鋼鉄のグラディウス
キャンペーンが終了し、とうとうイベントが開始された。
戦争の実装を前に、イベント第一弾として新マップが公開されたと同時に新しい武器のレシピも追加され、新モンスターが出現したことにより新しい素材も増えた。
実際に俺も何度か新マップには赴いて、一番下まで行ってよくわからん黒いドラゴンをシュタインやエリーゼ、時に弟子と一緒に狩りに行き、新しい素材やレシピ集めに奔走した。
その際に様々なレシピを発見し、やはり次のイベントに合わせて、戦争用の武器や防具が多く目立っている。
中でも俺の心に火をつけたのは、剣闘士の武器として有名なグラディウスだった。
銑鉄と軟鉄が混じった鉄材を使用し、その二つの特性を最大限まで活かした武器だ。
剣身は幅広で肉厚ゆえに壊れにくく切れ味もあり、そして先端は鋭角に尖っており刺突にも向いた武器である。
古代ローマにおける密集隊形を支え、遥か昔の時代にここまで合理的な進化を遂げていたという事実が、何よりもこの武器の強さを証明しているだろう。
共和政ローマ末期には、騎兵用に調整されたグラディウスである「スパタ」や「セミスパタ」と呼ばれるようになる。
ちなみにこの剣はヒスパニアが起源の剣で、剣が生まれた当初は「グラディウス・ヒスパニエンシス」と呼ばれていた。
グラディウスは、プブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・マイヨルが第二次ポエニ戦争中にヒスパニアへ遠征を行い、その時に導入されたのが始まりとされている。
グラディウスの威力は凄まじく、その惨劇による傷跡を見た敵を戦意喪失に陥れたとも言われている。
大口の注文が来た。
数少ない友人の一人であるシュタイナーが、あまりにも数が多かったせいで手が回らず納期に間に合わないと、数打ちを好まない俺の下に泣きついてきた。
最近グラディウスを打っていたが、あまりにも新しいレシピが多すぎたせいで注文が分散し、一つに絞って打ち続けることができなかった。
グラディウスは非常に強力な武器のため、作り方も非常にシビアになっている。
なにより鋭角なポイントの整形は、独特な難しさがあり、素延べの際幅広の剣身からどの程度鋭角にするのか、しっかりとビジョンを持って整形しないと失敗してしまう。
弟子も現在新しく発見されたレシピをまとめたり、インゴットを鍛えたりと、雑用的な事を任せている。
「こう言う仕事のほうが、役に立ってる気がして嬉しいです」
と言って弟子は笑っていたが、やはり剣を打てないのは辛いものがあると思い、今回の依頼に関してはジョンハンマー一派として剣を打つことにした。
「弟子、数打ち手伝え」
「シュタイン商会の依頼ですよね? どこまでやればいいですか?」
「そうだな・・・土置きからをやってくれ。そこまでを俺がやる」
「わかりました!」
すぐに鍛冶の準備に取り掛かる。
材料の整理や手順の確認、注文書の書き込み等々の処理は既に終わっている。
注文が入ったのは鋼鉄のグラディウス、本数は50本で無印の無強化状態とは言え、鋼鉄製の武器だから弟子には厳しいだろう。
弟子の技術はなかなかのものになってきており、鉄製なら最上まで打てるようになり、鋼鉄製については現在修行中で10回に7回は成功するようになってきた。
このまま順調に行けば、ひと月の間に上鋼鉄や火鋼鉄の鍛錬にも手を出せるかもしれない。
相変わらず弟子の飲み込みは驚く程早く、その早さには時々度肝を抜かれることがある。
「準備は出来たか」
「はい! いつでも打てます!」
ホドに火が入り室温の上昇した工房に入り、準備のためにせわしなく工房を動いている弟子に話しかける。
少しの間観察して、その二子山の豪快な揺れを堪能するのも忘れてはならない、目の良薬である。
まず弟子と二人で、鋼鉄のインゴットを作っていく。
50本に合わせ、今ある24個に対して少し余分になるように数を揃えていく、俺も人間だから希に失敗してしまうから、その保険として余分はいつも作るようにしている。
グラディウスの肉厚で、特徴的な剣身を鍛えていく。
数打ちは、ある程度荒くても良いため大急ぎで整形していく。
納期まであと二日しか無い為、素早さと正確さが求められる仕事だ。
剣身の長さは45cmで作っていき、幅は7cmで作っていく。
熱い鋼鉄をどんどんと叩いて行く。
本来数打ちは、型鍛造で打ち出しそれから形を整えるとう方法をとるが、俺型鍛造はあまりにも簡単なためやらないと決めている。
空締めまで終えた剣身を弟子に渡し、生研ぎからの工程を行わせる。
共同的な作業も、だんだん弟子が技術を付けてきたおかげで、任せる事のできる工程も非常に多くなって助かっている。
「頼むぞ」
「はい!」
最近弟子は、出来る仕事が増えてのが楽しいようで、毎日生き生きと鎚を振り回している。
一時期は伸び悩み、鬱憤を晴らすように新マップを共に走り回っていたが、今はその悩みも払拭されたようで毎日楽しそうだ。
生砥をする弟子を視線の端にいれながら、二本目を鍛え始める。
これはなかなか大変な作業だ、10本程度ならばよくシュタイナーから依頼が入るから、よく連続して打つが。
流石に50本となると先が非常に長い仕事だが、ここまで心が踊る仕事も初めてだ。
最近はてんで依頼が入らず、限られた時間の中で必要な条件を満たし、尚且つ最高の仕事をする。
それは仮にゲームといえど人の命を預かる仕事だ、その仕事に中途半端はない。
レベルやステータスの関係上装備できない武器でも、ランクを下げた最高の商品を提供する、これが鍛冶屋の誇りであり生き方だと勝手に思っている。
夕方から鍛えて、今日中になんとか20本を打ち上げることができた。
弟子の助けもありなんとか半分を打ち上げることもでき、明日にはなんとか全てを打ち上げて、明後日には作りこみや鞘を作る工程を弟子と共に急ピッチで仕上げればなんとかなるだろう。
「今日は疲れましたね、師匠」
「ああ・・・よくやってくれたな」
弟子の頭に手を置く。
最近何かと、弟子の頭を撫でているような気がする。
ゲームとは言えども、この手触りはやはり本物と同じような感触で、癖になってしまう。
あと弟子の頭の高さや立ち位置が丁度いい場所にあり、ついつい手を出してしまう。
「明日も頑張りましょう!」
「そうだな」
弟子のおかげで、このゲームでの生活も非常に楽しいものになってきた。
人と関わることは苦手だが、人と関わることが嫌いなわけではないから、こうやって誰かと楽しむことができるのがとても嬉しい。
MMORPGの醍醐味は人との交流だと、エリーゼやシュタイナーは言っていたが、それがなんとなくわかった気がする。
弟子を帰らせて、工房の掃除や様々な事務処理を簡単にこなしておく。
明日のためにも、今日は早く寝てしまおう。
明日は忙しくなりそうだ、そんな事を考えながら、俺はログアウトボタンを押した。
一週間近くお待たせしました。
第三部始まりました。
これからもリアローフオンラインをよろしくお願いします。
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