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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第四章 普通の鍛冶師
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上鋼鉄のロングソード

 視界を埋め尽くす程の人間が、自由国家商業ギルド前広場に集っている。冒険者の風貌の者や、商人とおぼしき大きなかばんを抱えたもの。各国の騎士団の姿も多く見られ、物々しい雰囲気が流れるかと思いきや、非常に和やかで和気あいあいとした空気が広場を包んでいる。自由国家は、商業の国だから多種多様な人種が暮らしている。しかし、今日はその人種の多種多様さに加え、職業も多種多様な人間が集まっている。

 広場にはところ狭しと露店が出ており、そのほとんどが「鍛冶屋」が開いたものだ。広場の一角に飲食店も軒を連ね、露店を見て回り疲れた人々が食事や休憩を取る。露店では各国の鍛冶師が丹精込めて作った武器や、防具の数々が並んでおり、冒険者や騎士、傭兵たちが店をひやかし、時に値段の交渉を行っている。中にはその場で武器を打ち、客寄せを行う店も存在する。

 今回のお祭り騒ぎは、「スミス・フェスティバル」と呼ばれる公式なイベントだ。自由国家に店を開く商人たちが先頭に立ち、生産職へ興味を持ってもらおうと企画したものである。各国様々な鍛冶師達に、鍛冶師同士の技術交換や交流、そして儲けの為に祭りを開こうと呼びかけ、運営に企画と参加者名簿を提出し実現された。遊び心あふれる運営だったからこそ、実現されたイベントとも言えるが、企画を練り参加者を募った商人たちや、企画に賛同した「シュタイン商店」や「エリーゼ武具店」の存在も大きかったことだろう。


 そんな中、最も多くの人を集める場所があった。鍛冶屋「ジョン・ハンマー」の露店である。「ジョン・ハンマー」の露店は、露店の中でも大きくスペースを取られており、店の中では店主が剣を打っていた。祭りの参加者の多くは、名の知れた鍛冶師の妙技を一目見ようと、この露店に詰めかけた。中には自分の露店を放置して、ジョンの手元を熱心に見つめる鍛冶師もいる。騒がしいはずの広場は、この一角だけ静かで鉄を叩く鎚の音だけが響いていた。


 上鋼鉄のロングソードを打っていく。デモンストレーションをして欲しいと、シュタイナーを通じて企画を立案した商人たちに頼まれた。現在鍛冶屋の中で、最も技術があるであろう人間の鍛冶を見てもらえば、生産職への興味も深まり、また他の鍛冶師達への刺激にもなるだろうと考えての事だった。

 見学者は皆、店主が鎚を振るう姿に圧倒されていた。普段自分たちが使っている武器は、最初は鉄の塊で、それをこうして人の手で、しかも鎚だけで作り上げていく。自分たちでは、全く想像の付かなかった、想像したこともなかった光景が目の前で繰り広げられている。目の前で見る鍛冶師の仕事に、皆時を忘れるように見入った。打ち上がった剣を弟子が素早く研いで、出来上がった剣を観客に手渡し、観客はこの短時間でこんな物が出来るのかと、剣を見つめてまた隣に手渡す。


 正直、ここまで見られると緊張してしまうから、極限までに集中して周りを遮断しなければやっていけない。まさかこんな大規模な祭りだとは思わなかったし、まさか一番広い場所に連れて行かれるとは思わなかったし、まさかこんなに人が来るとも思わなかった。最初は逆の意味で、こんな広い場所に誰も来なかったら、と緊張したが。蓋を開けてみれば、それなりの広さを割り当てられたというのに、周りは人でごった返している。どうにも事態を重く見た運営が、整理券を配り出したあたりで多少は減ったものの、やはりそれでも人は多い。

