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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第四章 異常な鍛冶師
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普通のお客様

 今日は珍しく、見学を含めたお客様が来ている。普通だと、お客様は注文をして、出来上がったのをお知らせして、取りに来てもらうか。手間はかかるが、商業ギルドを通して、配達をしてもらうといった方法で取引をする。しかし、中には自分の武器が出来上がるところを見たい、といった要望をくださるお客様もいる。もちろん見学はできるが、だれでも彼でも見学をして頂くわけには行かない。

 基本的には師匠が、そのお客様がどんな人柄なのかを把握していれば、見学することができる。しかし、例外もあって。私やシュタイナーさん、そして何故かエリーゼさん、といった人たちの紹介なら、師匠も見学の許可をくれる。なんだか申し訳ないような気もするが、同時に師匠から信頼されている証のようで、くすぐったく感じてしまう。もとよりその信頼を裏切らないように、心から信頼できる友達しか、招待する気はない。

 今日のお客様は、パーティ結成からの知り合いで、聖職者としてのプレイを長く続けている子だ。ボーイッシュな見た目で、一見すると美少年のようにも見える顔立ちで、今日はスレンダーで華奢な体を修道服に包んでいる。

 長く続いた試練が終わりを告げ、やっと新しい職につくことが出来たと、つい先日以前よく組んでいた、パーティのメンバーで集まった時に嬉しそうに報告された。てっきり結婚相手でも見つかったのかと、皆ニヤニヤしていたのだが。それはそれでとても嬉しく、ともに喜びをわかちあった。

 その流れで、新しい天銀と呼ばれる素材を用いた武器を製作しなければいけない話を聞き、じゃあうちで作ればという話になった。どうも、私が師匠の弟子になっていた事を知らなかったようで、とても驚いていたが、是非お願いする、と勢い良く言われてしまった。


 師匠が鎚を振るうのが見える位置に、今日は二人で腰掛ける。幻想のホドに灯った炎は、天の名に恥じぬ神々しく温かい光だった。すでに用意してある、聖銀をどんどん熱していく。炎に照らされ、作業場に師匠の姿が浮かび上がる。それはまるで一枚の絵画のようで

、ヘーパイストスの化身だと言われても、納得してしまいそうな光景だ。どことなく鎚のぶつかる音が、いつもより澄んだ響きを含んでいるような気がする。


 「いつもこうなのかい?」


 「こうっていうと?」


 「いつも、こんなに……なんというか、鬼気迫るような」


 「いつもこんな感じですよ?」


 「なんだか恐怖すら感じてしまうよ」


 確かに一心不乱に鎚を振るう姿は、普段見ない姿なせいか鬼気迫るものを感じるかもしれない。頼もしい二の腕や、広い背中に、見とれてしまうことはあっても、気圧されることはなくなった。最初の頃は、自分が見てきた鍛冶とまったくかけ離れたものであったが、決して恐怖を感じるような姿ではなかったと思う。


 「どうかされたのですか? ジョンさん」


 師匠がこちらを見ていたようで、それに気付いた彼女が師匠に質問をする。集中しているのを邪魔しないように、小声で喋っていたが。もしかしたら邪魔だったのかもしれない。


 「いや、なんでもない」


 「そうですか……」


 師匠は一言そう告げて、また鍛冶に戻る。


 「お父さんみたいな人だね、是非僕のお父さんになってほしいものだよ」


 「ダメッ」


 「フフッ」


 彼女にはからかわれてばかりだが、今日は特にからかわれている感じだ。でも、お父さんになって欲しいなんて、師匠は私の師匠なので、それは駄目にきまっていて。コレは決して、他意があってのことではないのです。

 頭のなかで誰にでもなく、言い訳をする。


 「じゃあ、アリスはお母さんかな」


 「やめてよ」


 師匠がお父さんで、私がお母さんなんて、そんなの。そんなの素敵です。だってきっと師匠は、いいお父さんになります。そして、私がお母さんなんて。素敵です。


 「アリス」


「はい!」


 ついつい思考が斜め上に行ってしまっていたようだ。彼女が変なことをいうから、ちょっと考えが暴走してしまったようだ。

 焼き入れのための前準備を行っていく。カーテンを引いて、部屋の中を暗くしていく。


 「師匠行きます」


 「おう」


 祝詞を歌い上げていく。本当は彼女に頼んでも行うことが出来るのだが、彼女曰く「君の仕事ぶりを見てみたいんだ」と言われて、私がやる事になってしまった。本職の前でやるのは恥ずかしいが、精一杯この役努めようと思う。


 「……すごい」


 後ろから何か聞こえてきたけど、今は気にできるほどの余裕が無い。神秘的な光が、私を照らし、師匠を照らす。なんだか祝福されているような気分になる。心が落ち着き、師匠の大きい背中が、とても頼りになる物として目に入る。


 「カッコいいお師匠様だね」


 「当たり前ですよー」


 「フフッだろうね」


 師匠がカッコいいのは当たり前だ。仕上げをしている師匠の背中を見ながら、さっき話していたことを思い出す。婚姻という制度が、このゲームの中には存在する。互いにパートナーとして、一緒に行動するときに、色々と特典が手に入る用になる。その中には、その……夫婦限定のクエストや、イベントなんてものも含まれる。仮想世界だが、仮想世界だからこそ師匠と出会えたのだから、ちょっとぐらい夢を見てもいいと思う。


 出来上がった剣を受け取ると、彼女は足早に店を後にした。新しい武器を手に入れた時の気持ちは、理解できる。兎に角早く試したくて仕方なくなるのだ。昔の武器との違いを明確にするために、何度も持ち替えて試したりするのだ。


 「随分と機嫌が良いな」


 「ンフフッそうですか?」


 どうも顔が、ほころんでいたようだ。


  「やっぱりカッコいいって言ってもらえたら嬉しいんですよ」


 師匠はよくわからなかったようで、眉をひそめながら首をかしげている。


 「よくわからん」


 「わからなくていいんですよっ」


 師匠のかっこよさには、私だけ気付いていればいいのだ。まあ既に手遅れのような気もするが。師匠を慕う人間は、いっぱいいいるのだ。


 未だに首をかしげている師匠を背に、作業場に戻っていく。鼻歌を歌いながら片付けをしていたら、メールが届いたアラートが鳴る。

 彼女からのメールだ。何かあったのだろうか。


結婚式には呼んでください。


 恥ずかしさのあまり大声をあげてしまい、師匠が作業場に飛び込んできた。このことをごまかすのに、とても苦労してしまった。

 随分と小悪魔なシスターに、最後までからかわれてしまったようだ。


 「結婚か……」


 今はまだ、鍛冶のことで手一杯だ。そう自分を納得させて、私はまた師匠の隣に立つのだ。

結婚した

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上段にて  師匠が鎚を振るうのが見える位置に、今日は二人で腰掛ける。幻想のホドに灯った炎は、天の名に恥じぬ神々しく温かい光だった。すでに用意してある、聖銀をどんどん熱していく。炎に照らされ、作業場に…
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