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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第一章 その男鍛冶師につき
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鋼鉄のロングソード

 表通りから少し外れた裏通りに「鍛冶屋ジョンハンマー」は存在する。

掲げられたプレートにはジョンハンマーのシンボルである三本交差剣が彫られ、表から見える中は少し薄暗く奥のカウンターには老兵一歩手前といった感じの男が腰掛けている。

中には入れば武器や防具、装飾品が分けられて並べてあり、奥のカウンター脇にある樽には下取りや売られたであろう武器が乱雑に刺してある。

注文する際は、まず店主に武具の種類と名前を告げ必要な素材を渡し、その後カウンター端に置かれている番号の書いた紙を手に取り店主に見せる。

店主が手元にある注文書に必要事項や値段を書き込み渡してくれば、一番下の欄に紙の番号とサインを書き注文完了、後日出来上がり次第依頼人に完成の連絡が届くという寸法だ。

非常に珍しい形態を取る鍛冶屋ジョンハンマー、その中からは今日も鉄を叩く甲高い音が響いている。


 真っ赤に燃えている鋼、一心不乱に振るわれる鎚、鳴り響く甲高い金属音。

何度も何度も鎚で叩かれた鋼は、やがてよく見られる両刃の剣へと姿を変えていく。

型鍛造ではなく自由鍛造、自分の技の見せ所とあってか男の右手にも力が入る。

男が打つ剣は「鋼鉄のロングソード」、取り回しがしやすく威力も高い中堅冒険者御用達の武器だ。

剣幅は4cm程で肉厚、血抜きが施され強度も上げつつ軽量化、また刺した時に抜きやすいようにと工夫されている。

長さは約95cmと少し長めで、戦いに慣れた中堅冒険者は間合いが伸びると喜んでこの剣を求める。

打ち上がった剣身を磨き上げ、ガードをしっかりはめ、ポメルもはめて外れないように熱して叩き接着する。

ポメルには「鍛冶屋ジョンハンマー」のシンボルである三本交差剣の彫金、グリップに加工した黒檀をはめ黒く染めた皮を貼り付ける。

そして最後に鞘は、硬い黒檀を黒く染めた革で覆い、鞘口は真鍮で気持ちばかり装飾を施す。

最後にもう一度刀を磨き歪みがないか、バランスがおかしくないかを確認する。

それから剣に油を薄く敷き、鞘へと納める、この時引っかかりなどで取り回しが悪くないかを確認する。

小気味のいい金属音が、鉄と炭と泥に塗れた工房に響く。


「完成だ」


 男は嬉しそうな声色で、そう呟いた。


「鍛冶屋ジョンハンマー」今やその名を知らないものはいない、と言われるほど有名な鍛冶屋。

「エリーゼ武具店」や「シュタイン商会」に並ぶとも称される武具の名店。

これはゲーム「リアローフオンライン」でNPCと勘違いされる男と、その周りのちょっと変わった友人達の交流記である。


 はじめは正直「なんだこの生産オワコンだろ」と思っていた、でもいつの間にかドツボにはまり極めていた。

極める気なんてなかったし、当然店なんか出す気もなかったし誰かに武器を作る気なんてさらさらなかった。

もともと友人等ができにくい性格だし、仲間内数人で楽しくわいわいやっているのが俺にあっていたし、他人と関わるのもあんまり好きじゃなかった。

この「鍛冶屋ジョンハンマー」をやるようになったのも友人との会話の中で生まれたネタで、所謂ノリで開いたものだった。


 友人二人との会話で「寡黙な職人がやってる鍛冶屋がない」という話題になった時に「ジョンが一番イメージがあっている」という理由で開いた店、それが「鍛冶屋ジョンハンマー」だった。

その二人や他の数少ない友人の援助もあり、路地裏にこじんまりとではあるが鍛冶屋を開くことができた。

職業は自分で名前を決められるので、金属全般を加工する鍛冶士である「メタルスミス」と名乗り、寡黙な職人プレイというロールプレイを行なっている。

流石に初心者用の武器まで作っていると、自分の遊ぶ時間が無くなる為入店レベル制限を35と設定している。


 先ほど出来上がったロングソードをロングソードが並んでいる台に並べる、最近一本売れたのでその補充として打った鋼鉄のロングソード+。

最近ではあまり売れなくなった剣がまた売れるようになり始めた、おそらく第十二世代の冒険者たちが中堅冒険者になってきたのだろう。

このゲームは発売方法にも少し特徴がある、いきなり全国販売がされた場合の混雑を予想し全国を六分割し、時期をずらして販売するという形をとった。

今回は二巡して手にした人達がようやく初心者を終え中堅へと上がってきたのだろう、これから少しだけ忙しくなりそうだ、男はそんなことを考えながらカウンターの上を整理する。

