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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第三章 弟子騒乱
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明暗

 「弟子! 逃げるのは、いつでもできるぞ」


師匠の言葉が、今も耳に残っている。

 結局私は逃げただけ、自分の努力不足や、知識不足から目を背けて、楽な道へと逃げ込んだだけ。

 伸び悩んでから、私は鍛冶をするのが怖くなった。失敗が怖かったんじゃない、師匠に「こんなものか」と思われたくなかった。でも結局逃げてしまった、そんな自分が不甲斐ないし、ここまで目をかけてくれた師匠に対しても申し訳ないし。ここのところは、ひたすらに狩りをする毎日を送っていた。

 昔一緒に行動していたパーティは、私を快く迎え入れてくれた。今までも時々お邪魔していたが、長いこと一緒に行動する私に、皆は何も聞かず、ただ一緒にいてくれた。


 楽だった。


 自分はまだ居場所があるんだと思えた。あんな形で、仕事を投げ出して、あそこから飛び出した今、合わせる顔なんてなかった。でも使っている装備が未だに師匠の物なのも、自分のプロフィールから「ジョンの弟子」という一文を消せずにいるのも。新しいレシピを見つけては、師匠は知っているのかと考えてしまうのも。きっとまだ未練があるからだろうと思う。

 仕事が来るたびに、嫌な汗をかくような、みぞおちあたりをギュッとされるような、とにかく嫌な感覚が体を襲う。期待に応えたかった、でも応えられなかった。そのことばかりが頭をぐるぐる回って、師匠の目に落胆の色が出てるんじゃないかとビクビクして、そして何度も失敗して。


 「相当参ってるようだな」


喫茶店のテラスで、堂々巡りを続けていた私に、声をかけてくる人がいた。広場に存在するこの喫茶店では、よく野良で狩りをする人が、声をかけられるために座っていて、私も今日はそんな人に紛れていた。


 「あっ……こんにちわ、シュタイナーさん」


 顔を上げて、そこにいたのは見知った顔。よく武器を下ろしに行った時に、師匠のちょっとした昔話を聞かせてくれたり、私個人に仕事を出してくれていた人。そして、今あまり顔を合わせたくない人でもある。


 「………………」


 シュタイナーさんが、席についてコーヒーを頼む。どうも挨拶程度の会話ではなく、何かしらの意図があって座ったようだ。

 沈黙が重苦しくのしかかる、頭のなかで何を話せばいいのか逆に何のようなんだろうとか、無駄な思考がぐるぐると。そして、もっと話しづらくなっていく。


「ジョン、落ち込んでたよ」


 「え?」


 師匠がなぜ落ち込むのだろうか、むしろ怒っていると言われたほうが釈然とするし、なにより普通の人なら怒って当たり前ではないだろうか。自分から頭を下げてまで弟子入りさせてもらったというのに、仕事を投げ出して、逃げ出すような弟子を普通は破門されてもおかしくないのに。


 「なんで……なんで師匠が落ち込むんですか? 悪いのは、私なのに……」


 「いい師匠じゃなかったってさ。」


 「そんな、師匠はとてもよくしてくれました」


師匠はとてもよくしてくれた。深夜まで残っている私のために、いつも店を開けて、傍で見守ってくれた。失敗したら慰めてくれたし、成功したら褒めてくれた。少なくとも、他で聞くようなスパルタで、弟子がゲームを辞めてしまっても気にかけない、そんな師匠と比べれば、私はとても恵まれた環境にいた。


 「今回のことは、私が逃げ出したのが原因で……」


 「あいつは優しいから、自分の指導が至らないせいで弟子が壁にぶつかっても、手助けできなかったって言ってたよ」


 そんなことはない、師匠はいつも、いつも私の背中を見守っていてくれたし。私が見ているときは、しっかりと説明をしてくれていた。「ここから先は感覚だ」と言われたあとも、その感覚を掴ませるために、私に積極的に仕事を取ってきてくれた。


 「そんなことありません、いつも師匠は……私に最高の技術を伝授しようとしてくれました」


 「あいつが、君に教えなかったとは思わないんだ? 成長の早い君に嫉妬して、わざといじわるしたとは思わないんだ?」


 確かに、そんなことを考えたこともあった。追い詰められて、少しぐらい教えてくれてもいいのにと、思ったこともあった。でも……


 「思わなかったといえば嘘になっちゃいます。 でもやっぱりそうは思えません」


 シュタイナーさんが真面目な顔で、私を見ている。いつも、ニコニコしていて、人の良さそうなシュタイナーさんが、こんなに真面目な顔をしているのは初めてかもしれない。「なんで、そこまで言い切れる?」小さく、でも確かな疑問を私にぶつけてくる。


 「わかるんです、師匠がいつも私を信じてくれてるって」


 師匠はいつも、私に任せてくれた。小さな仕事も大きな仕事も、実力に見合った物を、私に任せてくれていた。それがどれだけ嬉しかったことか、それはきっと私にしか分からない特別な感覚だ。

 シュタイナーさんが、ニヤニヤとしながら、手を頭の後ろに組んで椅子を傾けている。


 「なるほどな、こりゃあいらない世話だったな」


 「え?どういうことですか?」


 「いやなに、こっちの話だよ」


 シュタイナーさんは、そう言うやいなや立ち上がり、別れの言葉を告げて店を出ようとする。


 「あっ明日、午後から僕らが連れてでるから。 ちょっとジョンハンマーに行ってみるといい、じゃあな」


私の返事を聞くこともなく、シュタイナーさんは出て行ってしまった。残された私は、今言われた言葉を思い出す。明日、午後からジョンハンマーは無人になる。私はゆっくりと、席を立って一つ伸びをする。気持ちは相変わらず晴れないけれど、今さっきよりマシになった気がする。

 明日ジョンハンマーへ行って、自分の荷物を回収しよう、いつまでも置いていては迷惑だろうし。そんなふうに言い訳を自分にしながら、私はもう一度ジョンハンマーへ向かうことを決意した。

とまぁ弟子はこんな感じにおもっていました。

結局は犬も喰わないなお話です。

喧嘩ではないけど。

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