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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第三章 弟子騒乱
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漢騒乱 後

「ここは自由国家の店だ! よそ者は出て行け!」


 ヴァルアレイド騎士団の団員が、激しくうちの団長に詰め寄っていく。案の定面倒くさいことになりやがった、昨日の帰りにも似たようなことがあったんだろう。団長は少しもめただけだと言っていたが、この様子だと恐らく俺の想像も間違っていないだろう。

よくもまあそこまで熱くなれるものだ、と少し呆れるような気持ちを抱く。しかし、同時にどことなく分からないでも無い自分がいる。負ければ悔しいし、勝てば嬉しい、当然のことだ。ゲームといえど勝ち負けがついてくれば、当然感情的な部分がついてきてしまうのは、しかたのないこととも言える。

だがここは、NPCかPCかは関係なく他人様のテリトリーなわけだから、ここで罵り合うのは騎士としての品性とやらにも欠けるだろうし、何よりみっともねえ。ゲームの楽しみ方は人それぞれ、俺らの問題がみんなの問題ではないだろう。


 「おめえら、喧嘩は他所でしな」


 「何言ってるんですか! これは自由国家の利益がかかっているんですよ!」


 「はっ! 『自由国家所属騎士団の利益』の間違いだろ!」


 壁によりかかり、腕を組む。目を閉じて相手の会話に耳を傾ける。確かに利益のかかっていることだが、そんなことを気にするようなオヤジではねえし。むしろそんなことを気にしているなら、他の鍛冶師がやっているように、どこかの勢力に身をおいて、弟子を多く育てながら鍛冶をするほうがいいだろう。前にオヤジに「エルレイ騎士団でその腕を振るわないか」と聞いた時、オヤジは一言「俺の武器を待ってる奴が、居なくなったらな」といっていた。オヤジにとって自分の武器を預けた相手は、みんな子供のようなもんだんだろう。ゲームの中といえど、オヤジの佇まいは、本当のおやじのようで、実際の父親と似通った威圧感というか、威厳というか、そういったものを感じている奴は少なくない。むしろ多い。

うちの団長も、ここの武器を初めて手にしてからと言うもの、武器や防具は必ずここで注文し、自分の武勇伝をオヤジに披露し、心の底から慕っている。このゲームを初めて、現実で憧れた世界の中で、現実で憧れた騎士という身分を手にして、仲間も増えた。当然今まで出会った人間皆がみんないい人だったわけではない。悪質なプレイヤーと出会ったりもしたし、システムの穴を突いたバグを用いるような人間もいたし、チートを使ってくるようなやつだっていた。しかし、ヴァルアレンドの奴らはそんな奴らじゃねえ。直向に、実直に、意見を交わして、このゲームを楽しんでいた奴らだった。少なくとも、こうして他の国の人間に食って掛かり、騒ぎを起こすような奴らではなかったはずだ。


 「こんな奴らが騎士・・・か」


 「オヤジ・・・っ!」


 とうとうオヤジが業を煮やしてしまったようだ。団長が思わず、オヤジの方を向いて声を出すが、次の言葉が出ないでいる。ゲームの中のプレイヤーとして、物語を作る人物として、団長はロールプレイを心がけていた、それこそ仲間内でもやり過ぎでは?と声が上がるほどに。だが、それもひとつの楽しみ方だから俺たちは受け入れた。


「俺は鍛冶屋だ。 そしてここは俺の店だ。 俺が受ける依頼も、誰から受けるかも俺が決める。 決めるのは俺だ、お前らじゃねえ」


もっともなことだ、ここはオヤジの店、オヤジが全てを決める。当然のことだが、なぜか忘れてしまっていたこと。ゲームの中だから、簡単の常識がなくなってしまう時がある。自分の素性を相手は知らないからと、自分を偽ってしまう時もある。


「それが嫌ならここに来るな、俺は客も仕事も選ぶぜ」


オヤジが続ける、店の中に重い沈黙が流れる。


「あんたは自由国家がどうなってもいいっていうのか!!」


 「言い過ぎだヴィンセント! すまんオヤジ! 今回は俺に免じて許してやってくれ!」


 「お前に庇われる筋合いはないダイナス!!」


ヴィンセントに言われた言葉が、俺の冷静な部分を熱くする。なんでこんな事で友人と言い争いをしなければならないのか、イベントが始まるまでは、同じく騎士道を歩む友人だったのに、なぜこうもこじれてしまうのか。


 「ヴィンセントお前・・・っ! 行くぞ エルレイ!」


 「待て・・・ダイナス」


まだなにか言いてえのか、これ以上他人に迷惑かけて、他人のゲームを台無しにするのか。怒りで目がチカチカするような感覚に陥る。


 「エルレイおめえっ!!」


 「すいません親父さん、どうも頭に血が上ってしまっていたようです。 一度出直します、行こうダイナス」


一度オヤジに向き直り頭を下げ、団長に続いて俺も店をあとにする。少し頭を冷やすために、無言で歩いて行く。今は少し、この都市の喧騒が煩わしく感じる。帝国は雪国だから、路地に入れば人通りはほぼ無いと言っていいほどだ、帝国の空気が恋しくなってくる。


「すまない、ダイナス。 皆のことを馬鹿にされて、頭に血が上ってしまった」


団長が立ち止まり、こっちをまっすぐ見つめながら謝罪の言葉を口にする。出会った時からこいつは、こういう大事なときにこういう顔をしやがる。少し頼りない、仲の良いものにしか向けない顔。その真っ直ぐさに、俺は傭兵を抜けてまで騎士になった。


「なあに!気にすんなよ団長!そんな湿気た面じゃ、女も寄ってこねぇぞ!」


ガッハッハ馬鹿笑いをしながら、団長の肩をバシバシと叩く。


「だから僕は女だと言っているだろう!」


相変わらずこいつは、出会った時から同じ冗談で俺を笑わしてくれるやつだ。イケメン過ぎてムカつくぐらいの顔してやがるくせに、度々こんなことを言っては皆を笑わせている。


「ガッハッハ!! そんな男前な顔をしてるんだ、女っぽいが色男だろう。 第一そこまで胸がぺったんこなのに女なわけがねえだろう!」


また大声を出して笑う。団長は額に手を当てて、ため息をついている。キザなポーズも様になるこのイケメン様と、長くいても唯一わからないのは笑いのセンスだけだろう。


「もういい! 行くぞこの馬鹿脳筋!!」


団長が俺のことを脳筋と呼ぶ時は、決まって機嫌が悪い(何故か俺にだけ)。そういう時は黙ってついていくに限る。触らぬ神になんとやらってやつだ。


「あいよ!相棒!」


後日談になるが、その後「ヴァルアレンド騎士団」の団長ヴィンセントは、わざわざうちの詰め所まで来て、頭を下げていた。その時に和解の一戦を俺が取り付け、見事うちらが勝ったんだが。なんでもハルバード使いのトッププレイヤーが加わったとかで、その後の戦争で負けっちまった。エルレイ騎士団の無敗記録に土を付けたとかで、団長は燃え上がっちまって、狩りに明け暮れる毎日だった。

まあ、皆笑顔で良いこった。

 ゲームはこうでなくちゃな!

随分待たせて済まない。

プランBで行こうと思う。

プランBはなんだ?


追記

言い忘れてました。

次回からは弟子サイドに戻ります。

彼女の葛藤や嫉妬、様々な思いをご堪能ください。

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