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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第三章 鍛冶屋騒乱
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重國鉄のバトルアックス 後

 バトルアックスはもともと工具の斧から派生し、武器としての側面を持つ斧の総称であり、詳しい分類条件は存在しない。広義にはなるが、おおよそのバトルアックスは両刃のもので、全長は60cm程度であるということが挙げられる。またヨーロッパ近辺で使われていたものであるということに、工具としての利用は考えられていないということぐらいである。

 バトルアックスの中には、片刃のフランキスカや同じく片刃のヴィーキングアックス、そして暗黒時代における蛮族の持つバトルアックスなどが存在する為。一概にこれがバトルアックスである、という事を決定づけることはできない。


 バトルアックスは北欧においては、非常に大きな意味を持っており、特にヴィーキング等は非常に斧を大事にしていた。現在において斧と聞くと、どうしても蛮族のイメージが強いが、ビザンツ帝国の精鋭部隊である「ワリアギ親衛隊」の主力武器として長柄の斧が採用されていたのはあまりに有名だ。地域、国によってはこのように精鋭部隊の武器として、神聖にして強力な武器として扱われていた。

 バトルアックスは、金属防具で身を固くした騎兵に対して非常に有用であった。長柄の特性を活かし、近寄らせずに迎撃することが、歩兵達からすればどれだけ心強いものだっただろう。また騎兵の突進などに対しても、その質量と特性を持って迎撃をすることができることから、どれだけ長柄斧が優秀かわかるだろう。


 余談ではあるが、このようなバトルアックスの有用性から、改良や改造が行われ。後に銃器が踊りでるまで愛用されることとなる「バルディッシュ」や「ハルバード」が生まれたのである。


バトルアックスの戦闘法は単純で、普段は手の間隔を肩幅より少し広め程度に柄を握り、相手の攻撃を受け止めたり、受け流す。そして攻撃に転ずる時は、バットを持つように手の間隔を狭め、そして思いっきりフルスイングするだけである。こう聞くと「やはり蛮族の武器じゃないか」と思われるかもしれないが、よく考えて欲しい。先に鉄の塊の付いた棒をフルスイングしたとき、もしそれが目標を捉えなかったら。そう、この武器は威力の高さも然ることながら、隙の大きさも凄まじいものがあるのだ。

 この武器は戦いの流れや、敵の動きや仲間の動き等を鑑みながら、適した時に適した使い方を心がけなければならない、非常に直感的に理論的判断を求められる武器なのである。


 「師匠、どうしましょう」


 弟子の不安そうな声が耳に入り、目を開けて声のした方を見る。そこには声と同様に不安そうな表情を浮かべた弟子が立っていた。弟子は不安になると少しだけ内股になる癖があり、その時の腰から足へのラインはなかなか見所がある。

 

 さて話がそれたが、俺は今ジョンハンマーでの定位置であるカウンターに座っている。そして店内では俺と弟子を抜いて6人のPCがにらみ合い、そして口々に罵り合っている。

 どうも新イベントである戦争による弊害のようだ。このゲームにはいくつかの国が存在しており、その中でも中央付近に存在する「カルファンド自由国家」という国にジョンハンマーは店を構えている。カルファンド自由国家の特徴は、商業的な施設の規模が大きく天下の台所的な存在をになっている。今回はどうもカルファンド自由国家所属ののクラン「ヴァルアレンド騎士団」と隣国のアレスティレス帝国所属のクラン「エルレイ騎士団」の間で摩擦が起きているようだ。

 早い話がここは自由国家の店だから、帝国のクランはここで武器を仕入れるなとヴァルアレンド騎士団。そんなことは認められない、運営から禁止されてもいないことに従うつもりはないとエルレイ騎士団。正直そんな話はここではなく、各自勝手にやって頂きたいのが本音だ。ここは鍛冶屋であって井戸端でもなければ会議室でもないし、喫茶店でもなければ騎士団の詰所でもない、とにかくひたすら迷惑なだけだ。


 「おめえら、喧嘩は他所でしな」


 「何言ってるんですか! これは自由国家の利益がかかっているんですよ!」


 「はっ! 『自由国家所属騎士団の利益』の間違いだろ!」


 こんな時に限って、いつもはうるさいダイナスは壁に寄りかかったまま目を閉じて腕を組んでいる。喧嘩っ早いあのダイナスが、何も言わずに佇む姿は少し不気味だ。逆にいつもは冷静な隊長エルレイが熱くなって、頭に血が上っているようだ。