カウンターに腰掛け友人からの連絡と客を待つ、静かな時間を過ごしながら男は本型のウィンドーで素材の在庫整理を行う、この作業も鍛冶には必要不可欠だ。

そんな静かな店内にベルの音が響く、お客が来たようだ。


「いらっしゃい」


 ジョンは本から目を上げることもなくそう呟いた、少々無礼ではあるがあともう少しといったところなのでやってしまいたいからだ。

お客はおそらく二人組の女性だろう、コソコソと小声で話をしているようだ、武器の相談かはたまた別のことか興味がないので別段気にしないが。


「すまないが店主のジョンさんかな?」


 いつの間にかカウンターの前まで来ていたようで、丁度在庫整理も終わったジョンは本を閉じ目の前のお客に視線を送る。

片方は金髪で長い髪を横に流していて、優しい雰囲気でタレ目に豊満な胸所謂わがままボディーというやつか、もう片方は黒髪でポニーテール、凛々しい雰囲気で力強い目こちらも体型はグラマラスである。

こうやって話しかけてくる人は珍しい、紙に書けば何の問題もなく会話をわざわざする必要もない、話しかける必要のない相手に話しかけはしないだろう。


「・・・そうだ」


「少しお聞きしたいことがあるのだが・・・」


「なんだ?」


 非常にぶっきらぼうなのは勘弁していただきたい、この口調はパッシブスキルである「無口」の弊害なのだ。

やるからには徹底的にと、ネタスキルである無口を取得してまでロールプレイングゲームをしてるのは、おそらく数えられる程度ではないだろうか。


「私がレベル39で彼女が42なんだが、今行き詰っていて武器を新調したいんだいい武器はあるかい?」


「金色は騎士、黒いのは軽戦士か」


「そうだが、よくわかったな」


「・・・鍛冶師だからな」


 意味不明な回答をする、俺なりのギャグなんだがうけない、ビックリするほどにうけない、仲間内ではドッカンドッカンの大爆笑なんだが。

まぁこれは言い過ぎだがある程度のうけを取れるんだが、客に言って受けたことはないので所詮身内ネタでしかないのだろう。

何故か神妙な顔をしている二人組、そりゃそうかと思いつつ立ち上がる、久々に接客をしなければならないので少々面倒くさいがお仕事はしなければ。


「黒いのは戦士だから、おすすめなのは鉄のブロードソードに鋼鉄のショートソードだ、見たところ両方粗鉄製のようだな、取り敢えずショートソードを鋼鉄にかえて40まで上げてから鋼鉄のブロードソードに変えてもいいだろうし両方鋼鉄のショートソードでもいい、そこは好きずきだ」


「ふむ・・・なるほど」


「金色は騎士だな、騎士なら鋼鉄のハンド・アンド・ハーフソード別名鋼鉄のバスタードソードか聖銀のロングソード、盾は三本交差剣のカイトシールドか二本交差剣のヒーターシールドだな、戦闘タイプを考えて好きなように選ぶといい」


「はい、わかりました」


 取り敢えず仕事は終えた、カウンターに戻りもう一度本を開きペンを持つ、今度は次に作る武器の構想をねることにする。

メモ機能を使いどのような仕様にするかを考えていく、たしか今回の注文は聖銀のコピシュ、長さは長めという注文をうけたから55cmで作成するようにする。

紋章はリカッソに入れるとして、問題はグリップにはめ込む木材を黒檀にするか紫檀にするかである、鞘の皮を黒染にするかそれとも無染色にするかもここできる。

悩んでいるとお客が決めたようで歩いてきた。


「決めた、鉄のブロードソードに鋼鉄のショートソードにするよ」


「私は鋼鉄のロングソードと二本交差剣のヒーターシールドにします」


「毎度あり」


 顔も上げずにお代を頂く、出て行くとこを見もせずにメモ帳に書き込んでいく、久々に喋ったせいか気分がいい。

さてと、次のお客のために準備を整えないとな、色々足りないものが多いな最近革を扱うことが多い。

にしてもあの二人はよくあの装備で中堅まで行けたもんだ、なかなか根気がいる作業だろうな。

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