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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第四章 普通の鍛冶師
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雷鋼鉄のパルチザン

 上級金属に属する雷鋼鉄は、火鋼鉄同様鋼鉄のインゴットに竜の鱗を合わせ、鍛えあげることによって作り出せる金属である。それぞれ火鋼鉄は火竜の鱗を、雷鋼鉄は雷竜の鱗を使用する金属で、属性金属の入り口に当たる金属である。こういった属性金属は、それぞれに特徴があり扱いも難しくなる。一歩間違えれば、素材の持つ魔力が暴走し、爆発的な魔法が展開されてしまう。だからこそ、基礎をしっかりと叩き込んだ人間にしか、属性武器の作成方法は教えない。教えたところで打てはしないが。

 なぜこの様な話をしているかというと、そろそろ弟子に属性武器の作成を教えようかと思っているからだ。つい先日とうとう上級金属に+をつけることに成功し、うっとりしながら自分の打ち上げたロングソードを見ている姿は、欲しかったおもちゃを買ってもらった子供のようで、とても愛らしかった。まあそれはさておき、弟子は自分の壁を超えまた急速に成長している。上鋼鉄に++を付けるのも時間の問題になってきた今、必要なのは新たな壁だろう。属性武器は、上級金属の次に訪れる鬼門と呼ばれ、多くの鍛冶師を泣かせてきた。

 ここまでの間で、基礎を疎かにしスキルを磨いていないと、全くと言っていいほどにアシストが反応しなくなってしまう。金属を鍛え、武器を打ち、鎚を振るうことによってアシストの具合が変わると気付いたのは何時だったか。スキルをアップさせることによって、第六感的に感じていたアシストが、はっきりとは行かずとも認知できるようになる。


 「弟子」


 「はい、どうかしましたか師匠」


 作業場に居る弟子に声をかけると、中から弟子がひょっこりと顔を出す。どうも掃除をしていたようで、頭に三角巾を巻いてエプロンを着ている。ちょっと新婚さんの気分を味わいながら、弟子に椅子に座るように伝える。


 「上級金の扱いには慣れてきたか」


 「師匠のお陰で、随分慣れてきました」


 「ふむ……」


 目の前でソワソワとしながら、椅子に腰掛ける弟子を見つめる。ピンクのエプロンというものは、どうしてこうも男心というものをくすぐるのか、そんなことを思案しながら、話を切り出すタイミングを伺う。


 「あの……どうかしたんですか?」


 何も言わないのを気にしてか、弟子がこちらに訪ねてくる。少し不安げに見つめる、その上目遣いは非常にあざとい、だがそこがいい。弟子は緊張している時に、無意識に両の手を太ももで挟むような仕草を取る。エクセレント。


 「属性武器、打ってみるか?」


 「…………へ?」


 何を言われるのかと緊張していた弟子には、予想外の言葉だったようで、呆けた顔でこちらを見ている。次第に言葉の意味を理解してきたようで、呆けた顔が徐々に笑顔に変わっていく。こういう反応をするから、弟子に何かを教えるのは面白いと思える。純粋に鍛冶に向き合っているのがわかるから、ちょっと昔の自分を見ているようでむず痒くもあるが。


 「はい! 打ってみたいです! ほんとに打っていんですか!!?」


 「ああ、お前にはそれだけの技術がある」


 「やっと属性武器に入れるんですね! やっと!」


 嬉しそうに動きまわる弟子を見ながら、何を作らせようか考える。剣や斧は面積が広く、初めての人間には向かないだろう。となれば槍ややじりになるが、鏃は流石に味気がなさすぎる。ここは短槍を打たせて、また壁に飾ることにしよう。今店内の壁には、弟子が練習に打った武器が、いくつか飾られている。弟子は恥ずかしそうにしていたが、自分の作ったものを見てもらえる、場合によっては手にとってもらえるのを誇らしく思っているようだった。


