。その武器を手に入れたら、この武器はどうなってしまうのか。そう考えると、それは酷く寂しいことのように思えた。それも一つの楽しみだから、それを悪く言うつもりはないが、なんだか違うような気がする。


 そんな気持ちを振り払うように、ひたすらと鎚を振るい続ける。もっと、もっと思いを込めて。イベント用の武器なんぞ目もくれなくなるほどに素晴らしい武器を。


 「師匠?どうしたんですか?」


 弟子がこちらを心配そうに見つめている。鬼気迫る勢いで打っていたことが、彼女の目に異常に写ったのだろう。


 「すこし、思うところがあってな」


 「そう……ですか……」


 また、目の前の武器に向き直る。弟子も随分と成長した。もう一人前と行っても差し支えないくらいだろう。教えることも多かったが、教えられることのほうが多かった。助けることもあったが、助けられることのほうが非常に多かった。特に幻想のホドをつくり上げる時、何よりも助かったのは自分の代わりに仕事をこなし、一人で店を切り盛りしてくれたことだ。弟子に感謝の言葉を伝えても「師匠も手伝ってくれましたから出来て当然です」と言って聞かないから困ったものだ。


 少し肩の力を抜こう。無駄な力が入りすぎている。


 「すまんな……」


 ザグナルにそう語りかける。そうではなかった。ただやりたいように、未来の持ち主のことを考えながら打ち上げていくだけでよかった。


 この武器は誰と出会って、どんな冒険をするのだろう。


 その時が訪れることを祈りながら、細工をしていく。きっとこの細工の似合う人物が買っていくことだろう。どんな使われ方をしても、持ち主を裏切らない武器を作ろう。その為に、自分も武器を裏切らないでいよう。


 そうすれば、きっといい持ち主が見つかるはずだ。

今回から2部スタートです。

久々に鍛冶パート書くと疲れるな。

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