漢の筋肉
この鍛冶師に出会ったのはずいぶん前で、確かあれは丁度俺たちが国に仕官をして「エルレイ騎士団」を作った頃だった。
このゲームの冒険者や傭兵、騎士はそれぞれクランという一つの集団を作れるようになる。
それぞれに色々と条件があり、条件を満たすと騎士の場合は「騎士団」を作れるようになる、らしい。
正直そんなに頭が良くない人間だから、どうしても難しい話はわからない。
まあとにかく騎士団を仲間内で設立した際に、武器や防具をある程度統一しようということになり、シュタイン商会へと赴いた。
その時に店主のシュタイナーにそこまで作り込むなら、と鍛冶屋ジョンハンマーを紹介された。
行ってみると、その店は変な場所にあった。
妙にニッチな店が立ち並ぶ場所の一角に「鍛冶屋ジョンハンマー」はあり、赤いレンガ作りの壁にショーウィンドウには立派な鎧が陳列されている。
中にいる店主はどこか鋭い雰囲気を纏っていて、職人ってのを見たことはねえがあれが職人ってやつなんだろうな。
まあそれ以来よく贔屓にしてる店、それが「鍛冶屋ジョンハンマー」だ。
その日は、前の大型魔物の討伐クエストで壊れた武器を修復してもらう為に来ていた。
新人のミスを庇った結果、自分の武器を壊す結果になってしまったが、まあ最近火力不足を感じていたから新調するのも丁度いい機会だ。
オヤジがカウンターに腰掛けて、俺の鋼鉄のクレセントアックスを修復していく。
その様は相変わらず面白い、なかなか見られない鍛冶の現場を見れるのはここぐらいだろうし、その手つきは見事なもので小難しいことが嫌いな俺にはできねえことだな。
「上鋼鉄ってのはどうなんだ?オヤジ」
「・・・折れず曲がらず魔法もよく通る」
「魔法ってのは性に合わねぇな」
魔法はみみっちいからどうも苦手だ、男なら斧で相手を叩き切るのが良い、相手を叩き切る時の興奮は現実では得られないものだ。
「火鋼鉄なんてのはどうだ?」
ひこうてつ・・・か。
非行に走る鉄かなんかか。
「火鋼鉄?なんだそりゃ」
「上鋼鉄にファイヤードラゴンのウロコを合わせて鍛えるとできる鉄だ」
「そうか、でどうなるんだ?」
「マジックエンチャントによって相手を切りつけた時に、その切り口に対し特殊な魔法付与を・・・」
「手短に頼む」
ったくオヤジの話は小難しい話が多くて困っちまう、今のクレセントアックスを買うときもドイツがうんたら、傭兵がなんたらと言ってたな。
その時も手短にと言ったら「叩き切るのには最適だ」とわかりやすく説明してくれた。
「・・・切ったら火が出る」
「そいつをくれ」
切ったら火が出るとは、そいつは俺にピッタリだな。
叩きつけた時に、どうも何かが足りないような気がしていたし、ここでぶわーっとなんかねえかと思ってたところだ。
それに魔法使ってる奴等は、みみっちいくせになかなか派手なことしてくれるからな、これで対抗できるだろう。
「毎度、できたら連絡する。」
「オヤジ、よろしく頼むぜ」
そう言って店を出ようとすると、後ろから「おう」とぶっきらぼうな返事が届く。
俺も大概無愛想な奴だが、オヤジ程ではないし、今までオヤジが笑ってるところはおろか、表情を崩したところを見たことがない。
まあ、あのオヤジが笑顔で接客した日にゃ、多分世界が滅びる前兆かなんかだ。
数日後に連絡があって武器を取りに行った。
出来上がった武器は、今までとはまったく違う力を持ってるのがわかる。
そこらの店で売ってる武器や防具は、ここの店のに比べれば子供のおもちゃみてぇなもんだ。
ごちゃごちゃしたことはよくわかんねえが、
オヤジの武器は魂がこもってる。
武器や防具ってのは命を預けるもんだ、確かにこれはゲームだが、命を大事にしなくていい理由にはならねえはずだ。
っま、オヤジの武器はスゲェってことだ!
「上機嫌だな、ダイナス」
「おおエルレイか、見ろこれ」
「ずいぶんと手の込んだ武器だな、ジョンさんの武器かい?」
「ああ、やっぱオヤジの武器はすげえぜ」
「見ればわかるさ」
武器を磨きながら騎士団の詰所で待機をしていると、我らが騎士団長のエルレイが俺に話しかけてくる。
「火鋼鉄のクレセントアックス・・・っかー格好いいぜ!」
「君は相変わらず脳みそまで筋肉だな」
「お?よくわかんねえがありがとよ!」
「褒めてはないんだけどね」
こいつはいっつも小難しいことを言いやがる。
もっと気楽にやればいいっつうのに、何故か小難しいことばっか考えやがって、筋肉をもってすれば全部解決するっつうのにな。
ついでにもう一話です。
楽しんでいただけると幸いです。
あとハクナマタタありがとうございます。
筋肉臭い、書きたくない。
かゆ・・・うま・・・
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