 「全長170のパルチザンだ、材料は好きに使え」


 「パルチザンですか」


 「ああ、デザインはオーソドックスでいい、装飾はそのうちだ」


 弟子が慌ただしく準備を始める、お出かけ前の子供のようなはしゃぎようだ。

 パルチザンとは言わば、長柄武器の中でも非常に優秀な部類で、おおよそ短槍の完成形と言っても過言ではない武器だ。ハルバードなどと違い、一つのパーツで多種多様な使い方が出来る武器で、その使いやすさから農民やゲリラがよく用いていた。ちなみに名前の由来は、非正規軍におけるゲリラが「パルチザン」と言い。パルチザンがよく使っていた武器のため、パルチザンと呼ばれるようになった非常にややこしい武器である。

 先ほど述べたとおり、非常に扱いやすく、素人でも簡単に扱うことが出来る為、訓練が容易である。穂先の特性上、刺突と斬撃、つまり突きと薙ぎ払いを行うことが出来、左右対称に伸びた突起によって、敵の武器を抑えこむことも出来る。

 歴史としてはおおよそ15世紀~17世紀にかけて使われた武器で、16世紀からは正規軍もパルチザンを取り入れ始めた。正規軍に取り入れられてからは穂先にレリーフが施されるようになった。弟子はまだ属性武器を打ったことがない、そんな人間にレリーフを施せというのも酷な話だ。今回は一番シンプルに、装飾がなく穂先から次第に幅広に広がり、突起が左右対称に飛び出ている。機能としてはグレイブとよく似ているが、突きの面ではパルチザンの方が優秀である。


 「フッ……フッ……」


 弟子が短く吐き出した息と同時に、鎚が金属を叩く甲高い音が作業場に響く。そして一瞬の間を置いて、パチパチと弱い電撃が走る音が聞こえてくる。今はまだインゴットを鍛えて、雷鋼鉄のインゴットにする段階の為、電撃は弱いが。鉄との融合率が高まるにつれて、その力は威力を増し作業者に猛威を奮うようになる。属性金属の鍛え方は独特で、コツを掴むまで痛みと闘いながらの鍛冶仕事になる。コツとしてはアシストを最大限に活かし、一番有効な場所を力で叩くのではなく、技術で叩いていく感じで打つといい。


 「……ッ!」


 「痛むか」


 「……はい」


 ひときわ力強く叩いた瞬間、弟子が顔をしかめる。早く終わらせるために、力強く打てば打つほど、属性金属は言うことを聞かなくなり、むしろ時間がかかってしまう。


 「力で叩くな、技術で叩くんだ」


 力の入っている肩に手を載せ、肩をもみほぐすようにして弟子の緊張を解いていく。


 「力めば余計な動作が多くなる」


 後ろから弟子の右手に手を伸ばす。今まであまりこういうことをしなかったが、あの事があったのを反省し、もっと積極的に教えていくと決めた。弟子にも、ゲームを楽しんでほしいからな。


 「自分を信じるんだ、今までの努力を信じろ」


 その右手をアシストに従い、叩くべき場所に落とす。余計な力は入れず、最小の力で電気を帯びた真っ赤な鉄に鎚があたり、キーンとここちの良い音がなった。


 「この音、忘れるなよ」


 「……はい!」


 その後の弟子は、余分な力の抜けた良い音を響かせていた。その頬は紅潮しており、とても楽しそうに雷鋼鉄を鍛えげていった。

 出来上がった雷鋼鉄のパルチザンは+の性能までは行かないものの、非常に出来の良い武器に仕上がった。どうにも属性効果が強く出ているようで、属性値が+並に付いている。コレは要検証だと、メモに走り書きをしておく。

 出来上がった武器を研ぎ、柄に穂先を取り付けると。武器を打ち上げて放心していた弟子が、作業場から出てきた。


 「よくやったな、初めてで成功とは」


 「成功……ですか?」


 「ああ、成功だ」


 「本当にですか?」


 「嘘をつく必要は、ないだろう?」


 次の瞬間「いやったああ!!」という歓喜の声とともに、抱きついてきた弟子を受け止めて頭をなでてやる。


 「やりました! やりました師匠!!」


 「よくやったな」


 その後ひとしきり喜んだ後、抱き上げられている状況と、抱きついた事を思い出したようで、弟子はすぐに降りてしまった。もう少しそのままでも良かったんだが。

 

 もしかしたら、エルフは属性武器を扱う方が向いているのだろうか。そんなことを考えながら、慌てふためいている弟子を眺めていた。

イチャイチャしてるのを書きたかったんです。

次からはもうちょっと鍛冶します。


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