 「こんな奴らが騎士・・・か」


 「オヤジ・・・っ!」


 人に迷惑をかけるのはやめてほしいし、なによりこれはゲーム、楽しまなければそれだけ損をしている気がする。こいつらの言うこともわからなくはないが、もう少し大人の対応って奴をとって欲しいものだ。


 「俺は鍛冶屋だ。 そしてここは俺の店だ。 俺が受ける依頼も、誰から受けるかも俺が決める。 決めるのは俺だ、お前らじゃねえ」


 ここは俺の、俺と弟子の店だ。ここのことは俺と弟子で決めるし、個人のことは個人で決めるのが筋だ。


 「それが嫌ならここに来るな、俺は客も仕事も選ぶぜ」


 少々言い方がきつくなったが、これぐらい言ってやればこれはゲーム、楽しんだもん勝ちだと気づいてくれることだろう。


 「あんたは自由国家がどうなってもいいっていうのか!!」


 「言い過ぎだヴィンセント! すまんオヤジ! 今回は俺に免じて許してやってくれ!」

 

 「お前に庇われる筋合いはないダイナス!!」


 「ヴィンセントお前・・・っ! 行くぞ エルレイ!」


 「待て・・・ダイナス」


 「エルレイおめえっ!!」


 「すいません親父さん、どうも頭に血が上ってしまっていたようです。 一度出直します、行こうダイナス」


 頭を下げてから、2人は店から出て行った。急に突っかかられて、さらに自分たちのクランを馬鹿にされたりと、仲間思いのエルレイも引っ込みがつかなかったのだろう。


 「ヴィンセント、お前はどうする?」


 長く重い沈黙が、静かになった店内に広がる。ヴィンセントは一度大きく深呼吸をして、伏せていた目をこちらに向けた。


 「そう・・・ですね、今回は完全にこちらの落ち度でした、すいません」


 ヴァルアレンド騎士団の団長ヴィンセントも、自分の非を認めて頭を下げた。しかし、これは間違っている。


 「頭を下げる相手が違うんじゃねえか?」


 「はい、必ずエルレイ団長には謝っておきます。 俺もまだまだ、ですね」


 ヴィンセントの気持ちもわからなくはない、エースプレイヤーのいない騎士団で、チームワークでやってきたヴァルアレイド騎士団。かたやエース級が揃っていて、尚且つ装備も豊富なエルレイ騎士団。例えゲームであっても負けたくない、そんな奴らの意地の張り合い、なかなかに熱いものだ。


 「いろいろご迷惑かけました、いままでありがとうございました。」


 戦争で負ければ致命的ではないにしろ、商業的にも少々ペナルティーはかかるが、しかしそんなことはどうでもいい。こいつらにもゲームを楽しんでほしい、心の底からこのゲームを楽しんでほしいのだ。それが俺と道が交わらないものだとしても、どうか楽しんでほしいと思う。


 「ああ・・・」


 ヴィンセントは仲間に「行くぞ」と短く声をかけると足早に店の入口へと向かう。その後ろ姿に、本当にいいのかという思いがこみ上げる。本当にお前はそれでいいのかヴィンセント。日が傾きはじめ、人通りもまばらな路地に日が当たっている。そんな中に出ていくヴィンセントをこのまま行かせていいのか、いいわけがない。


 「ヴィンセント!」


 「っ!?」


 普段大きな声を出さない俺の声に驚いたようで、ヴィンセントがこちらに素早く振り向く。


 「またこい」


 「・・・っはい!!」


 胸を張って出ていくヴィンセントを見送る。ゲームであっても、人は成長するのだと信じたい。ヴィンセントがこれからどうなるかはわからないが、せめてこのゲームを楽しむ手助けを出来たらと思う。それがこのゲームの鍛冶師に与えられた、一番の仕事だと思っている。


 「鍛冶師は、最高の脇役じゃねえとな」


 俺たちは決して主役じゃない、あいつらがこのゲームのなかの主役。そんな立ち位置にはなれないけれど、立ちたい気持ちもあって。少し自嘲気味に笑いながら、小さく呟いた。


 「師匠は、かっこいいですよ。 私の中では主役です」


 「・・・そうかい」


 こちらを振り向いた弟子が微笑みながら語りかけてくる、大きな二子山を揺らしながら。弟子と過ごす日々のほうが、目の保養的にも良いだろう。


 「よし、バトルアックス仕上げるぞ」


 「はい! 師匠!!」

ちょっと長くなってしまいました。

お待ち頂いてた方が多くて驚きました。

これからもリアローフオンラインをよろしくお願いします。

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