 広場の真ん中には大きな噴水があり、その広場で一番大きい建物が商業ギルドの館だ。特別商業地区の中心に位置するこの広場からは、放射線状に道が伸びており、普段は商人以外歩かない道にも活気があふれている。一般商業地区で開かれる、市場では同じような活気に溢れているが、今回は規模が違いすぎる。このゲームの全プレーヤーがここに集結しているのではないかと思えるほど、見渡す限り人、ひと、ヒト。特に普段は目にすることのない、自分以外の鍛冶屋を見て回りたいところだが、こうも人に囲まれ、自分の鍛冶を求められているものだから、ついつい鍛冶を続けてしまう。


「師匠、休憩しましょう」


 何十本目かの剣を打ち終わった時、手伝いもそこそこに露店をさばいていたアリスがかけやってくる。近くにいたギルドの職員に、一度休憩ししばらくしたら再開することを告げ、アリスが持ってきた椅子に座りこんだ。

 目の前では、アリスが未だ慌ただしく接客を続けている。どこと無く、ここが現実であるように錯覚してしまう。行き交うヒトは皆笑顔で、自分の作った武器を手に取り真剣に悩む客がいて、形の良い桃を引っさげたアリスが慌ただしく動きまわる。あっちにふりふりこっちにふりふり、YES。

 なんとなく、こんな日常がずっと続けばいいと、ゲームの世界とわかっているのに、思ってしまった。


「すみません、少々お聞きしてもいいでしょうか!!」


 物思いにふけっていると、鍛冶師にはアリスと同じく珍しい女性鍛冶師に話しかけられた。なんでも、最近行き詰っていてどうしてもヒントが欲しいらしい。ふと周りを見ると、どことなくこちらに聞き耳を立てている、鍛冶師らしき人物もいる。ここはこの「スミスフェスティバル」の理念に基づいて、更なる生産における発展の為、一肌脱ぐとしよう。


「楽しそうですね、師匠」


 しばらく、女性鍛冶師と鍛冶のなんたるかを話していると、アリスが少し刺のある声で、こちらに言の葉を投げた。この忙しい中、くっちゃべっている奴が後ろにいたら、怒って当然だろう。


「すまんな、店番を変わろう、他の鍛冶師と話してみろ、きっと発見がある」


「え……っ!」


 よくよく考えれば、アリスは他の鍛冶師とあまり会ったことがないだろう。俺の場合は、昔の繋がりから、鍛冶師と会う機会もあったが、アリスはそうもいかないだろう。基本はうちの店にいるし、一人でどこかに行くにしても商業ギルドにお使いに行くくらいだ。それ以外は俺と居る時間が長いし、外に狩りに行くにしても最近は俺とばかりだ。特に今回は、プレイヤーでも珍しく、生産職では更に珍しい野良の鍛冶師だ。誰かに師事するわけでもなく、己の技と経験のみで剣を打つ。かつての自分と同じ立場、そこにまた何かを見るかもしれない。そろそろアリスも、独り立ちをしたくなる時期なのかもしれない。


「師匠、ありがとうございました」


 一時間程度たった後、アリスが近づいてきた。日もずいぶん高くなり、そろそろ傾き始める時間。客足も少し落ち着き始め、重い腰を上げてまた鍛冶に戻ろうかという頃に、調度良く話し終わったようだ。


「どうだった」


「とても、勉強になりました!……あと、懐かしかったです、昔の自分みたいで」


 機嫌が治ったようで良かった、アリスは一度怒るとなかなか機嫌が治らない。しかし、そういう時は決まって俺の横に座ってすましているのだが、それがまたかわいいのだ。


「独り立ちの時期かもしれんな……さあ鍛冶の続きだ」


 この時なにも考えずにつぶやいた一言が、まさかあのような事件に発展するとは、その時は全く気づいていなかった。


 鍛冶師の祭典は、未だ続く。

オヒサシブリデス

オソクナッタ

ゴメン

シュウショク

キマッタ

フッカツ

オレ

ウレシイ

オマエ

ウレシイ?

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